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母から先生への手紙

小学生の頃、先生から渡されたプリントがあった。

その時に、「ぜひ、ご両親から先生にお手紙を書いてもらってください」と言われた。

強制ではなかったが、母が先生に手紙を書いてくれたら、先生が喜ぶだろうと考えるとウキウキした。

早速、自宅に帰り、母にプリントを渡して「先生に手紙を書いてくださいって言っていた。書いてくれるよね?」と言ってみた。

母は快く書いてくれると言ってくれた。

その夜は嬉しくて嬉しくて、眠る直前まで「手紙を書いてね」と言っていた。

翌日、母から先生への手紙が置いてあった。

それを持って、学校に行き、先生に渡した。

が、その時の先生の表情は、私の予想に反して何の喜びも見て取れなかった。

でも、母からの手紙を先生が受け取ったと言うのが嬉しかった。


聞くと、先生に手紙を書いたのは、2人だけだったらしい。

そっか…。母は2人のうちの1人なんだと嬉しかった。


約1週間後。

2人のうちの一人の生徒のお母さんからの手紙が、プリントになって生徒に配られた。

何が書かれていたのかは覚えていない。

でも、その時に先生が「先生のプリントを読んで、感想のお手紙を書いてくださったお母さんがひとり、いらっしゃいました。とても良いことが書かれていましたので、ぜひ、みなさん読んでください」と言った。

『ひとり』『とても良いこと』

その2つの言葉が、妙にわたしの心を寂しくさせた。

消え入りたかった。

それ以上に、あんなに「先生への手紙を書いて」とお願いして、一生懸命に書いてくれた母の心をないがしろにされた気分に陥った。

母が哀れに思えた。

母の手紙は個人的な気持ちを書いてあったのかも知れない。

だから、全生徒に発表する内容ではないと判断されたのだと思う。

でも、幼いわたしには、そこまで考えが至らなかった。

ただただ悲しかった。

必死に涙をこらえて、もう先生のお願いごとを真剣に考えるのは止めようと思った。

ほんの少し、とらえ方を変えれば良かっただけなのだが。


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ひとえ
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