においでタイムトリップへの考察、目を閉じればそこは京都
先日、同僚のサライと散歩していた時のこと。
サライが香水を買いたいというので、香水屋さんへ入る。お店の香水ソムリエ(?)に、わたしの好きな感じのにおいをざっくり伝えた。ウッディーでスパイシー、割と重め。という断片的なヒント。
誰にでも好きな香りとか安らぐにおいとかあると思うのだけど、わたしは’お寺の匂い’フェチで、そういう人はけっこう多い気がする。
わたしは生まれてから高校卒業まで、両親と祖父母の元で育ったので、いわゆる“おばあちゃんちの匂い”的なものがなくて、懐かしさとか、安らぎを感じる匂いというと、お寺の古い木造の建物と、敷き詰められた畳と、ちょっと湿った感じの苔と茂った木々が調和したあの匂い。
中学、高校生のころ、両親と毎年旅行した冬の京都のお寺の匂いが、わたしにとっていわゆる“おばあちゃんちの匂い”になって、20年経った今でも変わらない。
このお寺の匂いの正体って、
白檀(びゃくだん/サンダルウッド)
沈香(じんこう/アガーウッド)
伽羅(きゃら/最高級のアガーウッド)
主に3つの香木のにおいで、白檀は仏像などの彫刻に多く用いられているから、お寺中があの独特な香りに包まれているのだそう。で、ソムリエは「お寺」というキーワード抜きで、わたしの好きな香りを提案して来たのだった。
香水のベースノート(原料)にこれらが配合されていると、まとった瞬間に割と高確率でベルギーに居ながら京都のお寺にワープ出来る、なかなかの発明品だと思った。飛行機に乗らなくても、香水ボトル一本の値段で自宅に居ても、会社に居ても、一瞬目を閉じればそこは京都の宝泉院。(わたしの一番好きなお寺)
集中しないとこの感覚は長続きしないので、まだまだ精進が必要なのだけど苦笑。
においの話でもう一個。
これもけっこうフェチが多いと思うのだけど、
『本のにおい』
先日、ドイツの小さな出版社シュタイデル(Steidl)の創始者シュタイデル氏のこだわりの本の作り方をおったドキュメンタリー映画“How to make a book with Steidl”を見た。
本のデジタル化に伴って、紙媒体は減っていると言われているけれど、絶対的に紙ではなくてはならない本っていうのもある。
紙とインクには独自のにおいがあって、ページをめくるたび、そのにおいが本のヴィジュアルとともに脳にすり込まれる。
シュタイデルは、本というものは知識の詰まった財産であり、親から子へ代々受け継がれる価値があり、その一冊一冊が小さな美術館である、と語る。
そんな彼のこだわりがつまった本作りは、国内外から一流のアーティストに信頼されて、長年コラボレーションを続けている。
全て彼の徹底的な管理のもと、例えば製紙工場から入荷された紙はすぐに印刷にはまわさず、2〜3ヶ月の間、乾燥熟成肉と同じように保管庫で熟成させる。紙の質によってそれぞれ適度な温度と湿度を見極めて印刷に回すことによって、その出来栄えはまるで違うのだそう。
また、インクも一冊一冊の本ごとに香水と同じように配合を考えて調合する。
ファストファッションのように合理的にスピード重視で印刷された本は、印刷後に合成ニスでコーティングされ、本来の香りを失う。
シュタイデル社の本は油性ニスでコーティングされ、紙やインクの香りを失うことなく読者の元に届く。アーティストや著者ごとにコンセプトに合った紙を選びインクを調合する、入念に考え尽くされたその本はまさに出版界のオートクチュール(オーダーメイド)である。
本を開いたときの指の感覚、
ページをめくる際の紙の擦れる音、
そのページにある美しいヴィジュアル、
紙とインクの極上のにおい。
シュタイデル社の本は、これでもかというほど感覚に訴えかけてくる芸術品なのだ。
それで、気になった。
この感覚をくすぐるにおい。
本のにおいの香水ってあるのかな?と。
さっそく調べたら、アメリカ、ポートランドの書店パウエルズブックが2020年に本の香りの香水を発売していた。すみれや樹木のかおりを組み合わせて古紙や書籍のにおいを再現しているのだそう。
お値段25$なり。
実はシュタイデル社からも香水が出ていて、本のデザインはカールラガーフェルド、調香は
ドイツの有名調香師Geza Schoen氏でその名も『Paper Passion』
正確にいうと、本のにおいというより、本を読む際によりリラックス出来るような香りというイメージだそう。
ただこの本、2012年に発売されて、当時は多分8000円くらいだったのだろうけど、2021年現在、プレミアがついて560€(約6万円)にもなっていた。。。
嗅ぎたかった。。。。。
この本の香水は諦めて、近々お寺のにおいの香水買いに行こう〜。。。
嗅覚がいざなうタイムトリップ。
自由に旅行することが難しいこのご時世、
かすかだった記憶も、
ふとした香りがきっかけで、
ホッと、幸せな気分にさせてもらえる、事もある。
精進、精進!!