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顔が見える洋服屋になろうと思った

手作り服のネット販売、マルシェ出店を経て、2016年のグループ展を経験し、2017年に初めて作品展をした私。


マッチ売りの少女のようにマルシェで服を売っていたときとは比べ物にならない規模の服が動き、嬉しさ反面、見切り発車で始めたこの活動に自信が持てず、素直に作品展を継続していこうと思えずにいた。こんなこと言ったら買ってくれた人に失礼だなと思うのだが、服のクオリティがなんだか伴っていない感じがして怖くなったのだ。


そんな時、とあるドキュメンタリー映画の試写会に。映画のタイトルは「THE TRUE COST〜ファストファッション真の代償〜」
そう、ファストファッションの光と影を描いたドキュメンタリー映画だ。


出産をしたこと。服作りを始めたこと。この2つは私にとって世界の見方を大きく変化させた。

ざっくりいうと


子どもが生きる未来の地球について考えるようになった。
服がもたらす環境負荷を考えるようになった。


なので、THE TRUE COSTへ足を運んだのは私にとって自然なことであり必然的なことでもあったのだ。


映画の上映開始前に衝撃の出会いがあった。

会場の入り口で、スカートを売る1人の女性。
遠くからでもとっても目立つその女性は、見かけが派手とかそういうのもあったけれど、なんだかそこに宇宙からのスポットライトが当たっていたように見えた。
映画のコンセプトにピタリと合う彼女は会場に呼ばれたのだろう。彼女は捨てられてしまう古着を活用してパッチワークのスカートを作っていたから。言葉にしてしまうとありきたりだが、それは一枚の絵本のようなスカートだった。可愛くて個性的で、愛がぎっしり。物語を感じる。そして彼女の作品とひとめでわかる、オリジナリティ。

あまりに眩しい彼女に話しかけることはもちろんできないまま、初めて目にしたスカートに頭を殴られたような衝撃の中、映画を観た。

内容は、バングラディシュの縫製工場崩落事故にスポットを当てながら、ファストファッションの裏側や服のゴミがもたらす環境汚染問題について。
超超端くれでも服作りをするものとしては、目を背けたくなる問題ばかり。

こんなに世の中に服が溢れてるのに私は服を作っていいのだろうか。しかもへたくそ、独学。
そんな恐怖が湧き上がった。
この気持は今でも湧き上がる時がある。


それでも、作りたい。
だからこそ、作りたい。


誰がどんな時間を経て作ったのかわからない、価格と刹那的にヒットするデザインで作られた服。もちろん安く可愛い服が誕生したことによって、様々な人がおしゃれを楽しむことができるようになった。それはそれだ。
けれど私はそれとは違う価値を生みたい。
何年も大切にしたくなるような服。人の手のぬくもりが伝わる服。
小さくても、誰がどんなふうに作った服なのかわかる服屋になろう。


顔の見える服屋になろう

震える感情と衝撃の中でそう決意した。



そして後日、気になる彼女の作品展が開かれていると知り、会場へ足を運んでみた。
以前のような不特定多数がいる大きな会場ではなく、完全に彼女オンリーの作品展会場。
小さな貸しギャラリーはよく手入れがされているのが伝わる、日当たりの良い空間。ひだまりのような場所で彼女はひとりソファでくつろぎながらチクチクと手縫いで次の作品を作っていた。
こんにちはと挨拶をし作品を見せてもらう。
何で知ったの?と話しかけられ、映画の試写会で見かけたこと、服を作っていることを話す。
本当は服を作っていることは隠したかった。彼女と自分を比べて、自分の服の空っぽさや中途半端さが恥ずかしかったから。
けどなんでかな、話してしまった。心の底では知ってほしかったのだろう。

はじめましてなのに結局3時間ほど居座り、彼女の過去のポートフォリオやリメイクスカート作家に至るまでの経緯をたくさん聞かせてもらう。

初めて出会う人種、というかもう固有民族な彼女にパンク寸前になりながらも、彼女と話ができた嬉しさと興奮の中帰路につく。

私も作ろう!顔の見える服屋として!!


改めてそう決意が固まった。


までは良かったが、


興奮と走り出したい気持ちのあまり、帰り道スピード違反で切符を切られた。走り出すのは心の中だけで良かったのだった。

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