未発売映画劇場「サント対ロボットギャング」
サント映画完全チェック第47弾は「Santo en oro negro」英語だと「Santo in Black Gold」となるんだが、別に「La noche de San Juan(Night of San Juan)」というタイトルでも知られているらしい。どういう経緯でタイトルが2通りになったかはわからない。1977年2月にメキシコ公開。
ちなみに、タイトルになっている「oro negro」は編中に登場するギャング団の名前。そして別題でもわかるように舞台はプエルトリコの首都サンファンだ。映画そのものもプエルトリコの映画会社の製作らしい。
石油企業の本社(ニューヨークにあるらしい)が脅迫を受ける。会議中に乱入して施設へのテロを予告した男は、その場でビルから飛び降りてしまう。だが男は人間ではなく、ロボットだった! 敵の恐ろしさを悟った会社は、サントへ解決を依頼する。敵の本拠であるプエルトリコのサンファンへ遠征を兼ねて乗りこむサント。敵のメンバーはほとんどがロボットらしく、次々とサントに襲撃をかけてくる。現地警察と協力しながら調査に邁進するサントは、はたして黒幕を突き止め、事件を解決できるのか?
サント映画は大まかにいえば、スーパーナチュラルな敵と戦うSFファンタスティック系作品と、ギャングやテロリストと闘う犯罪サスペンス系に大別できる。本作は、大筋は犯罪サスペンス系だが、そこにロボットというSF的な要素をからめたハイブリッドになっている。ちょっと珍しいかな、そうでもないか。
といっても、肝腎のロボットは外見的にはフツーの人間とまったく変わりない(格闘時にはちょっとタフ)し、ロボットだからといって特別な能力を発揮したりはしない。サントにやられたりして破壊されると、なぜか必ず頭蓋が割れ、中に、秋葉原の電気街(死語)で買ったようなトランジスタラジオの部品みたいなのが詰まっているだけだ。
じつに魅力ないというか、なんでこいつらをロボットに設定したのかよくわからない。まぁ一カ所だけ「え? こいつがロボットだったの?」」というひっくり返しがあったがね。
ついでにいえば、ロボットと人間の見分け方はじつにわかりやすく、ロボットは右耳の後ろに小さな丸い金属製のスイッチみたいなのがついているのだ。なのでサントも、相手の髪の毛を掻き分け(長髪が流行っていた時代なのだよ)「おまえロボットだな」と見抜くわけだ(タイトル画像参照)。安直だろ。
安直なのはサント映画の常道なので、べつにいいんだが、問題なのは映画そのものの画質だろう。いつも高品位の画質というわけではないサント映画だが、これはまたずいぶんヒドイ。
見せ場のひとつが浜辺での格闘シーンなのだが、夜に設定されているので、必然的に画質は暗い。いや暗いなんてものではなく、真っ黒で何をやっているかもわからないレベル。ここでのサントの相棒の女性エージェントの奮戦ぶり(強いのだよ)は、上手く撮れていればけっこう面白かったと思うのだが、残念ながらよく見えない。
ただしこれは、もともとの映画の欠点ではないかもしれない。
じつはここまで見続けてきたサント映画完全チェックだが、今回は最大のピンチだったのだ。これまでの作品は入手困難なものはあっても、曲がりなりにもDVDになっていたのだが、この作品はなぜかDVD化されていないようなのだ(全世界的に) どうやらVHSソフトはあったらしいが、もはや入手不可能っぽい。さらに、これまでも入手困難な作品にぶちあたった際にはずいぶん救われてきたネット上の各種動画サイトにも、本作の全長版は見当たらなかったのだ。なにか著作権的な問題でもあったのだろうか。
そんな事情もあって、ようやくネット見つけた怪しげな動画で鑑賞したのだが、なんでも「著作権の問題のため」一部分がミュートされていた。具体的には、音声のかなりの部分がミュートになっている。こんな動画に行き当たったのは初めてだ。とはいえ、音声ミュートはところどころだし、そもそもスペイン語のセリフはわからないので、それほどの障害ではなかったが、一方で画質のほうはかなり劣悪。それこそVHSの三倍速なみの画質だったので、前記した暗い格闘シーンも、本来はもうちょっとマシだったのかもしれない。
そんな不満だらけの映画だが(いつものこと)今回はちょっとおもしろいシーンもあった。これまでの作品にはおそらくまったくなかった、サントの変装シーンだ。
編中で2度、調査のためにサントが変装するのだ。それも「ミッション・インポッシブル」などでおなじみのラバーマスクをかぶって別人になりすます手法で。
ずらりと並べたラバーマスクからおもむろにひとつを選ぶと、白銀のマスクを脱いで(もちろん素顔は映されない)ラバーマスクを装着する。するとあら不思議、まるで別人に見えるのだ(実際に別の俳優が演じたらしい) そんなことしなくても、いつものマスクを脱げばいいじゃんかというツッコミはなしね。じゃあ変装を解くときはどうすんだというと、これまたあら不思議、ラバーマスクの下からはプロレス用の白銀のマスクを装着したサントが現われるのだ。そこ、笑わないように。
さて、じつは本作の最大の見どころはちゃんと別にある。それは、サント映画では必須ともいえる(ないのもあったけど)サントの試合シーン。
サントはプエルトリコ遠征中なので、当然ながらなんの必然性もないのに、シングル1試合、タッグ1試合を映画中でこなしている。お疲れさま。
その試合のうち、タッグのほうが見逃せない好カードなのだ。野球スタジアムと思しき会場でのビッグマッチ、サントのタッグパートナーをつとめるのが、カルロス・コロンなのである。来日時と同じワンショルダーのコスチュームが懐かしい。
カルロス・コロンはプエルトリコ出身。アメリカ移住後の1960年代半ばかにプロレスデビューし、WWWFなどアメリカ東部を主戦場に活躍。その後に故郷のプエルトリコに新団体WWCを設立してボスにおさまると自らチャンピオンとなり、アメリカ時代のコネを駆使して大物レスラーを次々と招聘してビッグマーケットに成長させた。プエルトリコの帝王として君臨し、2014年にはWWEのプロレス殿堂入りもはたし、現在も大物プロモーターだ。
日本でも、国際プロレスや全日本プロレスに来日し、なかでも1979年に全日本プロレスに登場した際には、アブドーラ・ザ・ブッチャーのブラックパワー軍団の一員として猛威を振るっている。
プエルトリコのWWCといえば、1988年7月のあのブルーザー・ブロディ刺殺事件が思い起こされる。事件当時はコロン自身の関与も噂されたが(事実無根だったらしい)、とかく暗黒街とのつながりを云々されるなど、リング内外で大物ぶりを知られていたという。
この映画に出演したのは、すでにプエルトリコの帝王となった時期のはずで、サントの傍らで堂々とWWCのチャンピオンベルト姿を披露している。メキシコとプエルトリコの帝王コンビだったんだな。豪華だ。
プエルトリコのプロレスは、日本では東京12チャンネル(当時)の「世界のプロレス」などで断片的に見られただけなので、そのムードを知ることのできるこの映像は、ちょっと貴重かもしれない。
ところで、1977年にメキシコで公開されたサント映画は、これ1本だけ。年に5~6本が公開されていた最盛期から見ると、ずいぶん減ったものだ。おまけに翌年の1978年には、どうやらサント映画はなかったようなのだ。さしもの聖者も黄昏を迎えつつあるようだが、まだ作品はあるので、もう一息のおつきあいを。
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