カラオケ

舞台はカラオケボックスの中。二人の男がいる。一人はファンキー加藤に似ていて、一人はゴリラに似ている。役名は加藤とゴリラとする。加藤はセーラー服を着ていて、ゴリラは学ランを着ている。テーブルには大量のサングラスと眼鏡の山が出来ており、その数はおよそ200に及ぶ。加藤はサングラスを一つ取り、へし折る。するとイントロが流れ始める。歌は「千の風になって」。加藤はハダカの魚肉ソーセージを持ち、渋い声で粘ったらしく歌い始める。魚肉ソーセージには小型マイクが埋め込まれている。

加藤 ♪わたしのぉ〜おはかのぉまーえでぇ〜泣かないでください〜 そこにわたしはぁいませんぅ〜 ねむってなんかぁぁいませんぅ〜

ゴリラは耳にぶらさげていたバナナの房から一本を引きちぎり、食べ始める。
加藤はなぜかサビからL'Arc〜en〜Cielのhydeような歌い方になる。

加藤 ♪せんのかぁーーーぜぇーーーにぃーーー! せんのかぁーーーぜになぁーーってーーーぇ! あのぉーーーおおきなぁそぉらをーーーふきわたぁてーいますー……

ゴリラがバナナを食べ終わると同時にサビが終わり、すると音楽も消える。音楽は消えるが、隣の部屋や通路から少し音が漏れているのか、尾崎豊のアイラブユーがかすかに聞こえる。

ゴリラ お前も食うか。
加藤 おいどんは遠慮するでござる。
ゴリラ そうか。
加藤 果物というものは、なんともあまったらしく、おいどんの口には合わないのでござる。
ゴリラ 最近どうなの、(小指を立て)コレとは。
加藤 ……。
ゴリラ え?
加藤 サツキコには、最近他に好きな人が出来たように思うのでござる。
ゴリラ そうなのか?
加藤 いやはや、前とは明らかにまなざしが違うのでござるよ。別においどんのことを嫌いになったわけではないと思うのでござるが、おいどんの向こうに違う人を見ているような気分になるのでござる。
ゴリラ お前の勘違いかもしれないぞ。
加藤 ……。
ゴリラ お前の、向こう、か。
加藤 どこか遠いところ、それでいて、近いところ、そんな目をしていて、心ここにあらずといった次第でござる。
ゴリラ まあ、あんまり気を落とすなよ。今のところはまだ、うまくやってるんだろう?
加藤 まあ、そうなのでござるが……
ゴリラ ……もしかしたら。
加藤 ぬ?
ゴリラ 何か隠してるんじゃ……いや、なんでも。
加藤 気になるでござる。
ゴリラ それより俺は歌うよ。ここで歌うよ。

ゴリラは眼鏡をへし折り、音楽が流れる。シェリル・ノームstarring May'n「ダイアモンド・クレバス」のイントロがながれる。イントロ中、ゴリラが少ししゃべる。

ゴリラ まあ俺らはさ、ずっとここにいるから。

ゴリラ、魚肉ソーセージを持ち、とても爽やかな美声で歌い始める。

ゴリラ ♪かみさまぁにぃー こいをーしてぇたこぉろはー こんなぁわかぁれがぁー くるとぉはおもぉってなかったよぉー

加藤、ゴリラの耳のバナナを次々と引きちぎり、号泣し始める。

ゴリラ ♪もぉにどーとー ふれらぁれないならー せめてさいごにぃー もいちどだきしめてほしぃかったよぉーー うぅーぅー

加藤、バナナを剥き、物凄い形相で食べ始める。

ゴリラ ♪いっつろんぐろんぐ ぐっばぁい さよならぁ さよならぁあ なんどだぁって じぶんにぃ むじょうにぃ いいきかせてぇ てをふるのはぁやさしさぁーだよねぇおおー いまつよさがほしぃぃー……

ゴリラの声は消え、本家の音源とクロスする。
二人は立ち上がって、机を倒す。大量のサングラスと眼鏡が客席に雪崩れ込む。音楽は大きくなり、音楽のまわりにどこか地響きの声が聞こえてくる。やがて地響きがおおきくなり、全てが崩れるような音がする。

いいなと思ったら応援しよう!