ジャッキー・チェンと勝負する(番外編2)
ジャッキー・チェンのフィルモグラフィを眺めるにつけ、どうにも不思議なことがある。
それは、ジャッキー映画に大物男優の共演が少ないということだ。
いや、子供時代からの盟友ともいうべきサモ・ハンやユン・ピョウは別にしての話ですよ。彼らとは「プロジェクトA」や「福星」シリーズなどでゴールデントリオとして何度も共演してるからね。
ただ、前にも書いたように、このゴールデントリオ作品も、「プロジェクトA」をのぞくと、どちらかといえばサモ・ハンあたりの作品にジャッキーが特別出演格として共演しているパターンが多い。つまり、ジャッキー映画じゃなく、「ジャッキーが出ている映画」になっている感が強いのだ。
そう考えると、ジャッキー映画に共演して、ジャッキーとがっぷり四つの演技を見せた大物男優って、いるのか?
そこで検証してみた。
とはいえ、そもそも「大物男優」って、誰と誰かって問題がある。べつに基準はないし。そこで便宜的に、香港のアカデミー賞ともいうべき「香港電影金像奨」で、最佳男主角(主演男優賞)を受賞している男優とジャッキーの共演率を調べてみよう。香港電影金像奨は1982年にスタートし、現在も続いている香港映画界最大のイベントだから、まあここで受賞している男優たちが、当代香港の大物男優であることに異論はないだろう。
栄えある最佳男主角を受賞した男優たちは以下の通りだ。(カッコ内の数字は受賞回数)
マイケル・ホイ カール・マッカ サモ・ハン・キンポー(2) レオン・カーフェイ(4) ダニー・リー ケント・チェン(2) チョウ・ユンファ(3) レスリー・チャン エリック・ツァン アンソニー・ウォン(2) トニー・レオン(5) ロイ・チャオ アンディ・ラウ(3) チャウ・シンチー ラウ・チンワン ジェット・リー ニック・チョン(2) サイモン・ヤム ニコラス・ツェー
なるほど、そうそうたる顔ぶれだが、このうち太字で書いた男優たちが、ジャッキーと共演をはたしている。
19人中、たったの8人だ。半分にもいってないぞ。おまけに、盟友サモ・ハンを別にした、他の7人との共演状況は、こんなもんだ。
まずは「Mr.Boo」のマイケル・ホイ(許冠文)。ジャッキー・チェンと前後して台頭し、香港映画に新世代をひらいたコメディ王にして名プロデューサーだが、ジャッキーと共演したのは「キャノンボール 」(1980年)のみ。見た人はわかるだろうが、ハリウッドのオールスターのなかに二人だけ紛れ込んだような形で出番も少なく、チョイ役あつかい。たしかにコンビを組んではいるのだが、とても堂々の共演とは言えない(追記あり)。そういえばマイケルの実弟で「悪漢探偵」などのサミュエル・ホイとも共演がないね(末弟のリッキー・ホイとはある)
最佳男主角を4回も受賞し、「愛人/ラマン」(1992年)などで国際的名優としても評価されているレオン・カーフェイ(梁家輝)とは、1991年の「炎の大捜査線」で共演を果たしているが、これはかなりインチキっぽい。レオンが主演なのだが、そこにジャッキーやサモ・ハンが友情出演のような形で花を添えているだけ。噂によれば、香港映画界の闇の帝王ジミー・ウォングの製作だったので、彼怖さにジャッキーらがしぶしぶ出演したとも言われている。なので、共演シーンは最後のほうにちょっとあるだけ。
次いで、受賞2回の実力者アンディ・ラウ(劉徳華)。じつは「炎の大捜査線」でも共演している。事情は上に同じ。この映画、そういう意味では非常に意味深な作品といえよう。アンディは、もう一人の受賞者エリック・ツァン(曾志偉)とともに「七福星」 (1985年)でも共演しているが、このころは二人とも売り出し前の若手時代で、オールスターキャストの一角に名を連ねただけ。ジャッキーもこの映画では堂々の主役でもないしね。アンディはその後1994年の「酔拳2」でもジャッキー映画に出演しているが、これまたゲスト出演っぽい役で、真っ向激突とはいっていない。
ジャッキー第1次ハリウッド進出作戦(80年代なかば)の1作である「プロテクター」(1985年)ではロイ・チャオ(喬宏)と共演している。これはその前年に彼が「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」に出演して世界的に顔を売っていたため、アメリカ進出をはかるジャッキーの助っ人に呼ばれた格好。まあ結果はご存じのとおり。
こうしてみると、ジャッキー・チェンと真っ向共演した最佳男主角受賞者の貴重さがわかるってもんだ。前回紹介した「新ポリス・ストーリー」のケント・チェン(鄭則仕)と、近々本欄で紹介の順番が回ってくる予定の「ゴージャス」(1999年)のトニー・レオン(梁朝偉)くらいなのだから。
それにしても、見事に共演してないな、ジャッキー。80年代にはジャッキーと人気を二分した超大物チョウ・ユンファをはじめ、破天荒なコメディで時代を作った「少林サッカー」などのチャウ・シンチー、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」の黄飛鴻でブレイクしたジェット・リー、夭逝した「さらば、わが愛/覇王別姫」などの美男子レスリー・チャンらとも、いっさい接点がないのだ(追記あり)。実現していれば豪華絢爛な映画になるのは間違いないのだが。
考えてみれば、一枚看板で十二分に客を呼べるジャッキー・チェン映画で、わざわざ金をかけて大物男優を招へいするのも、意味がないといえば意味がないからなぁ。それにジャッキー本人も、他人の手を借りるまでもないさ、くらいの自負と自信があるんだろうからね。
ところでこの香港電影金像奨の最佳男主角だが、ジャッキー・チェン本人が受賞してない! これはちょっと意外だ。賞がスタートした時点ですでに超大物だったジャッキーには、こんな賞は必要なかったということか。
いやいや、他の受賞者との共演が少ないことと考え合わせると、こんなことも言いたくなるね(笑)
「ジャッキー、あんた友達が少ないんだろう」
「成龍,你會少的朋友」
【2012/2/20追記】
いくつか訂正します。
マイケル・ホイとは2006年に「プロジェクトBB」で再共演。
ジェット・リーとは2008年に「ドラゴン・キングダム」で共演。
チャウ・シンチーとは1999年の「喜劇王」で(いちおう)共演。