マヤ プリセツカヤ 62歳の白鳥への考察、美しさの年輪に触れて
2015年5月2日、20世紀最高といわれたロシア人バレエダンサー、マヤ プリセツカヤが他界した。生涯ダンサーだった彼女の人生。
白鳥を踊ったら右に出るものはいない、というなんともありきたりな言葉しか出てこなくて、自分の表現力の貧しさに泣きたくなるんだけど、彼女の踊る白鳥を見ると、感情を揺さぶられて本当に泣いてしまう。
『瀕死の白鳥』(The dying swan) 約4分のショートピースのこの作品は、マヤの代表作でもある。もともと、アンナ パブロワというダンサーのために作られたこの作品は、アンナの完成度が凄すぎたために、彼女の亡きあと20年間誰にも踊られることがなかった。その沈黙を破り、振り付けを変えてこの白鳥をみずからの代表作にまでしたマヤ。
そこには紛れもなく、苦しんで、もがいて、その最期の美しさを放つ白鳥がいた。
ちなみに、このパフォーマンス時のマヤは62歳だった。
苦しさも、美しさも、皮膚が、筋肉が、骨が、その身体の全てを構成するものが年輪のように歴史をきざみ、その儚さを踊る。
マヤは完全に白鳥へと変身していて、
その時彼女は人間ではなく、動物だった。
ちょっと前にダンサーの友達のショーンと話をしていたときに、タトゥーの話になった。
わたしは両腕にいくつかのタトゥーが入っているんだけど、ショーンに、タトゥー入れたいと思ったことないの?と質問してみた。
彼は即座に、自分は野生でありたいから、ダンサーで居る以上、タトゥーは絶対にいれないという。肌に刻印を入れたら、それは人間の証で、決して動物にはなれないという。
人間である事がいかにも最上級みたいな常識が、急に傲慢に思えてきた。
踊り続けるために動物でありたいというその美しい真理は、舞台の上でダンサー達を自由に羽ばたかせ、地を這わせ、跳び回らせる。
マヤ プリセツカヤ
バレエ界の偉大なミューズ。
あなたに刻まれたその年輪は、
どんなタトゥーよりも100億倍カッコいい。
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