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愛さずにはいられない:2024 Jリーグ ルヴァンカップ決勝 名古屋グランパス×アルビレックス新潟

Jリーグに関わるいろんな人の記憶に残ったのではないだろうか。そんな素晴らしい試合に当事者として現地観戦できたことを誇らしく思う。

新潟はいつものように4231と442の流動的な攻撃で守備は442ブロック。この日はプレスよりもブロックの意識が強かった印象がある。一方の名古屋は3421の布陣で攻撃は3142のような形でウィングバックをワイドに使いつつ永井のスプリントに特化したスペックを最大限に引き出す蹴り込みを行う。守備はやっぱり永井のスペックを最大限に活用した前線からのマンツーマンプレスと532 or 541ブロックとなる。

まぁまぁ俺たちの知っているいつもの名古屋だし名古屋にとっても知っている新潟だろうし、お互い変化球なしの直球勝負だったというのが試合全体の構図。全力と全力をぶつけ合う本当に素晴らしい試合だった。そんな最高の試合を時系列に思い出話を交えながら記録に残しておこうと思う。

試合は新潟ボールでキックオフ。

序盤3分くらいは名古屋に押し込まれて思うようにボールを握れなかったが、1:40には橋本がクリアを兼ねて左足でカーブを掛けたボールがタッチラインを割らずに残る。ここに谷口が走り込んでいたりすれば一気にひっくり返すというプレイが成立したのだが実際にはそうはならない。橋本は6:20にも魂の守備を見せて涼しい顔しながらピンチを未然に防いでくれる。新潟に来てくれて本当にありがとう!

名古屋はランゲラックにボールを戻したら裏抜けスプリントする永井に蹴り込む。ロングキック回数ナンバーワンのランゲラックだが名古屋の戦術がそうさせている部分は大きいし永井もちゃんと期待に応えるところが凄い。

名古屋の守備、真っ向勝負ということで新潟がいつも苦しめられているマンツーマン×ハイプレスを繰り出してくる。前回対戦時は本当に何もできなかったのは全新潟サポーターに強く印象付けられていることだろう。この日も偽9番で落ちて受けようとする小野やハセモが潰されまくる。

とにかく永井に蹴っとけ!な名古屋とそのボールを全部弾き返す新潟。マイケルと稲村が頼もしいのは当然なのだが橋本がエアバトルで結構勝てているのが凄い。蹴っとけ!蹴っとけ!と思わせて稲垣のミドルブッパだよ!というシーンが5:40頃に飛び出たりしてビックリする。

7分くらいを過ぎると新潟がボールを握れるようになってきてペースを掴む。小野が太田にサイドチェンジを通そうとするものの繋がらなかったりしたが、ハセモが中央でボールを持って運んで守備を寄せてからの外の谷口という流れでファーストシュートを放つ。ランゲラックのポジショニングと名古屋守備の連携が完璧すぎて唸るしかない。ボールはあっさりとランゲラックの手の中へ。映像を見返してふと思ったのだが、谷口のビックリニアぶち抜きシュートが飛び出る世界とかが存在したのかもしれない。

その後の前半8:00からのシーンは圧巻だった。新潟のサッカーを誰にでもわかりやすく説明することができるボール回しが数十秒に渡って続く。これには小野伸二解説員も「凄い… 」という言葉しか出てこない。これを当たり前にできるようになるまで5年間続けてきたのが俺たちの新潟だ。基礎を作ってくれたアルベルには感謝しかない。

そんなボール回しの中でボランチがフリーで前を向いた瞬間に割れんばかりの大歓声で後押しする俺たち新潟サポーター。ピッチ上の選手とサポーターが同じ絵を描けているとか本当に最高すぎるだろ。最後はボールを前に運んでからの小野クロスだったがハセモに合わず。ハセモはその後にオシャレな右足アウトスイングのキックでニアゾーンにロブを上げるが合わせることができない。ディス・イズ・ハセモなアウトサイドキックだった。

その後も押し込み続ける新潟はゴール前で主審にボールが当たったことによるリスタートから藤原が狭いコースをテクニカルな斜めパスで通して中央にスタンバイしている小野に預けると小野はそのままダイレクトシュートを放つ。これがコースも厳しくて結構強烈なシュートだったのだがランゲラックが弾き出す。小野のシュートも凄かったがランゲラックのセービングも凄かった。名勝負の予感がする。

その直後の13:30のシーンも新潟のサッカーを象徴するプレイだった。

橋本のパスコースの読めないキックと同時に宮本が内→外のダイアゴナルランで守備を連れ出してからハセモにパスを通すとハセモは守備を外すオシャレヒールで落とす。その落としたボールに走り込んでくるのは直前までオフザボールで囮になっていた宮本である。守備を引き連れたあとにキュッ!と戻ってゴールへ向かう宮本が頼もしい。シーズン途中に怪我で試合に出れない時間が長かったので本人も辛い時間が長かったことだろう。そんな感情を爆発させるかのような宮本の躍動感である。新潟に来てくれてありがとう!

その後も橋本から小野に預けたら小野もオシャレヒールでボールを流すがオフサイドになってしまったり、ハセモがハーフスペースでボールをオシャレなキックによるワンタッチで大外に逃したりと、とにかくオシャレ感満載の攻撃をやり続ける俺たちの新潟。田舎の年配×都会の若者という構図しか意識していないJリーグ公式煽りVを作った映像スタッフは新潟のサッカーがどういうものなのかを事前にリサーチしておいてほしかった。

新潟の攻撃が止まらない時間が長く続くが名古屋は一瞬の隙を見逃さずに自分たちのスタイルである堅守速攻カウンターを仕掛けてくる。狙いは当然永井という感じでサイドを爆速スプリントする永井にスルーパスを狙うが、残念そこはマイケルだ!ということでクリーンなスライディングタックルでボールを刈り取る。収穫する米を傷めないコンバインのように強く優しいタックルである。こんなのもう唸るしかない。この日のマイケルはこういった強くて優しいピンチの芽を摘むタックルを随所でみせており非常に安定感のあるプレーをしてくれた。

その後も攻め続ける新潟は阿部から前線に張っている谷口へ綺麗なロングフィードが通る。このフィード、距離も軌道もトラップも芸術点100点を与えたくなるような理想的なフィードだった。繋ぐというのはショートパスだけの話ではないということを体現できる俺たちの新潟が誇らしい。が、その後も名古屋の堅守速攻カウンターを受けてしまうのだが、そんなピンチを全部潰すのが橋本である。とにかく凄すぎる橋本。

徐々に押し込む流れを掴みつつある名古屋、21:05に和泉がシュートを放つもオフサイドとなる。その前の森島のパスがオシャレすぎてトキメキしかない。森島は名古屋サポからの人気絶大だろうな。他サポから見ても華やかで本当に楽しいプレイを見せてくれる。オフザボールもキックの質も洗練されていて本当に美しい。

押し込まれる新潟と前掛りになる名古屋、この状況ならばとマイケルが裏抜けランするハセモ目掛けてフィードを蹴り込むも名古屋センターバックに挟まれてしまう。それでも前掛りがちになる名古屋なので今度は秋山が引き込んでから太田にフィードを蹴ったりするし、ハセモ目掛けて橋本が質の高い高速クロスを蹴り込んだりもする。橋本ほどではないが小野もサイドに流れてクロスを上げる。名古屋が永井裏ポン狙いで蹴飛ばせば確実に回収してビルドアップに繋げたりもする。状況に応じて適切かつ効果的な選択肢を即時選択できる俺たちの新潟が誇らしい。

そんな新潟の良いところばかりが目立っていた時間が長く続いていたが、まさかという事態が発生してしまう。

起きてしまったことは無かったことにできないし忘れることもできないが、事実を受け入れて前に進むしかない俺たちの新潟。マンマーク×プレスをサボらずやり続けた名古屋の先制ゴールである。

失点直後、ゴール裏では間髪入れずにアイシテルニイガタの大合唱。俺も現地で声を張り上げたが後日録画で見たら、いやこれとんでもない声量だったんだな。とにかく応援しなきゃという意識が強くて実感無かったんだけどこれは本当に圧巻だ。

失点したあとも攻撃的なスタイルを崩すことなく攻めの姿勢を貫く新潟。良い時の新潟がよくやる形のサイドで二等辺三角形を作ったまま前進して守備に対してパスコース強制二択を迫るプレイも見せてくれる。最後はハセモがミドルを放つが枠を捉えられず。惜しい!

前半も30分を過ぎて新潟がゴール前で攻略方法を伺っていたシーンにおいて、最前線にいるはずの永井がとんでもないスピードで走ってきてボールを奪い去ってしまう。

この日の永井は攻撃要員であることは当然として、とにかく守備強度が超人的だった。その後の37分あたりでもゴール前でボールを持っているハセモの後ろからボールを奪ってしまう。長倉のフィジカルは色々と説明のつかない部分が多いのだが、永井謙佑35歳のアスリート能力も全くもって説明がつかない。偉大すぎる。

前半残り時間で果敢に攻め続ける俺たちの新潟。橋本のインサイドキックの表裏のお手本のようなプレイにより小野がゴール前でうまくファウルをもらってフリークックのチャンス、だったのだが残念そこはランゲラックと言わんばかりにランゲラックの手の中へ。このキックは宮本も意図したものではなかったような気がする。その後に稲村がモリモリとコンドゥクシオンで運んだりするも前半終了間際に名古屋に見事に崩されて追加点を奪われる。

これはもう名古屋の崩しを褒めるしかない。

宮本がボールに釣られて中央が空いてしまい前線に選択肢を2つ作られたことにより守備に迷いが生じたであろう流れで中央から突き刺されて失点。

ロブ落下地点の目測を誤ったであろう稲村だが、この経験が彼のフットボーラーとしての質を高めてくれるはず。シュートを撃たずに冷静にパスを選択した和泉も上手すぎたし決め切る永井も偉い。これは名古屋を褒めるしかない。

宮本がボールに釣られるのは猟犬型ボランチあるあるだし、そのスタイルがなくなったら宮本ではなくなってしまう。これからもスタイルをより極める方向で突き進んでほしい。

そんな形で前半が終了する。

これがリーグ戦だったらメチャクチャ沈んだ雰囲気になるだろうが、この日はタイトルの掛かった大一番である。伊藤涼太郎伝説をこの目で目撃している俺たちは絶対に諦めない!という雰囲気のゴール裏だったし、実際に2点差なら追いつけるんじゃないか?という勝ち筋は多くあったと思う。攻撃は形になっていたし、橋本クロスに長倉投入すればいけるだろと思っていた。ハーフタイムに自分で書いたテキストがこちら。

ハーフタイムが明けて後半が始まる。

新潟の変化としては秋山がサイドに流れながら組み立てるという頻度を増やしていただろうか。左サイドで秋山がボールに触る回数が多かったはず。

秋山は今シーズン名実ともにJリーグでナンバーワンパサーという称号を手に入れている訳だが、その道のりは決して楽なものではなかった。

2019年のデビュー戦があまりにも衝撃的すぎて新潟に本職ボランチが爆誕した!と全新潟サポーターが湧き立ったのは2024年の今でも良く覚えている。

その後は守備強度に難があるみたいな話をインターネットやSNSで色々言われながら出場機会を得ることができず、アルベル監督時代もスタイルはフィットするはずなのに思ったように活躍できずJ3の沼津や鹿児島へレンタル修行の旅に出てしまう。

鹿児島から戻ってきた2022年のシーズンだが、やはりアルベルが築いた新潟のサッカーにアジャストできず明らかに周りと噛み合っていない状況だったのは良く覚えている。あまりにも衝撃的だったので記録に残したくらいだ。

そういった苦しい時代を3年以上経てから開花したのが秋山の才能だし、秋山自身も本当に良く頑張ってここまでのキャリアを積んでくれた。筋トレもメチャクチャ頑張ったはずで当時守備が軽いと叩かれまくっていた姿は何も残っていないし誰よりも守備に走る試合だってあるだろう。結果が出なくても見守り続けたアルビレックス新潟というクラブの存在も大きかった。俺たちは秋山裕紀をいつだって諦めずにいた。

そんな秋山は後半開始直後に藤原→小野の流れからテクニカルなシュートを放つが残念そこはランゲラックとなる。ランゲラック、当たり前のように正面でキャッチして新潟のシュートのコースが甘いんじゃないかと思ってしまうけど正面にしか蹴られないようなポジショニングを守備と連携してやっているんだろうな。これはとんでもない安定感である。

後半開始直後こそ反撃の狼煙を上げた新潟だが、3分くらい経つと名古屋に押し込まれてしまう。長男じゃなかったら耐えられなかったというくらいにギリギリで防いでいたシーンもあったが勝てる時の新潟がやっているゴール前をガッチリ締める守備でなんとか凌ぐ。

名古屋は後半に入って守備を532ブロックで固めてくるだろうと思っていたら普通にマンツーマンプレス継続だった。俺の知ってるハセケン名古屋じゃない。これがタイトル決勝の熱量なのか。名古屋は守備の選択が当たって新潟のビルドアップはボールを引っ掛けられる頻度が多くなる。

51:30くらいに新潟はカウンターを当ててボールを保持するとリズムを掴んでいつものビルドアップで前進できるようになる。56分頃には良い縦パスが通ったりもする。その後、谷口がクロスを上げて太田が折り返し、中央に走ってきた藤原がミドルを突き刺した!まで全新潟の未来視で見えていたがシュートはバーの上。太田の折り返しを狙った谷口のクロスも太田の折り返しで落とす位置も完璧だっただけに藤原が一番悔しい気持ちだったはず。

名古屋は後半も永井を走らせるが永井にボールを供給する和泉がとにかく凄い。いつ失点してもおかしくないようなパスを何本も出してくるので結構な恐怖を感じた。そんな和泉と永井のホットラインを小さな巨人藤原が潰してくれるのが非常にたのもしい。藤原は現役引退する前もした後も新潟でずっと過ごしてほしい。

なんだかんだで攻撃のリズムは維持できている俺たちの新潟。後半65分に3人同時交代を行う。宮本、太田、ハセモを下げてダニーロ、星、長倉が入る。

これは新潟サポにしたら見慣れた光景だが、一時期この交代策が機能していないように見えたのかインターネットやSNSでボコボコに叩かれていたのが松橋監督である。

個人的にはそんなに毎回当たるわけないんだから別にいいじゃんとか思っていたのだが、成功率をカウントするとそこまで悪くないというか劇的勝利となる試合は少なくなかったりする。それはタイトルの掛かったこの決勝戦でも例外ではなかったというのは試合が終わったあとだから言えることなんだろう。

とにかく前に進まないといけない新潟は縦パスが多くなる。多くなるのだがヤケクソ気味で引っ掛かる訳ではなく全部ズバズバ通る。シーズン中の試合でもここまで連続で成功することはないんじゃないだろうかというくらいに縦パスが通る。

その中心にいたのは稲村と交代で入った星だろう。ここ最近フットボーラーとして一段上がった感じの星の縦パスがキレキレで推進力マシマシになる俺たちの新潟。65:00くらいの星→小野→ダニーロで攻め倒してコーナキックをゲットした場面はメチャクチャ盛り上がった。稲村に内定を辞退されないようにクラブは全力でプロテクトする必要がある。

その後も交代で入ったメンバーが躍動する。

特にダニーロはいつものダニーロなのだが、いつもの熱い感情がさらに倍になっていてボールを全く失わずにゴリゴリ中に入っていく。そこからインスイングのクロスを上げるのだがゴールを割れずというシーンを目撃するのだが、これはゴールの予感を期待せずにはいられないプレイだった。

今まで思ったように出場機会を得ることができなかったダニーロだけど、個人的にとても好きなフットボーラーである。モダンフットボールはインテリジェンスで動かないと機能しないなんて言われがちだが、感情的なプレイでフットボールを体現するダニーロを愛さずにはいられない。

その後、橋本の鋭いクロスに長倉が惜しい感じだったり稲村が最終ラインから縦パスをズバズバと通したりと、俺の中のゴール期待値が爆上がりした後半70:40、スタジアム中のオレンジが大歓声を上げるその時が訪れた。

2人に囲まれてもボールを失わないダニーロがゴリゴリとペナルティエリアに切り込んできて左足を振り抜いた先には俺たちのエース谷口園長!大歓声で大爆発する国立競技場!正体ドリブルとか懐ドリブルとかドリブルデザイナー系の話なんてどうでもいいわ!と言わんばかりのダニーロの感情に乗ったスーパープレイ!フットボールかくあるべし!!!!!!!!

谷口はJ3とJ2とJ1の全てで二桁得点した唯一の日本人ストライカーなのだが、この記録に至るまでの道のりは決して楽なものではなかった。特にJ1に昇格した2023シーズンにおいてJ1初ゴールを決めた時にはこのまま得点を重ねるかと思ったが、その後は全く結果を出せずに苦しんでいたりする。

2024シーズンやこの試合だけ見れば輝き続けていた谷口しか存在しないだろうが、そうではない谷口があってこそのこの大舞台のゴールである。新潟に来てくれて本当にありがとう!

このゴール、守備の裏に走り抜けて飛び込んだ谷口とそこに蹴り込んだダニーロが偉いのだが、自陣守備を離れて最前線に上がって名古屋の守備をピン留めしていたマイケルも偉いし谷口がスカっても俺がいるぜ!とスタンバっていた長倉も偉い。とにかくみんな偉い!よくやった!感動した!俺たちの夢はまだまだ続くぞ!

ゴールを決めた谷口、直後に小見と交代してこの日の仕事を終える。同時に小野が下がって奥村がピッチに入る。もうやるしかない。

その後も稲村や星の縦パスとダニーロのドリブルで名古屋を押し込みながらチャンスメイクを繰り返す俺たちの新潟。最終的なスタッツを確認したらシュート数が名古屋10本に対して新潟は22本だったようで、この時間帯の押し込み具合の力強さを証明している。

交代で入った奥村はとにかくキレキレだった。試合を重ねるごとにスタイルが明確になって質もグングン上がっている奥村だが、この決勝戦の一試合だけでかなりのレベルアップしたような気がする。

奥村のストロングは狭い場所でボールを受けてターンするというものになるが、この試合ではそのターンに加えてドリブルで中央に切り込むという選択肢を増やしていた。そしてこの中央切り込むプレイが効果抜群で攻撃力にバフを掛けていた。加えて稲村からのフィードに対して裏抜けするというプレイも見せたりもしてくれて、奥村は目が離せないフットボーラーの一人となることだろう。

後半74:55のシーン、斜めパス→斜めパスでゴール前に侵入するなどゴール前に圧力を掛けたりしながら小見がゴール前でファウルをもらってフリーキックを得るものの橋本の蹴ったボールは壁に当たってしまう。が、コーナーキックをゲットして星が上げたボールを最後は奥村がシュートまで持っていくものの枠の外。惜しい!このまま押し切れ!

その後、ダニーロがボールを持つととにかく盛り上がるスタジアム。ダニーロなら何かやってくれるはずという期待感が半端ない。そういうエモーショナルな世界に連れて行ってくれるダニーロが俺は大好きだ。

ガンガンいこうぜ!の新潟は橋本がミドルブッパしたり秋山のオシャレなアウトサイドスルーパスからの長倉シュート、落ちてくる奥村に阿部がズバッと縦パスを通してダニーロに展開など、ゴール裏サポーターの大声援に応えるように攻めまくる俺たちの新潟がとにかくカッコイイ。

攻撃に意識が行くと守備が薄くなるのはサッカーの基本的な構造なのだが、ここまで攻めまくる新潟に対して名古屋も引かずに攻めてくる。それでもゴール前の集中した守備で全部弾き返す俺たちの新潟。

名古屋サポからしたらなんで攻めるんだよ!引いてブロック組んどけよ!という気持ちだったのかもしれないが、この試合の熱量ならばそんな感情はどこかに消し飛んでしまうのだろう。この熱量に当てられたピッチ上の名古屋は守備よりも攻撃に重心を置いていた。ランゲラックのセービングが熱い!

後半88:20、この試合で質の高いコーナーキックを蹴り続けているレフティー徳元の左からのインスイングコーナーキックを弾くと小見が爆走してゴールを目指す。が、名古屋はそうさせまいと後ろから追いかけてファウルで止める。

その後もダニーロがゴリゴリ運んだりミドルブッパしたりして勝利への執念をみせる俺たちの新潟。時計の表示が消えてアディショナルタイムは6分と表示される。6分もあれば2点くらい余裕で入るというのは伊藤涼太郎伝説を体験している俺たち新潟サポは現実的な話として捉えている。長倉がスプリントしてコーナキックをゲットしてチャンスメイクとなるが橋本のダイレクトボレーはバーの上を通過する。惜しい!

アディショナルタイム92:55のシーン、森島にスペースを抜け出されてボールに触られてしまうが藤原がファウル無しでゴールキックにしてしまう。ファウルしないだけでも凄いのにコーナーキックを与えなかったという地味なビッグプレイである。

試合終了まで残り2分、攻めまくって押しまくる俺たちの新潟。全員がゴールに向かって攻めまくる。奥村もゴール正面にボールを持って行こうとターンを絡めてボールを動かす。秋山先輩に怒鳴られて縮んでいる奥村なんてもうどこにもいない。堂々としたアルビレックス新潟のアタッカーに成長した奥村である。

そして試合終了直前のワンプレイ、小見が強気にボールを前に運ぶと中山と接触したであろうと思われる形で転倒してしまう。が、ホイッスルは吹かれずにスタジアムは怒号の嵐。俺も当然叫んだ。

福島主審がインカムに手を添えるポーズをなかなか取らないのでファウル無しで万事休すかと思っていたら、しばらく時間を置いて福島主審の手が耳のインカムに当てられる。

福島主審の挙動を見守るスタジアム、オーロラビジョンにVARの文字が表示された瞬間に地鳴りのような歓声が巻き起こる。その後、インカムで交信する福島主審がOFRのために走りだすと更に大きな地鳴りを鳴らす3万人の新潟サポーター。OFRの映像が映し出されると小見の足に掛かっているのは明らかで、これをどうジャッジするかは福島主審に委ねられる。

62,000人が見守る中、福島主審が下した決定はペナルティスポットを指差すシグナルで提示される。スタジアムが壊れるんじゃないかと思うほどの大歓声。PKゲットだぜ!

PKをゲットした小見のプレイ、小見らしいプレイと表現することになるが小見自身はこのプレイに辿り着くまでに散々な苦労をしてきた。

小見自身はU-23代表に名を連ねるという2024年のトピックはあったが、サポーターの期待に応えているとは言い難いプレイでインターネットやSNSで叩かれがちな日々だった。

俺はというと、開幕直後このシーズンは小見がキーマンになるだろうと予想していた。ポジションレスサッカーの中心が小見になるだろうと予想していた。

がしかし、フリーロールという戦術で結果が思ったように出ずにフリーロールする小見に対する不満がインターネットやSNSに溢れかえっていたのが2024シーズンの序盤あたりである。

主に言われていたのは「小見が中央に入るとサイドの守備が薄くなるんだよ!」といったものから、「ゴール決めてないじゃないか!決められないんならやるな!」みたいな話である。

個人的には「うまくいかないなぁ」と思いつつも見守っていたのだが、U-23代表でも同じ動きをする小見を見て、これは新潟の戦術ではなく小見のスタイルなんだなと思うようになった。

その後、シーズン途中から中央に入る頻度が減って安定感が出てきたものの決定機を決めきれない日々が続き、今度はそっちの話でインターネットやSNSで叩かれることになってしまう。インターネットとかSNSのみなさん、本当に容赦ない。

そうやって不本意なシーズンを送っていたであろう小見だが、小見の特性はなんといってもサッカーに対するギラギラした態度である。俺イズムでエゴを出してサッカーしているときの小見がなんだかんだで一番輝いている。

うまくいかない時の小見はギラギラを忘れている時だし、プレイに迷っている時の小見は何も輝いていない。俺イズム全開でギラギラしている小見洋太が一番輝いているし俺たちはそんな小見洋太を見たいのである。

そんな小見洋太がこの大舞台でギラギラして輝きを放ってくれた試合終了直前のワンプレイがPKを獲得したシーンだし、試合後インタビューで「後ろに退かずに自分らしさを選んだ」とか「自分が蹴らないと後悔すると思った」というコメントを聞けた時は本当に嬉しかった。

この行動を結果に繋げたという事実は小見洋太のサッカー人生の大きな財産になることだろう。オレンジのユニフォーム着た3万人が一斉に総立ちである。

昌平高校時代から有名だった小見のPKキックモーション、まさかこの大舞台で初めて見ることになるとは思わなかった。そのうちにその機会が来るだろうくらいに全新潟サポーターが思っていたに違いないと思うのだが、そのいつかは初タイトルの掛かった最も重要な歴史的なひと蹴りという場面で訪れた。

スタジアム中の全員の情緒が壊れたであろう後半アディショナルタイム90+11分、俺たちの新潟が試合を振り出しに戻すことに成功する。もう泣きすぎてタオマフが涙でぐしょ濡れになってる俺がいる。

延長戦は両者引くことなく攻め続ける殴り合いの30分となる。この時間に山中とユンカーが出てくる名古屋は本当にずるい。先にゴールへ突き刺したのは名古屋で、交代で入った山中とユンカーが絡んだ結果となる。新潟サポの今日の歓声が凄いのは当然として、この時の名古屋の歓声も凄かった。名古屋のゴールに対して何も声を出せない俺がいる。

失点後は正直もうダメだと思っていた自分がいたのだが、ピッチ上の選手たちは何ひとつ諦めていなかったということを目の当たりにする。交代で入った選手が輝いているのは新潟も名古屋も変わらないのだ。

藤原が後ろから長倉に縦パスを通すと得意のボールコントロールとターンで前を向く長倉。奥村が中央に走って守備の意識を分散させると小見は左サイドでオフサイドに掛からないよう細心の注意を払って裏抜けを狙う。長倉は利き足とは逆の左足で「ここしかない」という極細のスペースにとんでもない精度でパスを通し、受け取った小見がアルビレックス新潟に関わる全ての人の想いをボールに乗せてコントロールショットを放つとランゲラックの腕の下をボールが転がり抜け、この日一番の爆音が国立競技場に鳴り響く。

ここまできたら結末なんて誰が予想できるだろうか。ゴールを決めた小見はすぐにボールを抱えて決勝点のハットトリック決めて小見洋太伝説を作ってやるくらいのギラギラである。小見なら決めてしまうんじゃないだろうかという期待をせずにはいられない。

その直後、マイケルの足が限界に達したためデンが投入される。ここまでの展開を読んでのことなのか交代枠をひとつ残していた松橋監督が偉い。

デンも他の選手と同様に新潟で順風満帆のキャリアを送っていたわけではなく、浦和から加入した2022年は直後から怪我が回復せずに夏まで試合に合流できずにいた。しかしながら、怪我が完治して試合に出ればJ1昇格のラストピースと呼ばれるまでに活躍してくれたというキャリアである。

デンが初めてピッチに立ったのはコロナ禍を経て声出し応援が解禁された2022年8月14日のことなのだが、他のクラブからしたらそんなの聞いてねぇよ!と叫びたくなる復帰タイミングだったことだろう。実質的に夏の補強となったし新潟のサッカーにフィットしすぎた。当時はサポーターが一番ビックリしたと思う。

そんなデンはこの日も献身的に守備を行い、新潟のスタイルを体現するように縦パスを通してゴール前のエアバトルでゴールを狙う。新潟が輝いている時、いつもそこにデンがいた。

双方最後まで攻め続けて決定機を何度か迎えるもののスコアは動かず、決着はPK戦へと委ねられる。

このあとの結末は皆の記憶に刻まれているとおり。長倉にここまで連れてきてもらったことには感謝しかない。長倉には怪我なく良いサッカー人生を末長く歩んでもらいたい。この試合で俺たちの人生に彩りを与えてくれた名古屋グランパスとアルビレックス新潟に関わる全ての選手、監督、スタッフ、サポーター、それ以外の皆も、末長く良いサッカー人生を送れますように。

本当に素晴らしい試合だった。

この日のこと

本当に楽しい一日だった。

決勝進出からチケット販売や新幹線増便など、それまでの盛り上がりから新潟が優勝する前提で過ごしていたせいか、「なんか遠足前日みたいだな」とか思いながら前日夜に準備していた。

翌朝に起きて朝食と身支度を済ませて駅まで車で送ってもらい、電車に乗って都内に向かって千駄ヶ谷に着くとユニフォームを着た人がたくさんいた。千駄ヶ谷でいつも鳴り響いている「お帰りの際のチャージ等は事前に済ませておいてください」のアナウンスも見慣れた光景だった。スタグルは道中に全然なくて国立開催のFC東京戦の方がお祭り感があったのは間違いない。雨も結構降ってたし。ただひたすらに国立競技場の麓に流れていく人たちに着いていった。

Eゲート目指すついでに外周回っておくかと思って歩いていると新潟のグッズ売り場を発見する。なんか記念品買おうかと思ったものの行列が凄すぎて断念するしかない。もうしばらく歩いているとJリーグの公式グッズ売り場があったので、ここならなんか空いてそうだなと思い商品を眺めると本革製ボンフィンというのが手頃な値段で記念品になりそうだと思い列に列に並ぼうとするもやはり行列で断念する。本革製ボンフィン、好きな文字を入れられてその場で手作りということでとても魅力的だったんだが。アルビとグランパスのマスコットも文字に選べるというスペシャルぶりだったのでネットで事前注文しておけば良かったと後日ちょっと悔やんだ。記念品の代わりに写真残せば別にいいかということでスタジアムに入る。

E6ゲートの手荷物検査を潜ってQRコードをスキャンしてもらって3層に上がるとALBIWAYの号外を配っていた。1枚もらってあとで読むことにする。

その後、まずは国立にきた時のルーチンにしている写真を撮る。国立に来たら必ず撮る構図なのだが、3層ゴール裏の真ん中の手摺りから撮ると1層2層のゴール裏と建築物としての国立を象徴する木造の屋根と開放部分、その下に広がるトラック部分という上下左右対象のシンメトリーな構図で撮れる。広角レンズで撮らないと全部入りきらないのだが今時のスマホなら余裕で同じ絵を撮れたりするんだろうか。

国立に来たら必ず撮影する構図。雨空もそれはそれで良い雰囲気だ。

早めに昼食を済ませておかないと並ぶことになるなと思い、一番近くに売っていたカレーにしようと思ったら直前で売り切れた。しょうがないのでメインスタンド側に歩いてケバブライスを買って戻るついでにウィンナー詰め合わせを買った。席に戻って食事を始めたのだが、ケバブライスが冷めていて安い方のピタサンドにしておけば良かったと自分の誤った選択に凹んだ。ウィンナーも量が多すぎたので食べ過ぎとなり試合開始前にちょっと気持ち悪くなった。新潟のピッチやベンチのみんなには選択を間違えてほしくないな、みたいなことをなんとなく考えた。

食事も終えてAlbiWAYを読むとお馴染みのライターのみなさんの文章が並んでいるが、どれも本当に気持ちの入った熱い文章だった。特にktmrさんの30年の重みを感じる文章を読んだ時には絶対に優勝してもらいたいと思わずにいられなかった。AlbiWAYを書いて編集して現地で配布しているみなさんの活動にはリスペクトしかない。継続することの大切さをクラブと共に体現しているのがAlbiWAYなのである。

席に座って待っているとゴール裏でコレオの説明に回ってくれる人たちが声を張り上げている。選手入場直前に掲げて、国歌斉唱でいったん下げて、その後に再度掲げる、そうすることで綺麗なオレンジブルーのストライプになりますという説明だった。俺の席はオレンジのパネルだったのだが、今日はストライプのコレオになるのかとこの時知った。そしてビッグフラッグも3層の中央に準備されていた。どんな絵になるのか想像できなかったんだけどすごく綺麗なコレオになっていた。

そんなこんなで時間も経過して選手が会場に入ってくる映像が流れて会場が沸き立ち、その後しばらくしてキーパー練習が始まる。航斗コールと吉満コールと一発目のチャントで既に涙腺崩壊。泣かずにはいられない。20数年間長かったな。コレオ掲げて歌ってる時、涙を拭くこともできないしアンセムはいつもよりメチャクチャ長い時間歌うしで色々大変だった。

席の隣には単独できているであろう男性と小学生くらいの女の子を連れたお母さんが座っていた。試合中にコミュニケーション取ることもないだろうと思っていたのだがゴールが決まったら手を叩き合って喜んでいた。隣に座っていた女の子は小学生の低学年くらいだったと思うのだが120分間集中して立ちっぱなしで試合を見ていた。息子を連れて初めて行ったスタジアムの日のことを思い出して懐かしくなった。この日の景色が彼女の人生に良い影響を与えますように。

本文に書けなかったのだが、阿部の気持ちはエルゴラ特別号に十分に書かれていた。新潟のサッカーをピッチの中でも外でもサッカー以外でも体現する阿部の存在はクラブにとって本当に欠かせない。そして、この日出場がなかった吉満、史哉、ゴメスについても彼らがいなければここまでの道のりは絶対になかった。

キーパーに関する過去の記事、これは藤田のときの話になるが新潟のキーパー像は明確で阿部はそれを体現している存在である。この日も鋭く正確なフィードをサイドに何本か蹴っていた。これからも熾烈なキーパー争いを繰り広げて切磋琢磨してほしい。

吉満についてはなんといっても長崎戦での出場だろう。登録ミスという滅多に起きない場面に対応した吉満は安定したセービングで勝利に導いてくれた。この試合がなければ決勝の地を踏むことだってなかったのかもしれない。

史哉については、できることなら決勝で阿部と同じピッチに立ってくれたら嬉しかったというのが本音だが勝負の世界ということでそれは叶わず。それでも彼の人生、サッカー人生ではなく彼自身の人生にとって大きな意味をもつ試合のひとつになったのではないだろうか。これまでも出場すればハイパフォーマンスを出し続けていた史哉なので、この試合でも出場すればきっと素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたはずだしそうなるように準備していたはずだろう。史哉にはサッカー人生だけではなく末長く良い人生を歩んでほしい。

そしてゴメス。怪我もあって今シーズンは出場時間が限られていたが出場すればハイパフォーマンスを見せてくれたし新潟のサイドバックはどうあるべきかを体現してくれていた。そして誰もが知っていることだが、試合に出れなくても新潟のキャプテンとしてここまで率いてくれたことには感謝しかない。この日もロッカールームや円陣の中心で皆を鼓舞する姿がInsideなんかで見ることができたのだが、本当に頼もしいキャプテンである。札幌の地を離れること、離れたことに関してはいろんな感情があるだろうけど、新潟のキャプテンとして今この場所にいてくれることに感謝しかない。

試合終了後、スタジアム内の写真を撮って回る。

試合が終わって人が全部捌けて誰もいなくなるスタジアムが好きなのだが、国立のスタッフが「帰れる奴は早く帰れ」みたいなアナウンスをしてくる。まぁ当然だ。祭りのあとみたいな雰囲気のスタジアムが好きで写真に撮るのだが、この日は雨ということもあって思ったような写真が撮れなかった。ハイスペックのカメラが欲しい。

試合が終わったら最前列からの景色を撮影したりする。
祭りが終わったなと実感する。
土砂降りの雨でも国立なら問題なし!ということを確認できた。

ちなみに、この記事のバナー写真はPK戦が終わった直後のもの。ゴール裏の全員が手を上げてすぐにアルビレックスコールを始めた時の場面。

PK戦終了後にアルビレックスコールで選手たちを称える俺たち新潟サポ。

時間は試合開始前に遡るが、当日手に取ったマッチデイプログラムを席に着いてから読んだ際に「フットボールとはクラブに関わる全ての当事者の人生そのものであって誰かの作品なんかじゃない、作品なんて言葉で表現していいわけないだろ!」ということを考えてしまって高揚した気分を台無しにされかけたのだが、そんなネガティブな感情をこの試合は全部吹き飛ばしてくれた。本当に素晴らしい試合だった。

アルビレックス新潟の中野社長が秋春制の議論の中で「フットボールとはそういうものなのでしょうか」と発した言葉の重みは偉い人には絶対に理解できないことだろう。

試合翌日にアルビレックス新潟は選手も疲れているだろうにサンクスフェスタを開催してくれたのだが、写真だけ見ても凄く良い雰囲気が伝わってくる。千葉の配慮?も相変わらず良い。

Xで検索掛けると長倉がPKを決める動画がたくさん出てくるんだけど、あの景色は本当に素晴らしい景色だし、フットボールの素晴らしさが凝縮されていると思う。モバアルZの後日談としてこのPKの経緯が語られていていたのだが、予想はしていたものの本当に良いクラブだなと再確認した。

何度も繰り返すことになるが、本当に素晴らしい一日だった。

「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。