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500円映画劇場「鮫の惑星」

なんといっても見事なのは、このタイトルだろう。

「鮫の惑星」

カナで書けば「サメノワクセイ」

あのSFの名作「猿の惑星」とたった一文字違いで、しかもサメ映画のポイントを1ミリも外していない。なんとみごとな職人ワザだろう。

もちろん原題が「PLANET OF THE SHARKS」だから、お手柄の半分以上はあちらの製作者のものなんだが。

デザインはもちろん、あの映画のパクリ

考えてみれば、これだけ大量生産され、そのほとんどがわが日本のマーケットを狙ったという安物サメ映画の世界なのに、不思議なことに邦題に「鮫」という漢字を使ったものが、とんと記憶にない。サメ映画の邦題の定番といえば「ジョーズ」と「シャーク」を使ったもの。いかにパイオニアである「あの映画」のインパクトが強烈だったかを物語る現象だ。その点でもこの映画は、定番邦題の世界に一石を投じたといえようか。そうでもないか。

で、ケチをつけるとすれば、むしろその内容だろう。

未来の地球、二酸化炭素の温室効果の影響で海面が上昇し、陸地のほぼすべてが海中に没している、生き残った人々は海上に町を築き、細々と生活している、そこへ襲ってきたのは凶暴なサメの群れ。種類も大きさも雑多なサメたちは、特殊な能力を擁する女王蜂のような「母サメ」の指揮のもと、海上都市を次々と破壊し、人々を餌食にしてゆく。闘う術をもたない人類にはサバイバルの道はないのか……

あれれ、元ネタは「猿の惑星」ではなく、「ウォーターワールド」(1995年)ではないですか。早くも製作方針にブレが出てますが。まぁそんなことはどうでもいいのか。

冒頭、海上に浮かぶ「ジャンクシティ」なる集落(海上都市というほど大きくはない)が登場すると、おやけっこう頑張ってるなと思わされる。安っぽい工場やジャンクヤード、人里離れたつもりの雑木林を「未来の風景」と言いくるめられてきたヤスモノ映画ファンを驚かすに足るだけのセットが組まれているのだ。

まぁ考えてみれば、海の上ならば、けっこう安上がりなセットを組めるのかもしれない。そもそもの設定が文明崩壊後だから、浮いているのがやっとみたいな廃材と、運送業界から提供されたに違いない木製の運搬用パレットで作り上げたようなオンボロ施設でも、説得力はあるわけで、上手いこと考えたものだ。

ただし周囲の海がどうもあんまり深く見えないのだが、それは仕方ない。そんなに沖合いまで出たら、撮影コストが高くなっちゃうもんね。

と、感心するのは一瞬だけ。

このビンボー海上都市にサメの群れが襲ってくると、たちまち馬脚をあらわしてしまう。

毎度おなじみ、質感ゼロのCGサメの登場である。

いつも指弾するように、CGは安上がりではあるが、そのぶんリアリティは薄くなる。CGの質を高めるには、工夫もクソもない。コストをかけるしかないのだ。メモリーとギガ、そしてプログラマーと時間。つまりは、ヤスモノ映画が最も苦手とするところ。

今回も残念ながらその点は克服できていない。

波を掻きわけて迫る三角形の背びれ、数が多いせいか、ひとつひとつの質感がゼロに近く、それが海面に波も立てずに滑ってくるのだ。黒い三角形が動いているだけ。

これくらいならCGを使わずに、助監督かアルバイトに三角の板をもたせて泳がせたほうがマシだったのではないか。どうせ浅いところで撮影してるんだろうし。

CGで液体を表現するのは、いちばん難しいと聞く。流れる水や飛沫をリアルに再現するのは、大変なことらしい。それは理解できるし、だったら無理にCGを使わなければいいと思うのだが、どうもサメ映画の作り手たちは意地になってCGを使うようだ。

ハメコミ画像との決闘シーン

もちろん、ツッコミどころはCGだけではない。

地球温暖化が諸悪の根源とされているのだが、その解決に挑む科学者たち(だろうと思う)が登場する。彼らが考案した「炭酸ガス浄化装置」を搭載したロケットを打ち上げれば、温室効果が解消し、海面がふたたび下がるという、根本的に説得力のない設定がストーリーのエンジンになっているのだ。

そのロケットに欠かせない資材を、サメの群れと闘いながら確保すべし、そして打ち上げには外せない時期がありその機を逃がせないそうで、まあサスペンスを醸し出す常套手段ではある。

問題はその規模。とにかく全地球規模の温室効果を解消するのが、たった一基の、それもそう大きくないロケットと浄化装置だというんだから、そりゃあ無理あるだろう。

肝心かなめのこの部分が説得力を欠くので、まったくサスペンスが盛り上がらない。こんな設定はなしにして、サメ対人類の血みどろの戦いだけに絞ればよかったんだよ。

ついでにいえば、映画のラストで、その装置のおかげで全地球規模の温室効果が解消するのに、たったの半年しかかかっていないと明らかにされる。たったの6ケ月で! 地球温暖化を舐めてるのか!

こういうのって案外と、こうした問題に対する世界の認識を象徴してるのかもしれない。

アメリカ映画にはよく、核爆発や放射能災害を、じつにさらりと描いてしまう描写が出てくるが、これなども核問題の矮小化につながっているんじゃなかろうか。

世間の無関心がこういうところに発露するのか、それとも映画というメディアが世間の無関心さを生み出しているのか。どっちかは知らんけど。

いちおう映画の要素で出来ている、まぁまぁ正直なポスター

「鮫の惑星」は、2016年の作品。いちおう本国では劇場公開したようだが、日本では限定公開にとどまったようだ。

ヤスモノ映画の世界では、比較的メジャーな存在であるアサイラム社の製作で、監督・脚本は何度かこの欄でも作品を見てきたマーク・アトキンス。さすがは手練れのヤスモノ映画人、それなりの出来栄えにはなっているとフォローしておこう。あ、俳優陣の顔はぜんぜん知りませんでしたけど。

映画本編よりもリアル(これでも)な背ビレの群れ

そして恐れ入ったことに、この翌年には続編「鮫の惑星:海戦記(パシフィック・ウォー)」も出来ていたりする。今度はテレビ映画に格下げになったようだが。

一度使ったアイデアとセットは何度でも使い回すのが、この世界の鉄則。なに、何度か使っているうちに、いつかは上手くハマる時がくるかもしれない(こないかもしれない)のだ。さすがはアサイラム!

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