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今年聴いたもの2024年

毎年恒例、今年聴いて良かったものリストです。
決めたルーティンをやめられない自分として、今年も書きました。
YouTube配信もまさにそれで、コロナ禍から月一回、いまだに配信しているのは、やめられないからです。皆もうやめてるよ!
特に「ベスト」と付けていないのは、滅茶苦茶好き!というより、もう少し客観的に聴いている部分が大きいからです。ですので、沢山音源を聴いた中で自分に引っ掛かったもの、という感じ。素晴らしい作品です。
ジャズとメタルが混在して書いていますが、両方聴いて下さい。



Eyolf Dale『The Space Between Two Notes』

今年、ジャズ系で一番興味深く聴いたのは、こちらでした。
コード進行は、真新しいことは特にないですが、楽器の使い方、質感、素晴らしいです。シンフォニック・ジャズ、ゆるやかな流行がありますが、マリア・シュナイダー・オーケストラのように、良い音楽である以上に「その場にマジックを起こす」ことができるのが、オーケストラや大編成のミラクルだと思います。人間の力を、いかに上手く束ね、飛躍させることができることができるか。この音楽は、きっと生で聴いたら、マジックを起こせる類のものだなと思って聴いていました。2月にこのピアニストは来日するので、聴きに行きます。


Blood Incantation『Absolute Elsewhere』

びっくりの怪作ですよ。なんだか凄いものを見た、という感じで、ほんと、「なんだこれ」と思いました。
プログレファンにも聴いてもらいたい未来がここにあると思います。
Mikikiに書きました。
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/40229


Taylor Eigsti『Plot Armor』

とてもパワフルな、素晴らしい作品だと思います。
めちゃめちゃ若い時から活動しているので、発表されるCDを聴き始めてから結構経っていると思うのですが、どんどん厚みをもって音楽が大きくなっていき、本当に素晴らしいですね。このアルバム、実は大きな編成のアレンジですが、核のコンボに奉仕するように本当に自然に使い、ジャズのエネルギーを増幅させるアレンジの妙にも唸らされました。私が自分のプロジェクトをセクステットではなくピアノトリオ+3と言い張っているのも、そのように他楽器を使いたいからで、とても良い目標が持てました。

Tigran Hamasyan『The Bird Of A Thousand Voices』

この新譜、とても良いのですが、色々考えさせられたんですよ。
とあるSNSに書いたことが、それだけでいいかなという内容なので、こちらです。

ティグランの新譜を聴いていると、ジャズはその言語特性ゆえに、本質的に印象派にはなりえないんじゃないかと思うし、 ストーリーテラーになろうとするとプログレッシブ・ロックとの境目がかなり曖昧になって、言語より物語が先行することで失われるものも多くあるなと。 ティグランはいつもその本当にギリギリのところにいて、存在自体が面白い。


Opeth『The Last Will And Testament』

元々そこまで好きでもなかったオーペス、評判が良かったので聴いたら、凄い作品でした。いつも、曲調よりも演奏が明快でキラキラ聞こえすぎていて、居心地悪かったんですよ。それが、今回は全体がダーティで良いです。
最後の曲、好きだなあ。
Mikikiに書きました。
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/40229


Geordie Greep『The New Sound』

このアルバムについて、あまりにも何度も「西山さん聴いた?どう思った?」と意見を求められ、なんでblack midi好きじゃない私に聞くのと思いつつ、結果的に結構聴きました。
そう、black midiは全然好きじゃないというか、むしろ苛っとするところすらあり(笑)、なんでジョーディー・グリープのことなんか聞かれるのって感じだったんですけど、アルバムで聴いてみると、かつてのジャズに対するピュアな憧憬が溢れ出ているところが、嫌いになれません。ジョーディ・グリープ、良いヤツじゃね?と思いました。
Mikikiに書きました。
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/40229

Enrico Pieranunzi『Hindsight』

リユニオンということで、前には進んでいない、懐かしい温度感。収録曲も同窓会的。でもやっぱり嬉しい。最高のトリオのリユニオンですから。
こちらに書きました。
https://note.com/hitominishiyama/n/n84fccafc72ff


LADY GAGA『Harlequin』

レディ・ガガのすることは、なんでも聴きたいし見たいです。
映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のインスパイア・アルバム。映画が歴史的大コケをしたので、このアルバムに対する注目も下がったかもしれません。映画はジョーカー続編として良い落とし前をつけたと思いますし、ガガのスター性が抜群で、ミュージカルシーンの圧倒的な存在感と、古いジャズ・スタンダードに新しい意味づけをするような歌唱に、虜になったのでした。
このアルバムは、アメリカのエンターテイメント(ただし白人側の)を受け継ぎ、その圧倒的分厚さ、体力の高さみたいなものの象徴としてのエンターティナーであるガガと、どんなスターがどんな時代に歌ってもなお古びない、アメリカのスタンダード曲が聴けます。とても良い作品。どこか物悲しいんですよね。


Bring Me The Horizon『Post Human: NeX GEn』

Mikikiに書きました。https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/40229
もうすでに横綱の風格。記事にも書いたとおり、色々この系のコード進行やメロディ作りを聴いた一年だったので、まとめ記事のために聴き直すと、「やっぱBMTH強いわ」という感想です。あえて言うなら、このジャケットはあまり好きではないです。


Immanuel Wilkins『Blues Blood』

デビュー作『Omega』がリリースされた年も、その年の印象的な盤に挙げていました。今作は、自分のサックスが後景となって作品が進んでいきます。

少し回り道をして話をしますが、私はこの一年、近年のメタルに見られる「救済感」とでも呼ぶべき現象に大変興味を持っており、それをどう自分のフォーマットであるジャズ・ピアノ・トリオに落とし込むことができるか、曲を書き、実践してきました。まだ、全然形になっていませんが。

近年、新しい世代のヘヴィメタルが、個人の内面や個人の痛みに向き合い、他者に寄り添う姿勢をもつものが顕著に増えてきて、マッチョな姿勢から解放されてきている。「救済されたい/救済したい」というエネルギーを感じて、非常に面白いことだなと思っているんです。少なくとも、私が高校生でメタルを聴いていた時に、そういったものは無かったけれど、この10年ぐらい、気が付いたらそうなっていた。
「救済感」の音楽的な紐解きと考察は、私のこれからの音楽を作っていく範疇なので書きませんが、同時に思うことは、「若いメタルはマッチョから解放されてきている。翻って、若いジャズはマッチョから解放されているのか?救済感があるのか?」という問いでした。
(以前どこかに書きましたが、私は、メタルよりジャズの方が精神的にマッチョだと思っています。)

その問いの答えが、このイマニュエル・ウィルキンスの作品だったかと思います。
少なくとも、他者に寄り添う、救済という表現において、「量」が問題ではないということ、繰り返し伝えることが大事であること、質感の問題であること、そのような答えを得たと思っています。
ただし、それは圧倒的にジャズの歴史を学んだ上で、基礎体力、基礎ブルースがあった上での表現でないと、全く意味がないことです。
昨今UKジャズが興隆を見せていますが、ダンス、クラブ文脈での音楽は、いくら格好が良くても個人的に全く食指が動かず、その原因の一つとして、この基礎にあるブルースというものがあまり感じられないからで、イマニュエル・ウィルキンスは、その歴史とブルースの大事さを思い知らせてくれます。
まだ20代ですよ。そこから滲み出て世界に伝える、寄り添いとブルース。「ブルースって、ずっと救済だったんだろうな」などと、一周回って元に戻ってきた年末です。
かなり回り道をしましたが、後世に残る素晴らしい作品だと思います。


結局一番聴いていたもの

やっぱり自分の作品です。
宣伝かい!と思われるでしょうが、もちろん宣伝もしないといけないんですけど、音作りのために聴く時間、突っ込んで細部まで聴く密度、それは、他の盤と比べ物にならないんですよ。
『Echo』(2024年新譜)と『Dot』(2023年発表)、二つで一つの作品ですが、『Echo』は目線が優しいもので固めていて、触感は穏やか。それも、長年付き合ってきた素晴らしいミュージシャンと演奏したおかげです。直接の音の応酬として形として聞こえなくても、一緒にいる、あなたを感じているということの心地良さで、出来上がっています。ぜひ聴いて下さい。





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Hitomi Nishiyama 西山瞳
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