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色への考察、ブラックホールと空と海

ロックダウン慣れをしてしまいそうな生活の中で、あたりまえだったたくさんの自由が、限られたなかでしか楽しめない状況になった。
そんななかでも、アートはわたし達の生活から奪われることはない。

先日訪れたアントワープ郊外のプライベートギャラリーで目にした巨大なオブジェクト、インド系イギリス人の彫刻家アニッシュカプールによる作品。

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広い空間に作品がすっぽり収まったのか、それともスペースがこの作品のために作られたのか。足を踏み入れた瞬間、シンプルなシェイプにのせられた色が重々しく身体にのしかかってくるのを感じた。
彼の作品には絶対的な特徴があって、色に対して特別なこだわりがあること。
どんな色にもピュアな発色を求める。

ファッション業界でも色はそのデザイナーのシグネチャーでもあって、例えば、ヨウジヤマモトやコムデギャルソンは黒で有名だ。毎コレクション使用する定番の生地っていうのもあって、例えばヨウジさんだったらギャバジンという素材であって、生地屋と一緒に糸の染め方から織りの密度まで綿密に話し合って、オリジナルの黒(生地)を開発する。
他にもシーズンごとに違う素材を使って、例えば春夏だったら薄手のコットンやシルク、秋冬だったら重めのウールなど、その中でちょっと赤っぽかったり、シャイニーだったりと、素材の特性を活かしていろいろな黒を表現して、その表情に変化をつける。

アニッシュカプールも、黒で有名なアーティストの一人なんだけど、彼のトリッキーなところはそのこだわりゆえに、特定の黒の独占権を行使してしまっていることだ。
2016年、彼はNano Systemsによって開発されたヴァンタブラック(Vantablack)といって、反射する光の99.965%を吸収する『最も黒い黒』のアート分野における独占使用権を購入した。
(*その後2019年にMITが可視光の吸収率99.995%を発表した。)

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↑ ヴァンタブラックでアルミホイルを塗装

それによって、他のアーティストはこの色をアート活動に使えなくなってしまった、、、。
イギリス人アーティストのスチュワートセンプルは、これを創作活動の自由に反するとし、自ら『世界で最もピンク色のピンク』を開発して、“アニッシュカプールとその関係者は購入出来ない”と警告付きで販売をした。するとアニッシュカプールは、その塗料を自分の中指に付けた画像を自身のインスタグラムに投稿。
色をめぐったこの応酬。。。
メディアを巻き込んだ大人の喧嘩。。。
これは穏やかでは無い。。。

青で有名なのがフランスの画家、イブクライン。
(Yves Klein 1928年〜1962年)
生まれ故郷のニースは青い空と青い海が印象的な街。イブクラインの表現した深い青は無限に広がる空と、どこまでも深く続く海。ニースで育った彼にとって、青はとても身近な色だった。青は、”宇宙を取り巻く無限に広がる非物質的な空間“ を、見事に表現するのだと信じた。
理想的な青を開発し、自らの作品に使用していた彼は、1960年に、フランス産業財産庁に『インターナショナル•クライン•ブルー』(IKB) と名付け、この塗料の特許登録を行った。そして心臓麻痺でなくなる2年後の34歳まで、精力的にこのIKBを使って印象的な作品群を作ったのだった。

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彼の生誕90周年を迎えて、アーカイブを管理するイブクラインアーカイブは、IKBをもとにした群青色の塗料を、プロヴァンス地方を拠点とする高級塗料会社とともに作製、販売。


わたしはアーティストじゃないから、
アート活動でヴァンタブラックは使わないんだけど、家の壁をヴァンタブラックで塗装して、
我が家に無限ブラックホールを出現させようとは思わない。
でも、
壁一面をインターナショナルクラインブルーにして、かつてイブクラインが見つけた無限に続く空と海と、宇宙を感じることが出来きたら、
けっこうロマンチックなんじゃないか、
と思いにふける雨のベルギー。

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