靴の中
平日の昼間の電車って、ちょっと不思議な空間だと思う。
私はよく電車を利用する生活を送っているのだけれど、普段乗るのはいわゆる「通勤ラッシュ」の時間帯だ。
通勤や通学など、乗客の個人情報を深く知らなくても電車を利用する目的が一目でわかるような時間に電車をよく使う。
だからお昼間の、目的を隠した乗客(もちろん本人たちにはその気がないだろうけれど)の割合が圧倒的に多い車内は、なんだか不思議な空間に感じる。
乗客たちが抱いているこのあとの旅路を考えるのも、私の好奇心をくすぐる思考の無駄で素晴らしい使い方だ。
しかし、今日書きたいのは別のことである。
通勤通学ラッシュではない、比較的空いている電車に乗るとき、目につくものがある。
それは靴だ。
座席に腰を下ろしてふと目を落とすと、一人ひとりの足を包んだたくさんの靴が並んでいる。
履いてある状態の靴を眺めることって、日常であまりないと思う。だから不思議で、なんだかじぃっと眺めてしまう。
目の前には蛍光色のラインの入ったスニーカーや、ツヤツヤの革靴や、底の高い真っ白なブーツを履いている人なんかもいる。
そんな靴を見て思う。
みんなどんな足の形をしているのだろう?
もしかしたら、目の前の人はタカのような鋭い爪を隠しているのかもしれない。
その隣の人は馬のように立派なヒズメがあるかもしれない。
いや、わかっている。
そんなわけないのだ。いつものことで、くだらない妄想であることはわかっている。
それでも考えてしまう。
もしかしたら前に座る男の子のスニーカーの中は、トラのような立派な肉球のある足かもしれない。右隣のマダムの花柄のワンピースとブーツの中は、フラミンゴのように華奢なピンク色の足かもしれない。
みんなそれぞれちょっと不思議に個性的な足をしているけれど、それは見えないだけかもしれない。
馬鹿げているけど、考えてしまう。
そんなことを思いながら、私は水かきの広いペリカンの足を、窮屈な赤い長靴の中でばたつかせるのだった。