社員が辞めない会社はオフィスで作れる?OKAN・沢木社長に聞く、離職要因と満足度を高めるオフィスの作り方
企業の人手不足が深刻化していると言われる昨今。人材紹介会社も増え、採用に投資することが当たり前の社会になっています。
事業拡大による人員増加は嬉しいことですが、新しく入社する社員が多いはずなのに常に人手不足…なんてことはありませんか?
もしかしたら、力を注ぐべきは離職率の改善かもしれません。
今回は「働く人のライフスタイルを豊かにする」をミッションに、望まない離職をなくすための事業を展開する株式会社OKANの代表取締役、沢木恵太氏に、離職率の改善方法・従業員の満足度を高めるオフィスの作り方についてお聞きしました。
自己都合で退職する従業員の8割に、ハイジーンファクター(衛生要因)が関係している
働く人のライフスタイルを豊かにするために、働き続けにくい要因をつきとめ、最適な解決策を提供している同社。
従業員の健康を支援する、置き型社食サービス「オフィスおかん」や従業員の方々に簡単なアンケートを実施し、組織課題を見える化する組織改善サービス「ハイジ」などを提供しています。
望まない離職は、どうすれば防ぐことができるのでしょうか。
沢木社長「まず、退職の原因は大きく分けて会社都合と自己都合の2つがあります。改善したいのは自己都合での退職になりますので、そちらに注目してみましょう。自己都合の退職は
モチベーター:理念への共感や仕事のやりがい、職務内容
ハイジーンファクター:健康問題、家庭との両立、人間関係、労働環境
の2つに分けることができると考えられており、厚生労働省の平成28年の雇用動向調査結果によると、自己都合で退職する方の約8割がハイジーンファクター(衛生要因)が原因だということが分かっています。
さらに、ハイジーンファクターがどんなもので影響を受けるのかと言うと、以下の12の要素が関わってくると考えています。」
※ハイジーンファクターとはアメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した概念。アメリカでは、優秀な人材の流出を防ぐための重要な投資対象として考えられている。
- 望まない離職をなくすためには、この12の要素を改善すれば良いのでしょうか?
沢木社長「重要なのは、単純な満足度調査をするのではなく、その組織の皆さんにとってどの要素の優先順位が高く、現状はどうなっているのか、しっかりと把握すること。それを支援するツールとして、弊社ではハイジというサービスをご提供しております。
ハイジでは、ハイジーンファクターに着目して従業員の方々にアンケートを実施し、要素ごとの統計や、優先順位の推移を見える化することができます。」
ハイジを活用した結果、執務環境への不満が浮き彫りに
沢木社長「弊社でも、前のオフィスの時にハイジを使ってアンケートを取ってみたところ、執務環境と呼ばれるスコアが12.1だったんですよね。これは、弊社の他の要素と比べると通常よりも166%も悪いスコアでして…。要するに、執務環境が一番悪かったんです。
〝これは移転しなくてはいけないよね”ということで、3つの目的を定め、オフィスを移転することにしました。
1.リテンションマネージメントの観点から
望まない離職を防ぐための投資
2.ダウンサイドリスク回避のための投資
生産性の向上による将来利益のための投資
アップサイドをうむための投資
3.社内・社外双方へのメッセージング
ブランディングのための投資
ハイジでスコアが悪いということは、望まない離職を引き起こす可能性があるので、まずはそこの回避。そして、執務環境が良くなることで生産性が向上すれば収益に繋がりますので、そこへの投資。
また、我々はワークスタイルを事業としているため、自分たちが良いオフィス環境で働いていればお客様(主に総務・人事の方々)にも興味を持っていただきやすくなります。3つ目に、メッセージング・ブランディングのための投資という目的も含めました。」
ー ハイジを活用して〝執務環境を改善するべき”という優先順位が明らかになったと思うのですが、具体的にどのように改善していくか…というのは、どのように決めていったのでしょうか?
沢木社長「そこは、直接定性的に1人ひとりの声を集めていった方が良いと考え、(株)ヒトカラメディアさんにワークショップの企画・ご支援をしていただきました。
社員全員の声を集めたかったので、2回実施し、どちらかの日程には必ず参加できるようにしましたね。
さらに、集めたニーズをどうオフィスに落とし込んでいくか…ワークショップで一旦広げた風呂敷をどのように閉じていくか…というところまでご支援いただきました。」
※ヒトカラメディアでは、〝「ただのオフィス移転」を「会社の成長の好機」に変える”をコンセプトに、オフィスの仲介・空間プランニング・内装工事を一気通貫して行なっています。さらに、組織全体を巻き込んでオフィスづくりを進めていくため、移転前のワークショップなども行なっています。
▲移転に向けたワークショップの様子
- 全員の声を聞くと、叶えられない部分も多数出てきたりして、収拾がつかなくなってしまうでは…とも思うのですが、そこら辺の調整はどうされたのでしょうか?
沢木社長「OKANらしさ(ファミリーワークとか、おかえりみたいな雰囲気)を共有できているので、新しいオフィスで必要なものの優先順位も意外とみんなの中で整理ができていて。
〝これは絶対欲しいよね”とか、〝これはあっても良いけどなくても良いよね”みたいなものが、そんなにバラけませんでした。
さらに、今回はアクティビティ・ベースド・ワーキングを取り入れたので、通常の固定席スペースを縮小することができ、比較的色々な要望を盛り込むことができました。
みんなが考える優先度の高い要望(スタンディング席、電話用のブース、食事ゾーンなど)は、割と網羅できたのではないかと思います。」
※アクティビティ・ベースド・ワーキング(Activity Based Working、以下ABW)とは、空間ごとに用途で区切り(集中スペースや歓談スペース、休憩スペースなど)従業員が業務内容に合わせて好きな場所で働けるワークスタイルです。オランダの企業発祥で、その時々の業務に合わせて最適なスペースで業務を進めることで生産性向上をはかることができます。
▲OKANさんのオフィスマップ
▲縁側、台所、スタンディング、眺めが良いスペースなど、複数のスペース
から好きなスペースを選んで業務を進めることができる
- アクティビティ・ベースド・ワーキングをオフィスに取り入れたり、社内のみんなの声を取り入れたり、目標とする社外へのブランディングも考えたり…と考えることが多く、なかなか大変だったかと思うのですが、オフィス移転プロジェクトはどのように進められたのでしょうか。
沢木社長「そうですね。時期的に物件探しも大変だったのでそこにも時間をかけながら、それと同時に移転した先どうするのかを考えるためのインプットの機会も持ちながら、さらにインプットをどう具現化していくかというのも考えながら…結構自分のリソースを使いました(笑)。
アクティビティ・ベースド・ワーキングはあまり事例が上がっていないので、導入している企業に見学させていただいたりしました。
さらに、たまたま登壇機会があり〝人間の五感をどうワークプレイスに落とし組むか”という学会に参加させていただくことができたので、そういった観点も取り入れています。」
▲エントランスでは、アットホーム感を五感で感じるため、靴を脱ぐ仕様になっている。特にヒールなどで苦労する女性従業員に人気なのだそう
▲オープンペースは緑を基調に。鳥のさえずりの音声も流れている
▲高層階ならではの大きな空とオフィスの緑を感じることができる縁側スペース
執務環境への不満が64%改善!社内外でいいことづくしの、移転の効果
- 移転後、ハイジのスコアに変化はありましたか?
沢木社長「大幅にありました。もともと執務環境が12.1だったとお伝えしましたが、これが5.57まで改善したのです。(スコアは小さい方が良い)要するに、64%改善したということですね。
他にも付随して色々と改善されたのですが、まとめると以下になります。
執務環境 12.1→5.57:64%改善
リフレッシュ環境 7.57→3.30:56%改善
社内の雰囲気 5.36→3.40:37%改善
職場推奨度(この会社を友人にも勧めたいと思いますか?):14%改善
ロジックとしては、職場推奨度が上がると離職率は下がると言われているので、今回のオフィス移転は明確に意味があったと思います。
さらに、色々と改善されたという体感もあります。まず、コミュニケーション量ですね。
以前のオフィスだと、人が増えたこともあり、部署をまたいでのコミュニケーションが非常に少なくなっていました。(移転当時50名ほど)
今回、真ん中にコミュニケーション・ゾーンを設置し、そこで職種に関係なくコミュニケーションが生まれるような設計をし、実際にそのような効果がありました。
それに加えてアクティビティ・ベースド・ワーキングによってオフィス内での移動が増えたことにより、すれ違う時にコミュニケーションが生まれるようになったんです。
そこまでは考えていなかったので、想像以上に効果があったと感じていますね。」
▲中央のコミュニケーション・ハブとなっている台所
沢木社長「さらに、採用面。今回のオフィスの基本思想として、可能な限り壁を減らすという設計をしているので、以前のオフィスよりも圧倒的に会社の雰囲気を感じやすくなっていると思います。
採用担当者だけでなく、従業員が台所に集まってお昼を食べている様子や、夜は飲み会をしている様子、打ち合わせをしている様子なども視界に入るので、〝どんな人たちが働いているのか”〝どんな環境なのか”が非常に分かりやすくなったかなと。
夜面談に来られた方は、面談終わりに台所の飲み会に少し参加して帰られる方なんかもいて、選考中に面接担当者以外と話す機会が自然と生まれています。」
▲台所前のスタンディング席。立って作業をしたい時、本を読んだり、軽く雑談をしながら作業を進めたい時に適したスペースとなっている
沢木社長「あとは、移転時の目標にも掲げていたブランディング効果です。
我々のお客さま、人事・総務の方たちが、オフィスに興味を持って足を運んでくださるようになりました。
既存のお客さまとのエンゲージメントの向上にも繋がりますし、オフィスについてお問い合わせをいただいたり、見学会を開いたりすることで、新しいお客さまとの接点も生まれています。会社の事業にとっても、非常に価値があるオフィスですね。」
社内外の目的をしっかりと考え、社員が辞めないオフィスづくりを
離職率を下げる…望まない離職を防ぐためにはハイジーンファクターに注目し、組織の課題を見える化すること、そして執務環境への不満が多い時には改善策のひとつとしてオフィス移転が有効であることが分かりました。
最後に、このように作り込まれたオフィス移転プロジェクトをやり遂げた沢木社長から、オフィス移転のアドバイスをいただきました。
沢木社長「オフィス移転において大切なことは3つあります。
1つは、目的を明確にすること。目的そのものに正しい・正しくないはないと思うのですが、〝何のためにやるのか”という目的を明確にすることは非常に大切だと思っています。
2つ目は、少し近いのですが、今回の移転は短期的に収益を生みたいものなのか、資産を形成したいものなのか。経営的に言えば、PLなのかBSなのか。
とにかくコストパフォーマンスを良くしようぜって話なのか、我々みたいに社外の皆さんに足を運んでいただくきっかけになって、結果として収益に繋げるのか…どちらの方向性に舵を切るのか決めることがとても重要です。
3つ目は、実際に利用する社内のメンバーが、当事者意識をもてるような関わり方を考えること。会社として新しいチャレンジをする時に、当事者意識を持つことができないと、それを受け入れづらくなってしまう方もいます。
その観点で言うと、我々の場合、ヒトカラメディアさんにご支援いただいたワークショップは、非常に意味があったと感じています。
移転の目的を明確にし、従業員の方々をうまく巻き込み、みんなの満足度が高まるオフィスを作れると良いのではないでしょうか。」
採用をしているはずなのに人手が足りない…そんな時は離職率に注目し、組織の課題を見える化してみましょう。
従業員にとって働きやすい環境になれば、離職率が下がることはもちろん、採用や生産性の向上に繋がる可能性も高く、良いことばかりです。
OKANさんのハイジは無料で始められるとのことなので、「組織の課題をどう調べれば良いか分からない」という方は、活用してみてはいかがでしょうか。