The fall 落下の王国への考察、映画コスチュームデザインの重要性
パンデミックで、着て行く場所が無いからドレスとかコスチュームとかが売れなくなって、
ファッション業界はもっぱら、“売れる服”重視にシフトせざるを得なくなった。
たとえば、ファッションショーをするんだったら、ショーピースってものが存在したりして、それは“売れなくてもしょうがないけど、全体を語る上でのメッセージとして必要だから作る”ってことがあり得るのだけど、ショーも中止のこのご時世、お客さまに今欲しいと思ってもらえるのってどういう服??という問題に直結する答えは、コマーシャルピース(シンプルで着やすいもの)を作る、ということになってしまう。
シンプルな物こそ粗が隠せないから、実は作るのが難しかったりするのだけど、ラッフルがぶりぶりについてたりとか、変なドレープが逆にカッコ良かったりだとか、そういうわたしの持ってる個性を服作りにのせるのには、シンプルピースは相反しているのだ。。。
というちょっとしたフラストレーションの中、
最近よく見る映画は、コスチュームがカッコいいもの。映画だからなんでもやって良いってわけじゃ無くて、コスチュームはその時代感、キャラクター設定を、セリフと同じくらい表現していると思う。
最近見た映画で特に秀逸だったのが、
ターセム シン監督のファンタジー映画、
The fall (落下の王国) 2006年公開。
構想20年以上、撮影場所は24ヵ国以上。。。
限られた予算で、俳優、スタッフみんな給料一律というなんとも平等な関係性のもと制作された、とんでもなく壮大で愛のあふれるファンタジー。
『スタントマンの男 ロイは、仕事中に現場で落下事故を起こし、半身不随になる。病院にいた移民の少女アレクサンドリア(たぶん5歳くらいの設定?)は、オレンジの収穫中に木から落下して腕を骨折していた。人生に絶望したロイは、アレクサンドリアに思いつきのおとぎ話を聞かせていく。。。』
言葉にしちゃうといろいろ単純化し過ぎちゃって色褪せちゃうから、これはぜひ映像で見てほしい作品なのだ。。。(百聞は一見にしかずって、ほんとそのとおり)
ロケ地となった国々の美しい背景に、衣装が映えるこの映画。
コスチュームデザイナーは日本人の石岡瑛子氏。彼女とターセムシン監督のタッグはこの作品以前からのもので、監督は彼女に絶大な信頼を寄せていた。
前述のとおり、コスチューム自体は喋らなくても多くを語っていて、(これは日常生活で自分が着る/選ぶ服にも当てはまるのだけど。) この映画の中の衣装はどれもインパクトがあるけど、背景に溶け込み、それぞれのキャラクターを300倍くらい魅力的に表すのに成功している。
たとえばマリーアントワネットの時代とか、現代のドラマとかだったら、その時代時代で地位や職業等を表すコスチュームってものがある程度存在するから、そこまでズレってものが生じないと思うのだけど、ファンタジーってどこまでも発想が自由だからこそ面白くって、衣装デザインの才能が試されるんだと思う。
あるブログでは、
The fall を“旅映画”と表していたけどまったくそのとおりで、
ターセムシン監督のフィルターで、
わたしたちをバーチャルな旅行に連れて行く。
そういう意味では、
パンデミック中にもってこいの映画でもある。
コスチュームが映画に色を添えた、
約2時間の大旅行、おためしあれ。