無自覚を想像する
映画秘宝のDMの件で、ラジオを聴いて感じたことを書いておきたいと思います。
事件のあらましはこちら。
発端となった番組は私の大好きな番組で、前身番組の時から6〜7年ほど聞いています。今は毎週月-金曜の夕方開始になり、リアルタイムではなかなか聴けないのでポッドキャストで聞いていますが、1/26火曜のオープニングトークでその件について触れているのを聞きました。
ずっと価値観をアップデートし成長してきた番組で、良い人間であろうとする人、好きなものと教養が豊かな人間を作ると知っている人たちの作る番組であるのは重々承知です。
オープニングトークで、フリーアナウンサーの宇垣美里さんが
「あの〈死にたい〉DMは、嫌がらせではなく脅迫である」
「私もそのような脅迫を受けたことがある」とおっしゃっていました。
それに対し、Twitterのハッシュタグ呟きなどを見ていますと、「さすが宇垣さん」「バシッと言ってくれた」などと散見されますが、私は「宇垣さんが番組の溜飲を下げる装置になっていないか」ということが気になってしまいました。
宇垣美里さんは、このラジオ番組を聞くことと雑誌『ヘドバン』のインタビューぐらいしか存じ上げませんが、非常に自立した聡明な女性で、おまけにガチでライブに行ってヘドバンしてるなんてもう好感しかないですが、普段から一番素晴らしいなと思うのは「一人の人間として、きちんと意見表明ができる。自分がおかしいと思ったことをおかしいと口に出して言える」ということです。これは本当に大事なことで、主役のパーソナリティとかゲストとか、周りに気を遣わないといけない相手がいても、毅然と一人の人間として発言されている印象です。
これまでも、ジェンダーに関する話題の時は、宇垣さんが一刀両断にすることで皆の溜飲を下げていたところがあって、頼もしい方だと思ってはいましたが、あまりにも続きすぎていて「役割」ができてしまっているなと感じていました。
今回のことは、宇垣さんは最近インタビューを受けたことはあったにせよ継続して映画秘宝に関わっていた人ではないし、外注のフリーアナウンサーという立場。外部、女性のアナウンサーに頼ってそこまで言わせる前に、ずっと映画秘宝まわりと関わっている番組として言うべきステートメントがあったのではと思います。
正直なところ、いつも宇垣さんが何かバシッと言ってガス抜きというかリスナーの溜飲を下げることをして、という繰り返しで、宇垣さんに宇垣さんとしての役割を背負わせすぎだと思いました。
今回のDMを受けた被害者は女性、一般的にハラスメント被害を受けるのは女性が多い現状、それを打開するための意見表明も若い女性に背負わせるという、結局女性や弱者がしんどいループを再生産するのは、辛いです。
私は40代になりフェミニズムを勉強しはじめてから、若い女性が差別と闘い意見表明しているのを見ると、
「ごめんね、私たちが10代20代の時におかしいと声をあげていなくて」
といつも思ってしまいます。
私たちが、かつて気づかなかったこと、我慢してもそういうものだと思い込んでいたこと、おかしいと思っても空気に隷従してはっきり言えなかったことは、確実に次の世代に持ち越され、次の世代も理不尽な思いをしています。
この番組には、昨年3月にミソジニーではないと発信することに関して問題と感じ、メールしたことがありました。伝えれば理解して下さるだろうと、番組のフェアネスと良い人間でありたいという気持ちを信用しているからです。
「人によって見えている景色が違う」ということを前提に、問題に向き合って発信して欲しいと心から思っています。
番組では最初に奥歯にものが挟まったような「やらかし」などと言っていましたが、宇垣さんは「これは脅迫だ」と言いました。
宇垣さんも私も、多くの女性は、これは脅迫だと一発で思うような景色の中で生きています。そして「すぐ誰かから暴力を受けるかもしれない、女性だから」という景色の上に生活している。
少し話は逸れますが、少し前に知人男性がこの記事について、舌打ちするなら攻撃される覚悟でというのは発想的にヘイトであると言及していました。
私は舌打ちが怖いですし、この記事を書いた女性のおっしゃることは非常にわかります。一緒に立ち向かって生きていこうねと連帯を感じます。しかし、このヘイトであると言った男性には、舌打ちされることが恐怖に感じるという日常風景は、現時点では見えていないのだと思います。悪意を向けられることが頻繁にあるのは、強者より弱者の方でしょう。健康な女性の私よりも、子を連れた母親や障害を持った方、外国の方の方がより立場が弱く、もっと頻繁に悪意を向けられたことがあると思います。
「無自覚の構造的差別がある」ということ、無自覚の構造的差別の上に自分の生活が成り立っているかもしれないということ、誰かがしんどい思いをしていたり、誰かを踏みつけて自分の生活が成り立っていたかもしれないということ、少しでもより良い未来になるように、想像力をもって生きていきたいと思います。
番組もきっと、これを踏まえてもっとより良い内容になっていくと思います。少なくとも、女性が被害に遭った件の意見表明をいつも女性がするという構造に見えないよう、宇垣さんに頼りすぎないようにして頂きたいです。
宇垣さんには、いいお風呂にゆっくり入って、リラックスして、ゆっくり寝て、明日も全力で好きなことをして欲しいなと思います。
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