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未発売映画劇場「サント対ラ・ヨローナ」

サント映画完全チェック、「黄金の1973年」の6本を完走して、今回から1974年メキシコ公開作品に突入します。その第1弾(通算41本目)は、1974年8月公開の「La venganza de la Llorona」

タイトルそのものはそうなんですが、ポスターやソフトのジャケットを見てみると、タイトルまわりは「Santo y Mantequilla Nápoles en La Venganza de la Llorona」と表記されているものがほとんどのようです。英語だと「Santo and Mantequilla Napoles in The Revenge of the Crying Woman」

文字の多いポスター

いささか長いんですが、バラしてみると案外とわかりやすいです。Mantequilla Nápolesが今回のサントの相棒の名前で、 la Lloronaが対戦相手ってことになります。

la Lloronaは、日本語表記だとラ・ヨロ―ナ(ラ・ジョローナやラ・リョローナとも) メキシコの古い伝説で「泣く女」といった意味。自らの子どもを殺してしまった女の幽霊が泣き叫びながら現われるというもので、いってしまえば悪霊のようなもの。

白いドレスに身を包んだ髪の長い女性が、自らの子どもを求めて水辺をさまようという不気味そのものな悪霊で、これまでサントが対峙してきた怪物どもとはひと味ちがう(ような気がする)

メキシコでは有名な悪霊らしく、日本でいえば「四谷怪談」のお岩の幽霊とか「番町皿屋敷」のお菊の幽霊とかいったあたりのイメージなのかな。哀れな幽霊を歌い上げた民謡などもあるそうです。ちなみに2019年のアメリカ映画で日本でも公開された「ラ・ヨローナ/泣く女」は、この伝説を題材にしたホラー作品。

メキシコ伝統のオバケ(?)としては、すでにアステカ・ミイラがサントと対決していますが、それ以外にサントと対決した怪物どもは、ドラキュラだ狼男だ魔女だフランケンシュタインの怪物だといった、いずれも欧米出身のモンスターたちだったので、ここにきてやっと純国産の化け物登場は興味深いものがありますね。

ラ・ロヨーナの襲撃。顔はすっかりミイラ

とはいってもサントと真っ向対決するわけではありません。

ラ・ロヨーナの隠した巨額の財宝をめぐって、例によってサントたちとギャング団が対決し、その間に幽霊女ラ・ロヨーナが財宝を守れとばかりにウロウロする構図。なんだ、いままでのサント映画と別段変わった点はないじゃない。

今回の映画の目玉は、じつはタイトルロールのラ・ヨロ―ナではなく、サントの相棒のMantequilla Nápolesのほうなのです。

見慣れない名前ですが、この人、じつはメキシコのボクシング史にその名を残す名ボクサー。

左端がマンテキーリャ・ナポレス

本名ホセ・ナポレス。1940年キューバ生まれ。アマチュアで113勝1敗という成績を残して1958年にプロ転向しましたが、キューバ革命後にメキシコに亡命。圧倒的強さを誇ったものの、当時のチャンピオンたちから挑戦を回避され続け「無冠の帝王」でした。

が、1969年ついに悲願のWBA・WBCの世界ウェルター級王座を獲得。その後1975年の引退までに、通算で王座を2度獲得、通算13度の防衛を成し遂げました。生涯通算戦績は、84戦76勝(54KO)8敗

攻撃から防御への移行がスピーディかつ滑らかで、その動きが最大の武器。その滑らかな動きが「マンテキーリャ」すなわち「バター」とたたえられ、マンテキーリャ・ナポレスの異名で呼ばれたとのこと。

「バター」ってのが強そうかどうかはともかくとして、この異名が今回の映画のタイトルに添えられたMantequilla Nápolesというわけだ。

この映画の製作当時はまだ世界王者だったはずで、つまりこの映画の目玉はプロレスとボクシングの世界チャンピオンの共演だったわけです。

要するに、これまでブルー・デモンらが務めていたサント御大の相棒の座を、今回はボクシング王者に譲った形です。サント映画名物の乱闘シーンでも、鉄拳をふるってバッタバッタと敵を薙ぎ倒してますから、サントにとっては頼もしい相棒ですね。

どうやら2人は仲良しらしく、常に連れ立って活躍し、並んで楽しくテレビを見てくつろぐ場面もあります。チャンピオン同士、相通じるものでもあったんでしょうね。

そんなわけで、サントの試合シーンだけでなく、ちゃんとマンテキーリャの試合も用意されていて、そのテレビ中継をサントが喜んで見ているなんてシーンもあります。

マンテキーリャの映画出演は、どうやらこの作品1本のみのようなので、そういう意味では貴重品であります。

右上のヒゲツラがバター男

余談ですが、ついに日本でそのファイトを披露する機会がなかったサントに対し、マンテキーリャ・ナポレスは2度来日し(1964年と1972年)、試合も行なったそうです。見た人、いますか?

引退後には恵まれない境遇だった時期もあったようですが、トレーナーとして活動し、2019年に死去しました。つい最近までご存命だったんですね。

サント映画には、こうした豪華ゲストが参加することがままありましたが、ここ数本はそれが増えてきている気がしますね。もはやサント単独では持ちこたえられなくなってきたのか、ルチャ映画そのもののパワーが落ちてきている兆候なのか。

いよいよサント映画の終焉が迫っているのでしょうか。まだずいぶんあるんだけどね。

なお、この作品には子役としてジョージ・グズマン(Jorge Guzmán)すなわちサント2世のエル・イホ・デル・サントも出演しています。ラ・ヨロ―ナに狙われる少年役。以前にも紹介したように、過去にも2作品でサント映画に出演の実績があるのですが、この作品が素顔で出演した最後の映画のようです。当時12歳くらいのはずで、この8年後にはレスラーとしてデビューし、その翌年にはトップレスラーとして映画にも初主演しています。いよいよ代替わりが迫ってきたようですね。

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