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【実話怪談】オーダーメード
園絵さんが、小学校の四年から五年に上がる春休みのことだそうだ。
午前三時を回った深夜、園絵さんはふと目を覚ました。
そして、なぜか「電話が来る」という確信めいた予感を抱いて、母親が一緒に眠る寝室を抜け出して居間に行くと、そこではかったように固定電話が鳴った。
園絵さんが出ると、優しそうな男性の声が名乗りもせずこう尋ねてきた。
『お届けする人形ですが、男の子と女の子どちらがいいですか?』
園絵さんはそこで、自分が人形を注文していたことを”思い出し”、女の子がいいですと答え――ふと気づくと朝になっていて、自分の布団に居た。
つまりは夢を見ていたらしいのだが、そんな夜中の電話の夢が、十日ほどに渡って続いたそうだ。
電話の男性はいつも園絵さんに何かを選択させるのだという。
最初は髪の色、瞳の色、身長……オーダーメードでドールを作るなら訊かれておかしくないような内容だったのが、そのうちに様子が変わってきた。
『取れてもいい右手の指はどれですか?』
『左右どちらの耳なら千切れてもいいですか?』
『腐ってもいい内臓はどれですか?』
そんな質問が続いた。想像の中で「自分の人形」がボロボロになっていくのに耐えかねた園絵さんは、十日目にとうとう「もうやめてよ」と言ったそうだ。
すると、しばしの沈黙の後で男性は、
『では、キャンセルにしましょうね。もう人形はお届けしません』
どこか寂しそうな声だったという。それきり、電話の夢を見ることはなくなった。
それから少し経って新学期が始まる頃、母からこんなことを言われたそうだ。
「最近はよく眠れてるみたいね。何日か、寝れなくて夜中にトイレに行く日が続いてたみたいだから心配してたんだ」
一種の夢遊病だったのだろうと園絵さんは言う。
そして。
「これは私が勝手に、あの電話のせいなんじゃないかってこじつけてるだけなんだけど」と前置きして、園絵さんは教えてくれた。
彼女は十七歳の時、ガンで子宮を全摘出したのだそうだ。