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美しい画面に負けない音楽を…(映画『シリウスの伝説』公開40周年記念企画②)

1981年7月18日に公開されたサンリオ製作・公開のアニメ映画『シリウスの伝説』は、2021年7月18日をもって公開から満40周年を迎えます。それを記念して、公開当時の文献・雑誌等に書かれた本作に関する記事やコラムの文字起こし、本作を題材にしたミュージカルのレビューなどを、メモリアルデーの7月18日まで数回にわたって掲載いたします。

第二弾は、『キネマ旬報』1981年7月上旬号に掲載された、本作の音楽を担当されたすぎやまこういち氏のエッセイを掲載いたします。第一弾同様、すぎやま氏本人の情熱はもちろん、彼の目線から見た辻信太郎氏の本作への意気込みを感じることができます。本記事の無断転載はご遠慮ください。

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私は、多分にロマンチストらしく、あの美しい画面を見ていると、胸の奥が震えてくるみたいなところがあって、即座に、音が見えてくるのだ。オーケストラの音の配置や、旋律が湧きあがって来て、書かずにはいられなくなってくる。
実に、感動的なアニメーションで、手作りの味が、伝わって来る。そして、一枚一枚の絵に、人のぬくもりが思えて来て、そんな裏方さんの苦労なども見えたりするものだから、つい、肩に力が入ってしまって、何度も書き直しをしてしまった。ポップスの世界で長いこと仕事をして来た私だが、いつからか、クラシックの音楽性にチャレンジしたくなって、いくつかの作品を書いて来た。やればやる程深く、書くことのむずかしさを味わうのも度々だが、たったひとつ私には大切やポリシーがあった。それは、メロディーの美しさを常に出したいと言うことだ した。どんな早いテンポの中でも、メロディーが美しければ聞くひとを感動させることが出来る筈だと信じているのだ。美しい旋律を美しい画面にフィットさせれば、映画を観る人がきっと泣いてくれるのだ。「シリウスの伝説」の仕事の中でいつも頭の中に置き、この事だけは忘 れずにいた。音楽試写をみて、私はこの映画には、クラシックの編成のオーケストラで演奏させたいとまず思った。そして、大編成の音のウズの中で美しいメロディーが湧いてくるようにしようと思った。
日本一のシンフォニー・オーケストラのNHK交響楽団におねがいして、録音した訳だが、私の書いたスコア以上に音が歌ってくれたことの感動は大きい。ひとつひとつのセクションが譜面を追いかけ演奏するだけでなく、それぞれが譜面の中に心を植えつけてくれた。ヴァイオリンもセロも、管セクションも、歌ってくれた。素晴らしい演奏の前で、書きあげたよろこびが、倍化した。この映画の仕事をしてよかったとしみじみ思った。この映画の心に音楽でもついていきたいと思っていた事が、実ったと思った。日本の映画では、音楽が、とにかく冷遇されている現実の中で、言ってみれば、いい意味でのゼイタクをさせてもらった、サンリオに感謝したい。いい映画には、いい音楽がついている。過去の数数の名作には名曲が、時の流れにも、置き忘れ去られる事なく生きている。その音楽を聞いたとき、映画の感動がよみがえってくるのだ。それなのに、日本映画は、そう言うことにまるで無頓着のように音楽を扱ってしまう。
なんと寂しい事か、お金をかけることがすべてとは言わない。大事にすべきだと思うのだ。心に残る音楽を映画の中に灼きつけるのだと言う精神がほしい。いろいろな意味で「シリウスの伝説」は映画の持つ本来の良さへの挑戦を勇気をもって実行したと言えよう。今困難と言われているフル・アニメもそうだし、シンフォニー・オーケストラの起用もそうだ。そうそう出来る仕業ではない。十年たっても色あせない感動をと言って情熱をかたむけていらしたサンリオの辻社長の執念の勝利と言えよう。少年のように限りない夢を追い、その夢にむかって足を休めることなく歩いていく姿はまわりの人を感動させ、同じような気持にひっぱっていってしまう。情熱のリーダーがいて、この映画が出来たと思う。数多く作られる映画の中で、何年も何年も愛される映画のひとつである事はまちがいない。サーカス(引用者注:本作のオープニング曲とエンディング曲を歌唱した四人組コーラスグループ。『Mr.サマータイム』などで知られる)の人達のハーモニーのよさも、忘れることは出来ない。彼らの熱心さは、そうは簡単に出来るものではない。音楽に関しては、私にとってはパーフェクトだと思える。ただあと時間が二カ月あったら、更によくなったに違いないとも思うがでも欲は言うまい。精一杯やったから悔いはない。いいスタッフに恵まれ、いい仕事の出来たことを忘れることはあるまい。

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