マスクの下で想う森、道、市場2021
「大丈夫。今年は声を出せないけど、みんなの目からはちゃんと伝わってきます。また来年は、今年の分と合わせて倍の声を聞かせてください」
照りつけていた日差しもようやく穏やかになり、肌を撫でる心地よい浜風が海辺を吹き抜けるようになった森、道、市場2日目の夕方、GRASS STAGEでclammbonのライブを観ていた。そのライブの終盤、clammbonのbass・ミトのその一言に観客は拍手で応えた。私もマスクの下で口をグッとつぐむと、拍手をする手に自然と力が入った。
スタンディングエリアは人数制限かつロープで区画割りがされ、マスク着用は勿論のこと大声を発することは禁止。だからこそ、その拍手の音が観客たちの内に秘めた想いを代弁するかのように、いつも以上に際立って響いて聞こえていた。
昼間、同じGRASS STAGEで一番はじめにカネコアヤノのライブを観た。私にとっての森、道、市場2021は、そして本当に久々となった野外フェスは、そこから始まった。
ライブが始まるまでの待ち時間、バンドメンバーがステージに現れた瞬間、聴きたかった曲の前奏が流れ始めた時、音と言葉が琴線に触れた時の鳥肌、思わずこぼれる笑み、全体がひとつになっていく一体感、始まれば終わりが来てしまう名残惜しさ……。
マスクをしていても、たとえ声を上げることができなかったとしても、私はそれらをずっと待っていたことを思い出した。そして、ここに集まったみんなも、ステージの上のアーティストたちだって、きっと待っていたのだ。
"僕らの日々へ僕らが誠実であれよ
世界が一度終わりを迎える
やりなおせるよ 元通りじゃない"
これは、カネコアヤノの『閃きは彼方』の冒頭の歌詞だ。
コロナ禍だからこそ音楽が持つ力をより一層実感し、変化を受け入れながら楽しんだこの特別な森、道、市場2021を、私はきっと忘れない。