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言葉の魔力と魅力-原田マハ『本日は、お日柄もよく』-

 愛せよ。人生において、よきものはそれだけである。

 なんてステキな言葉なんだろう。
 この言葉は、ショパンを生涯愛し続けたフランスの作家、ジョルジュ・サンドの言葉だそうだ。愛に苦しみ、愛に生きた彼女の、生き様を体現しているかのような重みのある言葉だ。

 この言葉は作中で二回引用される。どんな場面で引用されているかは、まだこの作品を読んでいない人は楽しみに待っているといい。もう既読の方々は、「あぁ、あのシーンね」とニヤついているだろう。事実、わたしもこの言葉が紡がれたシーンを思い出すだけで、頬がほころんでしまう。

 この作品は、普通のOLだった二宮こと葉が、「伝説のスピーチライター」久遠久美に出会い、スピーチ -言葉- の魅力にとり憑かれ、ついには国政に関わっていく物語であるッ!
 …と、大げさに書いてみたものの、そんなに間違っていないのがこの作品の凄いところ。スピーチライター、という単語に聞き馴染みがない方もご安心を。作中でしっかり説明してくれている。

 言葉というものは魔力を秘めていると思う。大げさじゃなく。人を励ますのも言葉だし、人を傷つけるのも言葉だ。作中で、言葉を「きらきらした魔物」と表現しているが言い得て妙である。
 「きらきらした」「魔物」。明るさを象徴するポジティブな単語と、おどろおどろしさを感じさせるネガティブな単語の組み合わせ。言葉のもつ二面性を表した、これ以上ない比喩である。こういった何気ない言葉たちがきらきらと光を放っているのも本作の魅力である。あなただけのお気に入りの魔物をぜひ見つけてほしい。

 冒頭の「愛せよ」ともうひとつ。わたしの中にするりと入り込んで出ていく様子がない魔物がいるため、皆さんにも紹介しようと思う。ほら、出ておいで。

 困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙が止まっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している

 本作を読み終わって日が経っていないわたしは、この魔物のせいで涙腺が刺激されっぱなしである。
 まだ本書を読んでいないそこのアナタ。この魔物がどこでどうやって生まれてきたのか、この小説をぜひ読んでみてほしい。きっと、あなたの心にも棲みついてしまうから。

-ヒトカツ。-

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