生まれて初のボーナスで買ったものは、喧嘩のもととなった
働き始めた初任給で、母方の祖母の下駄を買った。
なぜ、一緒に住んでいる祖母ではなく、母方の祖母に買おうと思ったのか覚えていないが、その時は、何が何でも祖母に何か贈りたかった。
何を贈れば良いのか迷ったが、すぐに使えるものが良いのではないかと思い、いつも履いている下駄にした。
祖母の下駄は、一般のお店では売っていないらしい。
祖母の自宅の近くの靴屋さんが、祖母のためにわざわざ仕入れているとのこと。
注文に行った時の嬉しさは、何年経っても覚えている。
少しの誇らしさと、自分が働いたお金で誰かの物を買うという高揚感。
お店の人に、祖母の下駄を仕入れて欲しいとお願いした。
鼻緒は赤だ。
そして、少し柄が入っている可愛いものにして欲しいと言った。
が、それは母に止められたので、少しくすんだ赤の鼻緒の下駄をお願いした。
それから数日後、下駄が届いたと連絡があり、購入したそのまま祖母に届けた。
「こんな立派なものを」と涙を浮かべていた。
祖母がいつも買っているものと同じだから、そこまで立派な下駄ではない。
でも、喜んでくれたのが嬉しかった。
その年の冬のボーナスは初ボーナスだ。
一緒に住んでいる祖母のためにファンヒーターを購入した。
祖母は毎朝、寒い中ストーブをつけて部屋を暖めておいてくれる。
でも、当然ながら祖母が起きる時は寒いのだ。
だから、ファンヒーターのタイマーで祖母の起きる前に部屋を暖かくしておけると思ったのだ。
だが、祖母は喜んではくれなかった。
なぜなら、父の機嫌が悪くなったからだった。
なぜか、父と祖母は仲が悪かった。
私が母より先に、祖母にプレゼントをしたのが気に入らなかったのだ。
だから、「ファンヒーターなんて、ちっとも暖かくならない」と文句を言っていた。
父が文句を言うたびに、母が咎め、それをまた父が怒り、母が止めさせようとして、次は父が祖母に対して文句を言う。
意味が分からないケンカになっていた。
確かに、ストーブのほうが我が家には便利だった。
お湯を沸かせるし、煮物もできた。
ストーブネットを張って、洗濯物が干せたし、干し芋もできた。
そして、しばらくして、ファンヒーターは、わたしの部屋に移動して、わたし専用になった。
一緒に住んでいる家族には、全員一斉にプレゼントしなければいけなかったと知った。
と言うか、父に一番にプレゼントをすれば済んだ話だったのかも知れない。
それだけ、父は子どもじみていたのだった。
寒い季節になると、ケンカの元となった木目調のファンヒーターが思い出される。
感謝いたします。