【新作】可惜夜(あたらよ) 20200925
小さな森に、今日も彼女はひとり暮らしています。
時々、友達になった動物たちが会いに来たり。
時々、新しい景色を発見したり。
毎日は静かに、けれど彩り豊かに過ぎてゆきます。
ある日彼女は薪を集めて森の中を歩いていました。
陽が沈む頃には薪は沢山集められたけれど、何となくまだ外に居たくて鼻歌を歌いながら。
適当なメロディ、思いつくままの音を、思いつくままの高さで。
森が少し開けた場所に出ました。
そういえばこの辺りは春になると蝶が飛んでいたわ。
春の景色を思い出しながら星の光が注ぐ場所へ足を踏み出しました。
かさり、かさり。
足元から草を踏みしめる音が聴こえ、樹々に囲まれた空が見えました。
ふわり、風が優しく足元から吹き上がりました。
濃紺の空に、小さく瞬く星がこちらを見ていました。
ふと彼女は、小さい頃に聴いた話を思い出しました。
”命が尽きてしまった大切な人たちは、濃い藍の海で安らぎながら、君を見ていてくれるんだよ”
遠い昔、彼女がまだ魔法を扱えなかった頃。
妖精の粉を手のひらで遊ばせながら、その人は言いました。
言葉は彼女の心にゆっくりと沁みて、その景色は彼女の瞼に焼き付きました。
薪を沢山背負いながら、秘密の場所を見つけた彼女は遠い思い出と命尽きてしまった大切な人たちを想いました。
一歩一歩足を進めるごとに、彼女の周りに星の光が集まりました。
遠い空の色をそのままに、四角く光を反射する欠片はふわりふわりと彼女の周りを漂い続けました。
『可惜夜(あたらよ)』
”ぼくたちはいつも君のことを見守っているよ”
そう告げてくれているように。
❁BASE
20200925 一重梅 ichica
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートをお願い致します。いただいたサポートはアクセサリ製作費に充てさせせていただきます。