今回の選挙で何が変わったのか?
2021年の衆議院選挙、終わりましたね。
今回も、皆さんに少しでも政治に興味を持ってもらおうと、「若者よ、選挙に行こう」と題したnoteを書きました。
でも、選挙の前には一生懸命「選挙に行こう!」と言うだけ言って、終わってから何も言わないのも、違うなぁと私は思うわけです。
なので前回の参議院選の時も「今回の選挙で何が変わったのか?」と同じタイトルで振り返りをしました。
今回も、それをやっていきたいと思います。
①選挙結果
さて、ではさっそく結果を見ていきましょう。
まずはグラフからです。
選挙前
選挙後
グラフで見ると、日本維新の会の増加が目立ちますね。
実際の増減は以下のような感じです。
減少した党
党名 増減議席 増減率
自民党 ↓15 -5.4%
立憲民主党 ↓13 -12.7%
共産党 ↓2 -16.6%
NHK(中略)党 ↓1 -100%
諸派 ↓1 -100%
増加した党
日本維新の会 ↑30 +273%
公明党 ↑3 +10.3%
国民民主党 ↑3 +37.5%
れいわ新選組 ↑2 +200%
社民党はそのまま。
無所属が1人減りました。
さて、以上のデータから、大きく3つのことが言えると思います。
①自民党の健闘
②左翼共闘の苦戦
③第三勢力の台頭
一つずつ、なるべく分かりやすく説明していきます。
①自民党の健闘
健闘というのは「よくがんばりました」というような意味で用いました。
今回、自民党は15議席を減らしまして、そこだけを見ると、「自民党の負け」という見方もできるかもしれません。
しかし、事前の報道各社の予想では、今回の選挙で自民党は単独過半数(233)を下回るかもしれない。
公明党と合わせた数でも、絶対安定多数(261)を下回るかもしれない、という予想でした。
そうなってくると、それはもう紛れもない自民党の大敗です。
ところが、結果はそれを大きく上回ってきたわけですね。
つまり、苦しい戦いでも、負けなかった、健闘した、と言えると思います。
なぜ、苦しい戦いだったのか。
大きいのはコロナ禍です。
社会が苦しい状況になると、国民の不満はその時の政府に向きがちです。
実際、リーマンショックがあって経済がガタ落ちになった時には、自民党が大敗して民主党政権ができましたし、東日本大震災の時には、民主党が大敗してまた自民党政権になりました。
今回のコロナ禍も、政府の対応に不満を持ち、それを選挙にぶつけようとする動きが強いだろうというのが、事前の予想でした。
もちろんそれが、15議席減という結果になったとは思いますが、予想よりは少ない結果に終わった、という感じです。
②左翼共闘の苦戦
さてさて、ここから少し難しいかもしれませんが、大事な話なので着いてきてくださいm(_ _)m
政治の世界では、左翼と右翼という考え方があります。
詳しくは、以前に書いた「選挙の話~右と左で考える~」というnoteを参考してもらいたいです。
が、簡単に言うと、日本での左翼というのは共産主義や社会主義といった思想に近く、中国のように、国家が強い力を持って国民を統制する代わりに、福祉を充実させて、国民みんなが平等に恩恵を受けられるようにしよう、みたいな考え方です。
逆に日本で言う右翼というのは、自由主義や資本主義といった思想に近く、国家による規制はなるべく減らして、国民一人一人が自由に活動し、その能力に応じた恩恵を受けられるようにして、それによって格差が広がった部分には最低限の福祉で補填しよう、みたいな考え方です。
それ以外にも色々あるのですが、ひとまずそんな感覚です。
そして、今回議席を減らした立憲民主党と共産党というのは、左翼的な政党で、今回の選挙では共闘関係にありました。
「共闘」というのは、共に戦うということですが、選挙では少し特殊な意味を持ちます。
衆議院選挙では、人を選ぶ小選挙区制と、党を選ぶ比例代表制の2つがありましたね。
その内の小選挙区の時に、「私は立憲民主党の支持者です!」という人が居たとします。
しかし、小選挙区制では、必ずしも自分の住む選挙区でその党の人が立候補しているとは限りません。
そんな時に、「この選挙区では立憲民主党の候補者は出ませんが、共産党の候補者が出ます。立憲民主党と共産党は、共闘関係にあるので、立憲民主党の支持者の人は、立憲民主党の人に投票すると思って、共産党の候補者に投票してくださいね」と、これが共闘です。
そして今回の選挙では、立憲民主党と共産党は、閣外協力という、今まで以上に結びつきを強めて選挙に臨みました。
また、れいわ新選組、社民党、国民民主党とも、政策や候補者の調整を行いました。
れいわ新選組、社民党は左翼寄り、国民民主党は中道です。
そして協力しなかった、自民党、公明党、日本維新の会が、右翼寄りだと思ってもらって構わないと思います。
つまり、左翼同士で協力しながら戦ったわけですが、思ったよりも勝てなかった、という感じです。
その理由については後述します。
③第三勢力の台頭
さて、今回の選挙で目立つのが日本維新の会の躍進ですね。
30議席を増やし、4倍近い勢力になり、日本で3番目に大きい党になりました。
今回維新が掲げたスローガンの一つに、「自民か維新かそれ以外か」というのがありました。
自民党は嫌だ、今の政府は間違っている!と考えている人は少なくないでしょう。
しかし、だからといって左翼は嫌だ、という人も多く居るのです。
なので、「我々を消去法で選んでください」というスローガンも維新は掲げていました。
今の政府に対して「No!」と言いたい。
けれども左翼には投票したくないという中間層の人たちの受け皿として機能したことが、維新の議席増につながっていると考えられます。
そしてそれは、国民民主党や公明党といった、比較的中道路線の党が議席を増やしたことにも繋がっていると考えられるでしょう。
自民でも、左翼でもない、第三勢力の台頭が感じられます。
番外 はたして、本当にそうか?
さて、ここまでのことは、テレビでもよく言われていることですね。
それに対して、最後にひっくり返したいと思います(笑)
もちろん、今まで述べたことは、どれも正しい見解だと思いますし、私もそう考えています。
しかし、私が今回の選挙の評を述べるなら、「あるべき姿におさまった」です。
というのも、そもそもなんですが、最初に出した選挙前の勢力図
これですね。
これを見た時にまず、「あれ?立憲民主党って、こんなに議席多かったっけ?」と、選挙マニアなら思うのです。
というのも、前回の2017年の衆議院選挙、立憲民主党の獲得議席は、55だったんですよ。
それが倍増しているわけです。
この4年間で何があったのか、それを明らかにする為に、前回の選挙直後の結果をグラフにしましょう。
2017年衆議院選挙結果
はい、出ました(笑)
キーワードは、希望の党と小池百合子ですね。
前回の選挙で何があったかを見ないと、今回の選挙の全容は見えてきません。
前回2017年の前年は、自民党を離れた小池百合子が都知事になり、都民ファーストの会を立ち上げ、都議選挙で自民党に勝った、小池フィーバーに湧いた年でした。
そしてその小池フィーバーそのままに、小池百合子は「希望の党」を設立するのです。
しかも、旧民進党(かつて政権をとった民主党と、維新の党の大多数が合流して2年間だけ存在した、当時野党第一党)との合流も決まり、もしかして国政でも自民党を倒すのか?という期待感も出てくるような雰囲気でした。
ここで、小池百合子から「リベラルは排除する」との発言が出るのです。
リベラル、という言葉は、日本においては非常にややこしい意味を持ちます。
日本語にすると、「自由主義」なので、先ほど右翼の説明の中にも用いた言葉なのです。
が、あの池上彰さんは「リベラルとは、左翼と呼ばれたくない人たちの自称」と表現したように、日本ではリベラルと言った時に左翼を意味するんです。
これは、何故か。
まず自民党の話なんですが、自民党は経済的な面や、政府の役割などでは、自由主義的な面を強く持つ政党なのですが、国家観や人間観的には非常に保守的で、古き良き日本の伝統的な考え方をとても大事にする政党なんです。
だから、今回の選挙でも、ただ一党だけ、選択的夫婦別姓や、同性婚などに慎重な姿勢を見せていましたね。
なので、マイノリティーな人たちの人権を、比較的尊重しない、という点では、リベラルらしくは無いんです。
その点で、左翼系の政党は、経済的な側面ではちっとも自由主義的では無いんですが、マイノリティーの人たちの人権を尊重するという点ではリベラルなんです。
その部分を強調したい左翼の人たちが、リベラルを自称し始めたために、こんなややこしいことになっているんだと思います。
さて、小池百合子は、左翼という意味での「リベラル」を排除すると言い出したわけです。
というのも、旧民進党、ひいてはその前身である民主党というのは、右翼から左翼までごちゃまぜになっている党だったんです。
それが、このリベラル排除発言によって整理されることとなりました。
結果的に、旧民進党で脱リベラル路線をとった人たちが「希望の党」に、リベラル路線をとった人たちが「立憲民主党」に集まり、野党第一党は分裂をしたわけです。
なので、右翼でも左翼でもない第三勢力の台頭、という意味では、もう2017年から起こっていたわけですね。
そして、そんな期待感のあった選挙の結果はどうであったか。
希望の党の大敗、でした。
希望の党は、政権交代も狙える235人の候補者を立てるんですが、その中でたったの50人しか当選しませんでした。
対して、分裂から間もなく、78人しか候補を立てられなかった立憲民主党は55人の当選。
また、希望の党と共闘関係を作っていた日本維新の会も議席を減らしました。
その意味では、第三勢力の敗北、が2017年の衆議院選挙だったのです。
ちなみに、野党 VS 野党の構図が強くなってしまった結果、この時の自民党は、消費税増税や、森友・加計問題など、支持率を落とす要素がかなりあったにも関わらず、選挙前と1議席も変わらない284議席を獲得して大勝しました。
こうした結果を受けて、希望の党だった議員や、希望の党にも立憲民主党にも入らず、とりあえず無所属で出馬していた人たちが、この4年の間に次々に立憲民主党に合流。
残ったのは、それでも脱リベラル路線を目指した、国民民主党の8名のみ。
こうして、立憲民主党は選挙とは関係ないところで倍増していたわけです。
でも、これっておかしいですよね?
2017年の選挙で、希望の党に投票した人の中には、リベラルが嫌だから希望の党に投票した人も居たはずです。
それが、気付けば共産党と共闘するほどにリベラル路線をひた走る立憲民主党にいつの間にか変わっていたんです。
そういう意味では、今回の2021年の選挙で起こったことは、リベラルの敗北でも、第三勢力の台頭でも無く、右翼と左翼と、どちらも嫌な中道とが、ちゃんと元の割合に落ち着いた、ということではないでしょうか。
このように、選挙とは関係ないところでも、政治というのは勝手に動いたりします。
選挙前だけ注意して見ていると、大切なものを見落としてしまうかもしれません。
そうならない為にも、普段から政治に関心を持つか、もしくは、政治に関心を持っている人の話をたまには聞こうという癖をつけるのが、大事かもしれませんね。
おわりに
最後に、後述すると言っていた、左翼共闘が苦戦した理由についてお話します。
左翼と言っても、色々ありまして、中でも共産党というのは、極左と呼ばれる、左翼の中でも非常に強い思想を持っていると考えられています。
そしてここからは歴史的な問題になってくるんですが、共産党の名前の由来にもなっている共産主義という考え方がこの世界に生まれてから、いくつかの共産主義国家ができたのですが、例えばそこで独裁が行われたり、大量虐殺が行われてきた歴史があります。
また、共産主義国家では無い国家の中にも共産党が生まれ、その共産党員が、暴力による革命を起こそうと、テロを行ってきた歴史があり、それは日本でも同様でした。
現在、日本共産党は、そのような暴力路線や、極左路線は否定しているのですが、どうしてもその名前から、かつての共産主義のイメージが重なってしまう人が多いのも事実です。
左翼は嫌だ、リベラルは嫌だ、という人が居ると何度も述べてきましたが、この理由によるところも大きいのです。
今回、立憲民主党もリベラルではありますが、共産党という極左と共闘を行ったことで、「そこまでのリベラルは求めていない」という層が離れるきっかけにもなっているのではないでしょうか。
現在、若者の中で、共産党の指示が高まりつつあります。
それは、こうした歴史的な共産主義に対する忌避感が薄いため、というのも理由の一つでしょう。
また一方で、自民党支持の割合が最も多い世代も、10代・20代です。
今後、政治的関心が薄いまま、今の若者世代が政治の中心になっていった時、はたして日本の政治はどうなっていくのか、私は一抹の不安を感じずにはいられません。