ジャッキー・チェンと勝負する(65)
2003年の「メダリオン」
ハリウッド進出後、久々に香港に戻った作品だとか。日本ではジャッキー生誕50周年、日本公開作品50本目を記念して公開された。されたんだが……
これ、たぶん「21世紀のジャッキー映画」としては最大の失敗作、そう位置づけていいと思う。いや大コケしたという興行面のことだけではない。
お話としては、不老不死の秘密を握る少年と不思議なパワーを秘めたメダルをめぐる争奪戦。いかにもジャッキー・チェンらしい、非常にシンプルなストーリーだ。
ジャッキーが扮するのは、その争奪戦に巻きこまれたインターポールの捜査官。同僚で恋人っぽくなるのがクレア・フォーラニ、ドジな同僚役でリー・エヴァンス、ボス役がジョン・リス=デイヴィス。対する国際密輸団のボスにジュリアン・サンズ。その部下に「八仙飯店之人肉饅頭」のアンソニー・ウォンがいたりして、なかなか分厚い配役だが、ぜんぜん活かせてない。
それぞれのキャラクターが薄っぺらいのだ。たとえば、リー・エヴァンス演じるジャッキーの同僚捜査官は、コメディリリーフのつもりだったのかドタバタしたギャグを連発するが、まったくの邪魔者にしか見えない。こういう計算違いがあると、シンプルな映画だけにごまかしようがなくなるのだ。
ただ、この手の瑕瑾はジャッキー映画ではしばしばあること(笑) ふだんは、壮絶アクションが、その傷をカバーするのがジャッキー映画の常道。
では今回はというと、本作には非常にわかりやすい特徴がある。
香港アクション映画の伝統芸、ワイヤーワークの導入だ。
古くはカンフー映画の時代から、かつて80年代の香港ファンタスティック映画の全盛期に「霊幻道士」「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」などで高度に完成され、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」などのアクション映画でも使われてきた、香港ムービーの代名詞ともいうべき技法。人間がビュンビュン空を飛ぶ、あれだ。
これまで、ジャッキー・チェンは、あまりこの技法を使ってこなかった。自らの肉体だけで、充分見せ場を作れるという自負ゆえだろうか。その理由はともかく、ワイヤーワークを前面に押し出した作品はなく、その副次的な結果としてジャッキー映画にはファンタスティック方面の作品がほとんどなかった。
ただ、ジャッキー本人がワイヤーワークを嫌っていたわけではないと思う。なぜならスタントマン時代のジャッキーは、けっこうそれを得意にしていたらしいのだ。
ジャッキーがブルース・リーに誉められたという「ドラゴン怒りの鉄拳」での、あの有名なスタント(リーのキックを喰らい、障子をぶち破って庭に吹っ飛ばされる)はワイヤーワークそのもの。もっとも失神したそうだが。そんな体験で、かえってワイヤーワーク嫌いになったとも考えられるな。
ところが、この「メダリオン」ではワイヤーワークを多用している。ジャッキーが宙を飛ぶシーンがやけに多い。
ストーリーが伝奇性の高いファンタスティック系の物語なので、必要にかられてのことなのか、それとも肉体の衰えを感じたジャッキーが、今後に備えてワイヤーワークや特撮を試してみたのか。
その結果はどうだったかというと、残念ながら大きな効果を上げたとはいいがたい。
もともとこの技法は、人間離れした予想外の動きを見せ、観客の度肝を抜くためにある。
一方でジャッキー・チェンのアクションは、人間の肉体をギリギリまで駆使することによって「こんなことまでやるんだ」という驚きを与えるもの。
同じ目的とはいえ、その方法論は根本的に違う。けっきょくのところ、この「メダリオン」は、ジャッキーが楽してるだけに見えてしまった。
これが、主役がアクション得意ではない俳優だったが、また違ったのかもしれないが。
ということで、今回はストーリー上の不出来をアクションでカバーすることはなく、かくして不出来な映画となってしまったのだ。残念。
このあともジャッキーは、試行錯誤を続けながら、肉体を駆使したアクションへと、ふたたび戻るのでありました。
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