何故、水の子が赤で、火の精がブルーなのか(映画『シリウスの伝説』公開40周年記念企画④)
1981年7月18日に公開されたサンリオ製作・公開のアニメ映画『シリウスの伝説』は、2021年7月18日をもって公開から満40周年を迎えます。それを記念して、公開当時の文献・雑誌等に書かれた本作に関する記事やコラムの文字起こし、本作を題材にしたミュージカルのレビューなどを、メモリアルデーの7月18日まで数回にわたって掲載いたします。
第四弾は、『シリウスの伝説』のパンフレットに掲載された『シリウスの伝説』の美術監督・阿部行夫氏のエッセイを掲載いたします。シリウスとマルタのキャラクターデザインの配色に疑問を感じた方は読んでみてください。
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この「シリウスの伝説」の草稿を一番初めに読んだ時。 「あっ、この作品はむずかしいな、大変だな」と思ったのが第一印象であった。ストーリーの大半が、夢幻的な舞台を持ちながら展開 されていたからである。そして愛という主題のもつ普遍性ゆえの難しさだったのかもしれない。
最初に文章から受けた映像視覚は、と言うと「漆黒の海が延々と続く中、いきなり黒い霧が取払われると、そこには忽然と閃光にも似た炎が現われる。そして、その中を突き進んで行くと、やがて光の交錯する世界、炎の園が展開 され、まばゆいばかりに乱舞する炎の精。メルヘン的と言うよりむしろ情念的な。それに相対する様に、海のひどく現実的な日常の情景」それがまず印象として押し広がって行った事を記憶している。
今思えばこの様な世界を描く時に、えてして一人よがりの主観が色となって出すぎる嫌いがあるので、随分と慎重に設定に取り組んだつもりである。今思えば 少し慎重に成り過ぎたかな、とも思う。その結果シュールな感じの、あまり暖かさを感じさせない美術になったのかも しれない。僕自身、透明感が欲しかったのも、事実である。幾度か、何故、水の子シリウスが赤色系の色で、炎の精マルタがブルーなのかと言う、至極当然な疑問を投げかけられたが、その理由(わけ)はキャラクターと背景の関係でノーマルに、水の子=ブルーと認識してしまうと、主人公であるシリウスがあまりに希薄な感じのするキャラクターになってしまったからである。青い感じの世界に、青いキャラクターではどうしても立ち上がらないのである。
炎の子マルタにしても、暖色系の熱を感じさせる色にすると炎と一体に成り過ぎて、やはり浮かび上ってこなかったという同じ理由がある。
美術背景のデパートメントは、まさに若い人達のパッションによって押し進められ、未熟な映像表現も多々あるが、反面新鮮な若々しい画面も少しは表現出来たのではないかと思う。
長くそして、紆余曲折したこのプロジェクトを終ってみて素直に感じる事は、「アニメーションのもつ世界の、なんと奥深い事ョ。かんだたのクモの糸だネ。魔性ダョ、ウン」というのが実感である。