原作『攻殻機動隊』全話解説 [第三話]
前回 [第二話]
第三話 JUNK JUNGLE
第三話は「確かに写ってたんだ」でお馴染み押井版「攻殻機動隊」(GITS)の骨子に使われたエピソードであり、さらには衝撃的なサービスシーンもあったり、漫画「攻殻機動隊」を象徴する非常にアイコニックな回です。そして光学迷彩で透明化した者同士の戦闘シーンは、この漫画最大の難所といっていいほど難解です。
さらには複雑な外交政治、陰謀、策略、表面的なストーリーの裏側で、さまざまな物語が同時進行する非常に複雑な回になっています。この事件の真相をちゃんと把握している読者・視聴者は実はあまりいないんじゃないか、と思います。
GITSの解説も合わせた内容になっているので、そちらが難しかった方も読んでいただけたら幸いです。また、攻殻世界の精密な銃器設定にも触れています。
(電子書籍の方はページ数がズレます。プラス4してください)
p50・51
バトーが森の中から、屋敷の人物を監視しているところから話はスタートします。ジャングルのように見えますが、日本の森林です。
攻殻機動隊が設立されてから約3か月後の物語です。前話は花見から始まりましたが、今回は猛暑です。原作は季節の表現も細かいので注目してみて下さい。
見えづらいですが、バトーが光学迷彩で透明化したフチコマから這い出ています(p51・2コマ目)。
そこに光学迷彩を肩かけた荒巻がやってきて、正体不明の超ハッカー人形使いが出没し始めたことを報告します。
ガジェット的な注目ポイントとしては、p50・51でバトーの服装の色が違います。特にp51・2コマ目には服に草木の文様が映り込んでいます。バトーの迷彩服は、カメレオンのように、周囲の色や状態を読み取っているようです。
p52・53
荒巻は監視中の人物を「亡命希望中の軍政指導者」とはぐらかしますが、後にガベル共和国のマレス大佐と判明します。
場面変わって草薙素子の電脳空間。なんとそこはレズセックスの真っ最中なのでした。
『エンドルノ』というのは同性の性的快楽をマルチで記録できるソフトで、素子はこれを用いて”副業”を行っています。高性能の義体を所持する素子は高感度の疑似体験ポルノ(違法)を生成できるというわけです。
「アドレナるわ」は漫画「攻殻機動隊」を代表する名台詞ですね。
なお、北米版などの地域ではこちらのページはカットされているそうです。
p54・55
脳潜入したバトーに情事を覗かれ、素子はドラッグ(プログラム)を分解されてしまいます。感覚共有したバトーが苦しがっていますが、『エンドルノ』が異性には効果がないという注釈はこのことを指すようです。存在しない器官には快楽を伝えられないのでしょう。
p56・57
舞台は移って日本の外務省。荒巻と外務大臣が会話を交わします。ここでガベル共和国の解説が行われます。
ガベル共和国はかつてはマレス大佐が率いる軍事政権の小国でしたが、少し前の革命で民主化しました。失脚したマレス大佐がただいま日本に滞在しており、彼の亡命を認めるかどうかで政府の判断が割れています。
そして日本とガベル共和国代表(マレスではありませんよ)との秘密会談を人形使いが妨害する恐れがあるため、それを公安9課が阻止する…というのが第三話の目的です。
外務省としては、ガベル共和国とODAを結ぼうにも、その場合は、国内に滞在している亡命希望のマレス大佐の存在が悩ましいという状況です。
それに加えて、
という一連の会話に注目です。
事件には直接的には絡まないのですが、ここのページで
①ガベル共和国のプラチナ鉱脈を軍政派(マレス)が取り仕切ってる。
②そのプラチナで不審な取引をしている者が国内にいる。
②ガベル共和国の軍政派に戦術指導している者がいる。
④国内にマレス大佐がいる限り、日本はガベル共和国と友好関係を結ぶのが難しい。
という4点の情報が提示されたことを覚えておいてください。
余談ですが、p56・3コマ目に、第九話にて”人形使いをチェロケースに入れて運ぶ6課(外務省)の二人組”がひっそり初登場してます。
p58・59
外務省の一室に外務大臣の通訳が人工頭蓋を外されて眠っています。そこにやってくる荒巻・素子。荒巻曰く23分前に通訳の脳にウイルスが侵入したそうです。(23分で到着した二人はすごい!)
ゴーストハックした通訳にガベル共和国代表を襲わせる目論見だったのでしょう。はたして犯人は噂の人形使いでしょうか。
ウイルスが通訳のゴーストを支配するまであと二時間、移動しながらハックを続ける犯人をそれまでに捕らえなければなりません。
p60・61
トグサと素子がトレーラーで公道を走っています。『セブロ・スナブ』はセブロがメーカー名で、スナブは銃身が4インチ以下の小さい銃のことを指します。セブロ社の銃はアップルシードやドミニオンでも登場します。架空のメーカーです。セブロは9課の標準装備のようです。
サイトーは拳銃の射撃が苦手らしい。意外。
GITSの「俺はマテバが好きなの!」の元ネタです。シリーズでも特に印象的なセリフですよね。
さて、ややこしいのですがこの「マテバ」というのはイタリアに実在する銃器会社です。とくにリボルバーの「マテバ 2006M」(とその改良型のマテバ 6 ウニカ)が知られています。しかしながら本作とGITSに登場するマテバの「M2007」は実在しない架空の銃です。*1
マテバ社のリボルバーは普通のリボルバーと違って銃身が下部にあるのが特徴で、独特のフォルムを形成しています。シリンダー最下部の弾丸を発射することで反動の抑制が期待されるという触れ込みですが、複雑な機構が仇となりあまり普及しなかったそうです。*2
古典なリボルバーを好む姿はサイボーグ部隊でひとり生身で活躍するトグサを象徴しているのかもしれません。
残念ながらトグサのマテバへの執着は原作では以降ありません。素子に却下されたのでM2007も漫画本編には登場しませんでした。この一つのセリフを膨らまし、シリーズを代表する口上にまで仕立てたGITSの伊藤和典の脚本は見事でした。*3
GITSでは素子は「ツァスタバにしなさい」とトグサに叱責していますが、漫画では「セブロの5ミリ20連にしなさい!」と注意しています。
拳銃に20発も装填できるのですからよほど小さな実包なのでしょう。実はこれが非常に示唆に富んだセリフなのです。
現実では、自動拳銃は9mm口径のものが世界的に普及しており、5mmなどという小さな口径を用いる銃はほとんど存在しません。一般的に、口径が大きい方が銃の破壊力は強いとされており、アメリカ人が(9mm弾よりも一回り大きい).45ACP弾を好むのも、そのストッピングパワーを信頼しているからと言われています。
しかし、攻殻機動隊の世界では「小口径少反動強貫通力」の弾がサイボーグ相手には有効という設定があるのです。口径の小さい弾は弾速が速い特徴があり、速い弾は貫通力も高く、全身硬質のサイボーグには破壊力よりも貫通力が有効というわけ。我々の世界では一見貧弱そうな5mm口径銃がこの世界では強力、という情報密度が詰まりまくりな一言なのでした。*4. *5.
ちなみにSACではセブロM5という20発装弾できる5ミリ拳銃が9課の標準装備になっていますが、「セブロの5ミリ20連にしなさい!」というセリフがネタ元になっているのだと思われます。ネタの拾い方が細かいですね。
異様なほど細かく設定が作り込まれたSF銃器はシロマサ漫画の大きな魅力の一つです。
以下は細かい話になるので、お暇な銃器マニアの方はお読みください。
(*1. SACのマテバは「M-2008」という架空銃になっている。GITSのマテバは「2006M」がモデルだが、SACのM-2008はその後継「6 ウニカ」をモデルにしているためデザインがやや異なる。ただし、SAC一期最終話でテロを起こそうとするトグサの持つマテバは実在する「2006M」。それを止めに来たバトーが手渡すのは「M-2008」…という空想と実銃が行き来する粋な演出なのであった。)
(*2. マテバのリボルバーは、弾を装填する際のスイングアウトも、銃の独特の機構から、シリンダーが横に滑り出すのではなく、銃上方に跳ね上がる奇怪な構造になっている。GITSでも再現されてるので注目。)
(*3. GITSにて「頑丈な車だぜ。9mmじゃ傷もつかねえ。」というトグサのセリフがある。マテバのリボルバーは本来.357マグナム弾用の銃だが、劇中の「M2007」は9mmパラベラム弾を使用している設定がある。9mmパラは自動拳銃(オートマチックピストル)で使う銃弾で、普通はリボルバーでは使えない(正確にいうと、リムがないため排莢ができない)。ということは、ムーンクリップなどを使って、部隊に支給される汎用弾を使えるようにわざわざ改造していると考えられる。トグサくんの献身なマテバ愛に涙。)
(*4. 小口径の弾薬が装甲やボディアーマーに有利というのは事実。80年代中頃から、高性能化するボディアーマーに対抗するため小口径の専用弾と共に開発されたのが「FN P90」(FN社)だった。これらの銃器形態をPDWと呼ぶ。サイボーグは体全体がボディアーマーのようなものだろうから、小口径が有効というのは理にかなった設定。ちなみに、P90が生産されるのは90年からなので、連載(89年)に当時最新のミリタリ事情が反映されていたのである。
GITSではP90をモデルにしたツァスタバ「CZN-M22」という架空の短機関銃が素子の愛銃として使われる。ポスターで持ってる銃はコレ。ツァスタバ自体はセルビアに実在する銃器メーカで、こっちはたぶん押井の趣味。)
(*5. 素子の勧める「セブロの5ミリ20連」だが、単なる5mmの拳銃弾薬だとその小ささゆえ威力が心配になる。実は現実でも、時速と破壊力が優れているライフル弾をそのまま小型化し、それを拳銃に転用すればいいのではないかという発想が、21世紀に入ると実用化されるようになる。
その代表作がP90の弾薬(5.7 mm)を使う「FN Five-seveN」で、装弾数も20発。奇遇にも攻殻機動隊の「5ミリ20連」拳銃にスペックがそっくり。また、このページで素子の持つセブロC-25にも「P90のマガジンを下に移したもの」というト書きがある(こちらは6mm×50発)。
しかし、この先駆的なFive-seveNですら世に出たのが1998年。原作の連載開始は89年であるので、未来を10年先取りした見事な未来予知の会話であった。ちなみに、セブロC-25は大日本技研にて公式に立体化された。)
解説まで欄外だらけになっちゃった…
p62・63
通訳が感染しているウイルス「HA-3」は第4次非核大戦に使われたAIであることが語られます。「昔はアジアとEC 電脳規格が違ったからHA-3は敵にだけ作用してたんだけど」というセリフがありますが、世界観が地続きの『アップルシード イラスト&データ』の年表いわく、この世界では、1999年にアジアとECで戦争が勃発し、2026年にアジアの勝利で終戦しています。そのときの兵器ということでしょう。("いま"は2029年)
ちなみにECは欧州共同体で、EUの前身です。単行本が1991年だからね…。
余談ですが、このバンに書かれた「青心工機」の文字ですが、これは9課の偽装バン。SACでもたまに出てくるので注目。青心は士郎正宗の単行本を多く出版している大阪の出版社、青心社のこと。
p64・65
視点変わってゴミ収集車とその作業員。男の片方が公衆電話にカードを差し込み何かを送信しています。ちなみに現実でもグレーの公衆電話はISDN回線を使ってネット接続が可能です。4G・5Gのネットが日本を覆っても未だに公衆電話が消えてなくなっていないことを考えると、意外とありえなくない未来なのかもしれません。
p66・67
どうも彼は第二話の聖庶民救済センターの出身のようです。
p68・69
公衆電話にイシカワたちが到着しますが、すでにハッカーは退去した後でした。しかし住民の話から、ハッカーがゴミ収集車で回りながら公衆電話でプログラムを送信してることに気づきます。
ちなみに助手席で地図を広げているのはバトーではなくボーマ。原作では数少ないボーマの活躍?シーンでしたが、無常にもGITSでは役目をバトーに奪われ存在が全カットされました。
p70・71
情報部の中島という男がマレス大佐とプラチナ目的で癒着してるという説明がここで出ます。ガベル共和国軍政派がプラチナ鉱脈を所持しているという情報はp56で出ていましたね。
ちなみにこの情報部の中島という男はすでに出演していて、p58で荒巻が外務省(17フラット)に赴いたときに姿を確認できます。
たしかに「情報部」と言っている。細かい…
ということは、「そッ」は「捜査は俺が」とでも言いかけてたんでしょうか。
トグサと素子はトレーラを駐車場に止め、フチコマに乗り換えます。
p72・73
事件の状況が整理されます。いま通訳には、秘密会談でガベル共和国代表を襲撃するようHA-3が注入されています。ハッキングに旧式のHA-3が使われているのは、バレた場合に逆探知できない最新型では疑いが前指導者であるマレス大佐にかかるため、それを避けるためだと素子は推理しています。つまり、素子はこの事件の裏で糸を引てるのはマレス大佐(とその共犯者)だと考えています。
一方、GITSでは「あるいは我々にそう思わせたい別のスポンサーがいるのかも…(中略)そう囁くのよ、私のゴーストが」という素子のセリフが追加されています。
「別のスポンサー」とは誰のことでしょうか。実はこの事件の真相につながる重要なセリフです。
素子たちはトレーラーから透明化したフチコマに乗り移り、清掃車の制圧に動き出します。
余談ですが「1時間 50円」という駐車料金の看板が気になります。攻殻世界の日本では大幅なデノミがあったんでしょうか。
「シュトラウスOP257」とは『常動曲』のことです。Op.はクラシックの作品番号。原作最終話のバトーの車のパスワードは「ヴィヴァルディRV257」でしたね。公安9課はクラシック好き?
p74・75
ハックをしている清掃員の男は、前日に飲み屋で出会った「親切な男」から防壁破りを手に入れたことが明らかになります。その「男」が各所の公衆電話に防壁破りのカード(つまりハック用のプログラム)を貼り付けています。
清掃員は別れた妻に対してゴーストハックをしかけているつもりですが、実際は知らず知らずのうちに通訳のゴーストハックに加担させられていたのです。
しかし、自分たちが警察に追われていることを知り、「男」にそれを知らせるためゴミ収集車を走らせます。
p76・77
例の「男」が公衆電話にカードを貼り付けています。(この仕事を前日にやっていれば公安に見つかることもなかったのでは…と思うが、それでは話にならないか)
そこに先程のゴミ収集車がやってきます。
「ワイヤー第3液を予備タンクに切り替えます」というフチコマのセリフ。フチコマのワイヤーは内部で液体をかけ合わせてその度に生成されていることが伺えます。
p78・79
清掃員が「男」に追いつきます。
「俺を売りやがったな!!」と「男」が激怒しますが、清掃員は善意で危険を知らせに来ただけなので勘違い。
ゴミ収集車の右上にある「チャッ」という擬音に注目して下さい。ここに透明な何かが着地しています。もちろんフチコマです。それに気付いた「男」が裏切られたと勘違いしたのでした。
「ザッ」という吹き出し擬音もフチコマの存在を示しています。
さて、少々わかりにくい表現ですが、銃撃しようと銃を構えているp78の4コマ目の「男」ですが、「ブゥン」となにやら半透明のものが男の身体を包み込んでいます。これは何かというと、男が光学迷彩を起動して透明化するその一瞬を表現しているのです。よくみると男の右腰あたりに装置のようなものが見えます。9課の「隠れ蓑」とは起動方が異なるのが面白いですね。
ゴミ収集車ごと掃射され、爆風で透明化していたトグサのフチコマが顕になります。
このよくわからないコマは透明化した男が移動しているのを表現しています。よくみれば目鼻口が確認できます。
透明化した「男」が裏路地に逃げ込んでいくのが描かれています。吹き出しの”矢印”の位置に注目して下さい。透明化した素子フチコマが屋根上にいるのです。それから、トグサがここで伸びていることも頭の片隅で覚えておいてください。
p80・81
さて、ひょっとしたら本漫画でもっとも難解かもしれない2pです。
光学迷彩で透明化した男が逃げていくさまが擬音だけで表現されています。
細かく解説しますと、p80の1コマ目の「バシャッ タッタッ」は男の足音で、手前の消火栓に向かって走っています。2コマ目の「ズシャン」は屋根上で待機していた素子のフチコマが路地に降り立った音です。男に立ちふさがるように位置しています。
要は1コマ目と2コマ目で男と素子が向かい合う構図になっています。映像でいう切り返しになっています。
銃撃戦に。構図は変わらないので、右のコマ(3コマ目)で銃撃してるのが「男」、それに反撃して素子がフチコマから一撃を打ち出してる様が左のコマです。ちいさい「ドン!」がそれです。もうなにがなんやら。
余談ですが、「インビジブル2」という映画のクライマックスが透明人間と透明人間の殴り合いのアクションでした。両者透明なので意味不明でしたが、攻殻の世界を真面目に実写化するとああなるのかもしれません。
素子の銃弾は消火栓を打ち抜き、噴出した水が「男」の光学迷彩を濡らし、迷彩を無効化しました。光学迷彩全般が水で実体化するのかは不明です。のちに6課が雨のなか光学迷彩を使っていたことを考えると、彼の使う「17式光学迷彩」はグレードが低いのかもしれません。
その次のコマ。姿の現れた「男」にドカドカドカ!と銃弾が放たれますが、どれも外れます。よくみると、3発目が不自然に下段に逸れてるのがみてとれます。
銃撃していたのはAI・フチコマで、それを素子がとっさにマニュアル操作して、弾を外させたと考えられます。電脳を破壊せず生きたまま尋問したいからです。
位置関係に注目してもらいたいのですが、素子のフチコマが路地から飛び出し「男」を狙っています。そのコマをよくみると背景に先程「男」に撃たれてノビたままのトグサのフチコマが確認できます(p81の3コマ目)。
先程素子フチコマは「立ちふさがるように」男に降り立ったので、男は裏路地を引き返しています。だから最初に掃射したときの路地に戻ってるのです。まるでセットがそこにあるかのような緻密な空間の再現性も士郎正宗の漫画の魅力の一つです。
「男」を撃ち損ねたフチコマ。
さて、話は戻るんですが、p81で犯人に向かって射撃したのはトグサだと私は長らく思っていました。だから、2コマ目の「なぜジャマするんです!?」のセリフもトグサの文句だと思っていました。
しかし、精読するとp81の3コマ目でノビたままのトグサフチコマが確認できるので、射撃のしようがありません。そして7コマ目の 素子「トグサッ 寝てないで援護しなきゃだめでしょう!」からも、やはりトグサが撃ったわけではなさそうです。したがって射撃したのはフチコマと導き出せます。
英語版ではトグサが話しているように翻訳されてますが、上の理由から誤訳でしょう(仕方ない気もします…)。
そして犯人の頭を狙って怒られたのはフチコマですから、「アタマなら撃てたのにィ もーやだなオレ」というセリフもやはりフチコマです。フチコマが「オレ」という一人称を使う場面は他にないので、ここも勘違いしやすいポイントです。
「標的は市場の人混みに紛れこむコースですけど私もろとも突っ込みます?」も同じくフチコマで、「(戦車の)私もろとも突っ込んでいいの?」という意味。前のコマと次のコマでフチコマの一人称が「オレ」と「私」に変わってるので混乱します(さらに第四話では「ボク」となります)。
これを正しく読み込めというほうが無茶な気がします。これが国語のテストに出たら死屍累々です。
余談ですが、捕まえ損ねた男が逃亡する際、女性を一人押し倒しますが、これは男がゴミ収集車を銃撃したときに巻き込まれる女性と同一人物です。元の路地に戻ったので先程の女性もいるんですね。ちなみに初登場はp77の1コマ目の背景。
酷い目にあった女性がまた酷い目にあうっていう、ギャグだと思われます(ギャグまで分かりづらい…!)。
p82・83
市場に逃げ込んだ「男」を追うため、素子はフチコマを降り単独で追いかけます。素子は「男」を見つけ手錠をかけますが「ウソだ!そいつは警察じゃない!」という男の言葉を信じた民衆に素子が取り押さえられそうになります。
「強制認識音声」は他に登場せず説明もありませんが、文字通りに音声を強制的に事実と思わせる装置のようです。SACでは5話にて「強制認識言語プログラム」という形で登場。
手錠を壊そうと男が撃った弾が市民にあたり、強制認識音声の効果が切れた市民は散り散りに逃げていきます。
p84・85
男は上方に飛び移り、銃を構えて素子を狙います。
しかし素子の右腕には少女がしがみついており、銃を引き抜けません。それで…
素子は左手を腰に回し銃を引き抜こうとしますが、敵の銃口がすでに素子を捉えていました。
その瞬間、駆けつけてきたトグサが「男」を銃撃し、無事犯人を無力化したのでした。リボルバーではないので、これが素子の勧めた「セブロの5mm」なのかな?
p86・87
素子は「あ~痛かった」。犯人が最後に放った弾が足に当たったようです。さすが国家の備品である最高級ボディは丈夫です。
前ページでトグサが狙撃するとき「あッ」と叫んでいたのは、素子がとっさにトグサの電脳に侵入して、急所への射撃を外したからでした。
フチコマが「んだんだ」と同意しているのは(フチコマもさっきはアマタを狙ってたくせに…)というギャグ。
p88・89
バトーの「少佐おひとり?」はたぶん素子のレズセックスのこと。
マレス大佐の住居にヘリコプターがやってくる。降りてきた謎の男はこの事件の真犯人「人形使い」。邸宅にはほかに情報部・中島がいる。
中島「攻機はHA-3を逆探しているぞ人形使い!」
と焦る中島。小ネタではありますが、荒巻が外務省に赴いたとき(p59)のコマを目を凝らして読むと「!」と反応している中島が描かれています。この会話を聞いて慌ててマレス邸に逃げ込んだのでしょう。こ、細かい…
p90・91
人形使い曰く、捕まった「男」は人形使いによって殺し屋という偽の記憶を植え付けられたただの一般人です。
自分の手を汚さず、ゴーストハックによって他者の記憶を操作し、自在に操る。ゆえに付いた二つ名が「人形使い」というわけです。
マレス・中島・人形使いで言い合いが始まります。プラチナ利権で癒着しているマレスと中島が、人形使いに依頼してガベル共和国代表を暗殺しようとしたが、人形使いはさらに金を引き出そうとのらりくらりと詭弁をたれている…というシーンです。
そこに突入した荒巻公安。マレス・中島を逮捕します。
p92・93・94
p57の荒巻「それはそうと軍政側に戦術指導した奴がおるな…」というのは中島のことでした。
マレスの持つプラチナ鉱脈で利権を得たい中島が、復権を目指すマレスと共謀した争乱が、この度の外相通訳ゴーストハック事件の真相でした。
これにてマレス大佐は本国へ強制送還されることになるでしょう。「キャッシュの10万ドル」は人形使いに支払うお金だったのでしょうね。
しかし、そこにいる「人形使い」は彼もまたゴーストハックで操られた”人形”なのでした。
このオチが、GITSでは荒巻の「人形みたいな奴だ」という一言で済まされているため、やや不親切な気がします。よく分かってない人のほうが多いんじゃないでしょうか。
清掃員の男が取り調べを受けています。男がハックしていたのは妻ではなく政府の通訳者で、しかも妻や子供といった記憶はすべて植え付けられた偽物でした。
フィクションは虚像ですが、それを体験する我々の脳内で起こるニューロンの発火はたしかに実在するものです。はたして現実と夢は明解に区別できるものなのでしょうか。そんな哲学的な問を考えてしまうセリフでした。
つづく…
p267
誤字ではありません。
ページがおーーきく飛んで第九話・p267の解説になります。(電子書籍の方は4p足してp271です)
本件から約一年後、この事件の全貌がようやく明らかになります。
第九話にて人形使いの正体が外務省のプログラムであったことが明かされますが、人形使いは次のように語ります。
「392日前」というのは本事件の一ヶ月前ほどになります。
つまり、「9課」の存在を知った人形使いは、プラチナ関連の”ポイント”をあげることで、9課になにかの仕事をやらせようとしたようです。
プラチナといえば、p56・57の荒巻と外務大臣の会話で、マレス大佐のプラチナの話をした前後に、荒巻は意味深に外務大臣を睨みつけ「プラチナ関連の金の流れを監視したら面白いでしょうな」と発しています。ガベル共和国のプラチナを抑えていたのはマレス大佐で、そのプラチナ利権を巡って起きたのが例の事件でしたね。
この時点で人形使いと外務省の怪しい関係を荒巻は感じ取っていたようです。
また、同ページで、日本がガベル共和国とODAを結ぶにはマレス大佐の存在が邪魔であることも示唆されていました。
つまり、この外相通訳ゴーストハック事件の真相は、
「マレス大佐を疎ましく思っている外務省が、人形使いを使い、中島とマレスが結託するよう誘導し、公安9課を動かしてマレスが国外追放されるよう仕組んだ陰謀」
だったということが結論できます。
GITSでは、プラチナと中島の下りは省略されていますが、
とセリフで説明され、「外務省が人形使いを使って演出した狂騒」であったことがより直接的に示されています。
したがって、素子のいう「あるいは我々にそう(マレスが黒幕と)思わせたい別のスポンサー」とは外務省のことだったのでした。
実は第3話が丸ごと外務省の陰謀だったという真相が、p267の一コマでさらりと語られていました。
次回は 第4・5話 です。
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参考文献
攻殻機動隊 MEDIAGUN DATABASE
http://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/index.php?%B9%B6%B3%CC%B5%A1%C6%B0%C2%E2
マテバ 2006M MEDIAGUN DATABASE
http://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/index.php?%A5%DE%A5%C6%A5%D0%202006M
マテバ 6 ウニカ MEDIAGUN DATABASE
http://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/index.php?%A5%DE%A5%C6%A5%D0%206%20Unica
FN P90 MEDIAGUN DATABASE
http://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/index.php?%C3%BB%B5%A1%B4%D8%BD%C6/FN%20P90
FN ファイブセブン MEDIAGUN DATABASE
http://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/index.php?FN%20%A5%D5%A5%A1%A5%A4%A5%D6%A5%BB%A5%D6%A5%F3
Ghost in the Shell (1995) Internet Movie Firearms Database
https://www.imfdb.org/wiki/Ghost_in_the_Shell_(1995)
Ghost in the Shell Stand Alone Complex Internet Movie Firearms Database
https://www.imfdb.org/wiki/Ghost_in_the_Shell_Stand_Alone_Complex