『Calling』制作の経緯など
『Calling』制作の経緯です。ライナーノート代わりにでも読んでください。
これまで出たインタビューなどでお話ししていますが、今回、いくつかのタイミングが重なって録音に至りました。
最初のきっかけは2020年7月19日、池袋のレコーディング・スタジオStudio Dede(デデ)からの高音質4K配信ライブです。
2020年4月から6月中旬まで、仕事がゼロの日が続きました。
私も自宅からの配信ライブなどをしていましたが、デデがレコーディング・スタジオならではの価値ある配信をできないかと"Tokyo Basement Sessions"シリーズを企画し、私もこのデデで録音した『Music in You』(2011年リリース)のトリオで参加することになりました。
レコーディング・スタジオでのライブ配信は今までに全くない経験で、最初は手探りでしたが2時間演奏しているうちに徐々に慣れ、ライブ終了後にはメンバー全員で「もう少しやりたい」「もう一回やりたい」と話していたんですよ。そこから、頭の片隅に「デデでもう一度、このトリオで」と置いており、機会を伺っていました。
そしてその2ヶ月後の9月、私がお世話になっていた神戸のライブ・スペースCREOLEが閉店します。
この閉店はパンデミックの影響ではないのですが、同時期に沢山のお店がお別れもできないうちに閉店し、もう帰るところが無いんだという寂しい気持ちが徐々につのっていきました。
何が辛いって、演奏の場所が奪われるとか自分の仕事が減るということじゃなくて、心の拠り所とか軸が無くなっていくことですよね。実家がなくなったらこんな感じなのかなと想像します。
この状況も今しかないことだろうと思い、その頃から五線ノートを持ち歩いて、新しい曲を沢山書いていきました。
そして11月、CREOLEのマスターが亡くなられました。
2003年開店時からこれまでを振り返り、マスターが傾倒していたキース・ジャレットの曲にほとんど取り組んでこなかったなと思い、「Country」や「My Song」みたいな曲が書けたらいいなと思って書き始めたのがアルバムタイトル曲の「Calling」でした。
当然、これまでそんなに真面目にキースに取り組んでこなかったので、そのような曲は書けません。書き終わったら、思っていたのとは違う曲になりましたが、結局自分にあるものしか出ないよねと思って、曲の出来自体には納得していたことですし、今録音してしまおうと決心し、録音日程を組んだ、という経緯です。
12曲録音し、収録したのは8曲。
ボツになった4曲は、「Calling Outtake」としてiTunes StoreとOTOTOYのみでダウンロード販売しています。
2020年秋にノートを持ち歩き出して作った曲は、「Indication」、「Calling」、「Folds Of Paints」、「Etude」、「Blue Badis」、「T.T.T.T.T.」の6曲。
どの曲も、『Shift』や『Music In You』の時のような、複雑な和声進行や仕掛けのあるものではありません。
NHORHMで散々複雑なアレンジを考えていたことの反動もあると思うのですが、去年は世の中の状況的にも複雑なものを書く気分には全く慣れなくて、決まったフォーマットで強度のある曲を書きたいという欲求が強く、全てストロングな何かで終始通した曲です。
決まったフォーマットとは、32小節だったり、AABA形式だったり、ABAC形式だったり、3部構成だったり、旧来から主にアメリカ音楽で使われている構造形式です。
そして、その伝統的でシンプルな構造に乗せるためには、しっかり考え抜かれたメロディでないと構造に負けてしまう。同じ構造で名曲がいくらでもあるので、あえてその俎上で作るのは非常に大きな挑戦です。しっかり推敲を重ねました。
〈強度〉〈ストロング〉って言葉にすると特別なことに見えますが、音楽に詳しくない人が「あの曲ってどんな曲だっけ?」と思った時に思い出せる曲、パッと一節歌えるようなもののことだと思っています。(今は)
また、ジャズ曲の強度の一側面としては、〈演奏するプレイヤーが実力を発揮でき、アンサンブルの可能性が開かれるコース作り〉という課題もあります。相手にいかに自由に考えてもらえるか、優秀なレーサーに走ってもらうためのコース作りというのも、ジャズ作曲の非常に面白いところだと感じています。
個人的な信念として、〈本編のフォーム以外の、全く別の2コードなど簡単にしたソロセクションを付ける〉という作曲は、固定バンド以外ではやりたくないと思っていますし、意識してやっていません。
それはジャズというルールを変更してしまうことに他ならず、私は至らなくてもジャズ・ミュージシャンでありたいと思っているので、ジャズのルールである〈一度演奏したテーマを変奏していく〉という形式は守りたい。
というか、テーマを通ったのに別の話としてソロを始めてって言われたら、何を演奏すればいいかわからないですしね。
『Calling』のトリオでは、過去2枚CDをリリースしていますが、バンドサウンドではなく緊張感あるセッションという方向でやっているので、ライブ前のリハーサルもほとんどしないし、ジャズの〈一度演奏したテーマを変奏していく〉形式でないものは、「Standing There」「Unfolding Universe」と「Kinora」以外は実は全くしていないんです。
逆に、Parallaxというバンドの方では、本編のテーマからどんどん別展開ということは頻繁にやっており、リハーサルが必要な音楽ばかりやっています。必然的に、譜面も長くなります。
両方ともピアノトリオですが、聴いてくださる方にも表面的に違いは感じて頂いていると思うのですが、実は一番大きく自分が切り分けているのが、この部分だったりします。リハーサルをする音楽か、しない音楽か。
今回の『Calling』は、同メンバーでの前作『Sympathy』『Music In You』よりも、よりシンプルな曲でその場で演奏できる曲ばかりになりました。
本編には収録できなかったけど「Blue Badis」は特にその点でよく書けたかなと思っており、最近の曲の中では一番出来が良いと思っています。
「Folds Of Paints」は、よくよく推敲して、自分で思ったようにストーリーが描けた。これは私のPieranunziマニアというバックボーンがないとできないものだと胸を張って言えます。
「Calling」は、最後まで呼びかけ続けるモチーフで完徹できて、肉声に近い歌ができたと思っています。
9月にリリースしたものの、以降CD発売ライブというものを一本も入れておりません。
今この状況なので、あまり大きなライブを入れることが躊躇われてしまうことと、そもそも〈今のこの特異な時期に書いたものを録っておこう〉という現在の記録と思っていた部分が大きく、通常のCDリリースの時のようなCD発売ライブは別にしなくてもいいかな、とも思っています。
「CD発売ライブはいつですか?」と、あちこちで聞いてくださったりメール頂いたりするので、ちゃんとした良いお返事ができなくて申し訳ないのですが、安心してできる条件が整ったら考えたいと思っています。
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「Calling / Hitomi Nishiyama Trio」
コーリング / 西山瞳トリオ
税込定価: 2,970円(税抜 2,700円) 紙ジャケット仕様
品番: MT-10
レーベル: Meantone Records
発売日: 2021年9月15日 ※ライブ会場では7/23より販売
販売: ディスクユニオン
西山 瞳 Hitomi Nishiyama - piano
佐藤"ハチ"恭彦 Yasuhiko "Hachi" Sato - bass
池長一美 Kazumi Ikenaga - drums
[収録曲]
1 Indication インディケーション (作曲:西山瞳) 10:21
2 Calling コーリング (作曲:西山瞳) 7:03
3 Reminiscence レミニセンス (作曲:西山瞳) 7:54
4 Lingering in the Flow リンガリング・イン・ザ・フロウ (作曲:西山瞳) 6:19
5 Etude エチュード (作曲:西山瞳) 6:25
6 Loudvik ルードヴィック (作曲:西山瞳) 8:31
7 Drowsy Spring ドロウジー・スプリング (作曲:西山瞳) 5:19
8 Folds of Paints フォールズ・オブ・ペインツ (作曲:西山瞳) 6:36
All Composition & Produce Hitomi Nishiyama
録音日: 2021年3月30、31日 Studio Dede
録音、ミックス、マスタリング: 吉川昭仁 Akihito Yoshikawa
[予約サイト]
diskunion / Tower Records / Catfish Records / Amazon
※ライブ会場限定特典として、CD未収録テイク映像のQRコードを差し上げます。
※サブスクリプション・サービスでの配信は、当面の間予定しておりません。
※iTunes Store、OTOTOYなど、ダウンロード販売のストアはこちら。
[メディア]
9/24 雑誌「ジャズジャパン vol.134」CDレビュー掲載
9/15 Mikiki インタビュー掲載「西山瞳トリオ『Calling』久しぶりのトリオ作で追い求めた、音楽の〈普遍的な強度〉」
9/14 雑誌「ジャズライフ」CDレビュー掲載
9/7 ディスクユニオン 新譜ニュース
9/1 JJazz.Net「Pick Up」
8/30 タワーレコード 新譜ニュース