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MyGO!!!!!「詩超絆」 でガチ泣きした

最近、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』というアニメとその総集編にあたる映画を見た。特に中盤からの勢いが凄まじく、あまりにも激情的なストーリーで見入ってしまった。その中でも最佳境にあたる10話での劇中歌「詩超絆」があまりにもキラーチューンすぎて喰らってしまった。
本noteは有り体にいえば「詩超絆」を聴いた感想文になる。アニメ10話や「詩超絆」についてのストーリーの文脈を含めた考察は、他の方が山ほど実りあることを語ってるだろうからあくまで曲単体として。個人的に感じた良さについて書こうと思う。

ポエトリーリーディングの可能性

ポエトリーリーディングと叙情系の相性の良さ

この曲の魅力はもうこの点に詰まってるといっても過言じゃないと思う。ポリトリーリーディングの存在によってそれ以降の曲展開が引き立てられていると思う。MyGO!!!!!の楽曲では度々手法としてポエトリーリーディングが用いられているようで、例えば「潜在表明」や「音一会」でも採用されている。ただ、今のところ「詩超絆」がポエトリーリーディングを最も強力に活かせてる曲だと思う。その理由として、この曲の持つサウンドとの親和性が高いということ。MyGO!!!!!のディスコグラフィーにおいて、「詩超絆」は以下のように紹介されている。

叙情系ハードコアの様相を呈した本楽曲は、アニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』#10 劇中歌であり、同アニメ内において全てのキャラクターの感情がピークに達する最大の山場で披露される。

詩超絆 | BanG Dream!(バンドリ!)公式サイト

流石にこの曲を正統派な叙情系ハードコアとして見倣すのは難しいかもしれないが、少なくともその系譜にある楽曲であるのは間違いない。一応、「正統派」な叙情系ハードコアとはShai Hulud、It Prevails、Counterparts、Misery Signals(解散前に観たかった;;)、Napoleonなんかをここでは想定している。
現代ロック~メタルシーンにおける最重要バントの一つであるBring Me the Horizonなんかもこの系譜に入れてもあながち間違いではないはず。特に『Sempiternal』は叙情系の色が強いと思う。

聴いてみればわかる通り、アルペジオなどを用いた泣きメロやハードコア〜メタルコア由来のザクザクと刻んだリフ、ボーカルの激情的なスクリームや時折挟まれるポエトリーリーディングが叙情系ハードコアの特徴といえる。「詩超絆」において、スクリームこそしないし、全体的にここまで重いサウンドではないけど、アルペジオや泣きメロ、歪んだギターやベースのサウンド、激情的なボーカル、そしてポエトリーリーディングを兼ね備えてるという点で「詩超絆」は叙情系ハードコアに通じたサウンドなのは確かだし、それをアニソン的なサウンドに上手く落とし込んでいると思う。

こうした叙情的なサウンドとポエトリーリーディングの親和性は想像以上だった。もちろん、前述したように叙情系ハードコアではポエトリーリーディングは割と頻繁に用いられはするけど、曲の合間とかで軽く挟まれるくらいのものしか聴いたことがなかったので意識してその箇所を聴くということはなかった。(例えば、It PrevailsExplanation: Content2:00Misery SignalsThe Year Summer Ended in June3:20の箇所)
それに対して「詩超絆」では、ポエトリーリーディングがイントロから前面的に用いられているという点で衝撃的だったし、なにより詩の意味内容や歌い方が叙情的なメロディとあまりにも調和していたから素直に感動してしまった。

方法論としてのポエトリーリーディングの面白さ

これまでポエトリーリーディングを主軸とした音楽を一切聴いたことがなかったので、それをバンドサウンドに落とし込んでいるというだけでも衝撃的だった。叙情系ハードコアは別に詳しいジャンルでもないので先駆者がどれほど居るのかは知らないけど、(広義な意味で)プログレッシブだなぁと感じた。しかもそういう楽曲をアニソンとして、それもアニメ全体の中でも最も盛り上がる部分で用いるのが凄い。

当然といえば当然だが、ポエトリーリーディングという手法について個人的に最も衝撃的だったのはメロディが死んでいるということ。というか、リズムすらもほぼ死んでるといっても過言ではないと思う。例えば、個人的に最も敬愛しているバンドの一つであるMeshuggahのように、メロディを歌っているとはいえないボーカルというのは存在している。Meshuggahは一見ポリリズ厶だとか変拍子だとかに聴こえるが、数小節単位で見ると4拍子系に収束しているという特異なリズム構造に立脚しているようにリズムに特権性を与えているバンドであるといえる。ボーカルのJens Kidmanはその理念の下でメロディではなくリズムを主体とした歌い方をしているが、ポエトリーリーディングはそうしたリズム主体のボーカルからも明らかにかけ離れていて一味も二味も違っている。

伴奏がある以上制約が全くない訳では無いけど、ポエトリーリーディングではリズムやメロディから解放され、日常会話での発話に近づいた自然な形で歌われる。そこでは独白したり語りかけられるように歌われるから、より一層の歌詞の意味を理解して聴こうという態度になるし、その事が先程書いたような叙情系の感情に訴えるようなサウンドと相性がいいといえる所以だと思う。実際、自分はあまり音楽において歌詞というものをそこまで重視して聴かないし、正直なんとなくメロディやリズムと音韻的に合ってるならなんでも良くて、なんなら言葉ですらなくても全く気にしないんだけど、「詩超絆」に関してはちゃんと歌詞を読み取ろうという姿勢に自然となっていた。

また、叙情系ハーコーでも用いられるようなスクリームだと感情こそダイレクトに伝わるものの、どうしても歌詞を聞き取ることが難しいという側面はある。感情というものを聴き手へダイレクトに伝えるための別のアプローチとして、ポエトリーリーディングにはある程度の感情の伝達力を保ちつつも歌詞を読み取らせるという力があるという点で本当に可能性を感じさせられた。前述したように、リズムやメロディをある程度無視して歌うことができるという点においてもポエトリーリーディングはかなり自由であるし、独白するように歌えるから自然に感情を乗せやすいと思う。その点、声優がポエトリーしてるのは強みを本当に活かせてるなぁとも思った。

またこうしたリズムやメロディからある程度独立しているという特性上、楽器隊が全面に出やすいというのも本当に面白い点だと思う。実際、「詩超絆」のポエトリーが主体となる箇所はギターがメロディを担っており、ボーカルが歌っているのにインスト的に聴けるという逆説的な表現を楽しめる(因みに、ガチのインストVer.はここで聴ける)。このようにボーカルの存在にも関わらず、インスト的にも聴けるというのもポエトリーリーディングの面白さだと思うし、実際にMyGO!!!!!の楽曲の中で最も楽器隊が踊ってるものの一つであると思う。Animals as LeadersだとかChonのようなサウンドにポエトリーリーディングを乗っけた音楽を個人的に聞いてみたい。

まとめると、「詩超絆」のポエトリーリーディングは、①叙情系ハードコアのような感情的な音楽との親和性②感情を伝達するアプローチとしての可能性③リズムやメロディの欠如によるインスト感という点から個人的に衝撃的だった。

曲展開の耽美さ

曲展開もとてもよい。即興で作られた曲であるという構想があったからか曲は一直線に展開されており、なおかつ無駄もない。
ここでは便宜上、めっちゃ大雑把にイントロ、ヴァース、コーラス、アウトロの4つのセクションに分節しようと思う。

イントロ(0:00~0:49)

イントロは静かにアルペジオが奏でられ、そこにポエトリーリーディングが乗り、ドラムロールが優しく装飾していくという静謐で叙情的な様相を呈している。その後ブレイクを挟みドラムシンバル(アニメでは歪んだギターも)を合図にヴァースへと繋がる、という構造となっている。
一分弱かけて丁寧な雰囲気を作りに徹底しているのがいい。シンバルが入ってからこの曲はテンポアップして4拍子に変わるんだけど、その助走として完璧だと思う。

ヴァース(0:49~1:53)

ボーカルがより激情的にポエトリーし、そこに歪んだギターとベースが加わることでより一層叙情的な音像になっている。このパートで特に印象的なのは詩を読み終える部分からサビへの繋ぎの部分。詩を叫びながら読み終える部分で感情はピークに達するんだけど、サビに入るまで少し余白を持たせているせいでじらされる。そこでギターがどんどん追い上げてきてサビに突入するという一連の作りは本当に好き。

溜めに溜めた感情を爆発させるという作りは素直というかシンプルなものだけどとても素晴らしい。ポエトリーリーディングには感情を爆発させるという点において、スクリームのようなインスタントさはないけど、同等以上の爆発力を秘めた起爆剤にはなるんだなぁと感じた。

コーラス(1:53~2:57)

溜めに溜めた感情が爆発する瞬間でカタルシスがが凄まじい。四つ打ちも疾走感も最高に気持ちがいい。ライブだと衝動的にモッシュしたくなる感じの盛り上がり方。今年のサマソニのBMTHのときみたい号泣しながらモッシュしたい。来年のMEGAVEGASとかにでも出て欲しい。

アウトロ(2:57~)

ここで終わらないのがこの曲のヤバすぎるところ。包容感のあるブレイクダウンが入って6/8拍子のゆったりとしたスローテンポで締めくくる。本当にここがヤバすぎる。あのまま駆け抜けて締めくくっても良かったのにここでブレイクダウン入れようぜってしたのガチで天才だと思う。サビで爆発した感情を落ち着かせ、整理させてくれる

その上でその落ち着いた感情がエモい歌声によって浄化されるという展開が美しすぎる。ここまでのパートは各々が鳴らしたい音をかき鳴らしているかのようなサウンドだったけど、ここではお互いを慮ったようなゆったりとしたサウンドがバンド内にある連帯のようなものを表象しているかのようにアニメでの描写も相まって強く感じてしまう。

あと、この部分はむしろエモ~スクリーモに接近しているようなサウンドになっているのもとても心地いい。例えば、「詩超絆」の次に以下の曲のようなエモ/スクリーモの曲を続けて再生しても違和感なくすんなりと聴けるから試してみて欲しい。

総括:自分史のなかに位置付けてみる

叙情的なアルペジオから始まるイントロでの雰囲気作り。続くヴァースでの感情移入してしまうポエトリーリーディングとそれを存分に生かした疾走感のあるギターメロディ。そこから溜めた感情を解放して爆発させるようなコーラス。そしてその発散した感情に寄り添うようなアウトロ。曲展開も無駄がなく、コンパクトでありながらそれぞれのパートが有機的に結びついている

曲展開に驚く経験は度々あって、例えば①ラスベガス「Let Me Hear」、②AtB「Berzerker」、③SikTh「Pussyfoot」、④Gojira「The art of dying」、⑤AAL「Monomyth」、⑥Vildhjarta「+ den spanska känslan +」あたりが今ぱっと思い浮かぶ自分にとってかなり衝撃的な曲展開だったものなんだけど、これらの曲は、一曲の中にさまざまな要素を違和感なく融合しながらも、それを自分たちのバンドのサウンドとして見事に昇華できている(①)という点で衝撃的だったし、怒涛の曲展開で先の展開が一切予想できなかった(①,②,③,⑥)のも聴いてて本当にワクワクできた曲だったと思う。

また、あまりにもドラマチックな曲展開(①,④)曲展開のシャープさ(⑤)、もはやなぜ曲として成立しているかの理解不能さとアバンギャルドさ(③,⑥)が面白かったし、衝撃的だった。Meshuggahもそうだけど、ここらへんのバンドは今でも一定の評価はされてるはいるけどそれ以上にもっと評価されるべきだと思う。

その点「詩超絆」は、前半ではポエトリーリーディング主体の曲展開が全面的に用いられていたり、即興という背景もあったりなど曲展開が怒濤で全く先が予想できなかったように(少なくとも邦楽定番のパターンからは大きく逸脱している)、ドラマチックすぎる曲展開だった。

また、例えば「Let Me Hear」が要素を詰め込んでいるという観点で衝撃的だったのに対して、「詩超絆」はそうした曲展開のコンパクトさともいえるものであったのも面白いと思った。その点において、「Monomyth」(2分頃まで根底には同じリズムが流れていてそれに基づいてさまざまな装飾が用いられながら可憐に曲が展開される)と同じような系譜にはなりそう。その上で、叙情系ハーコーのサウンドとアニソン的なサウンドを見事に結びつけて、MyGO!!!!!らしいサウンドへと昇華させてるとも思う。

またSikThやVildhjartaほどアヴァンギャルドではないにせよ、ポエトリーをあそこまで主体に歌ってるバンドはなかなか珍しく、前衛的な部分も若干は持ち合わせているなぁとも感じさせられた。しかも、それを音楽的にも可能性を感じさせられるような形で提示させられたのもかなり印象的だった。

正直自分でも不思議なくらい「詩超絆」に異常なほどハマっているんだけど、こうして見ると「詩超絆」は上に挙げたような自分にとって衝撃的だった要素、もっと言えば自分の好きな要素を詰め込んでいるともいえ、こうして見るとさもありなんなぁという感じ。

おわりに

ポエトリーリーディングが用いられているあたり少し距離感を感じるような曲ではあるけど、アニメを経由することでその距離感を無いものにしてくれたのはとても良かった。一通り書いたけど、この曲の真にヤバいところってアニメによってクソ重くてクソエモい文脈が付加されるところ(自明)。曲単体で充分すぎるクオリティなのにアニメの文脈がそなわり最強に見える。それにアルバムだと「春日影」→「詩超絆」の順で再生されるのも凄くいい。意図しているのかどうかは分からないけれど、「春日影」と「詩超絆」のイントロのどちらも6/8拍子だから連続的に聴けるのも面白いと思う。
久しぶりにヤバいと思える曲に出会えて良かった。

聴き始めて数週間で年間上位に食い込んでいる図

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