ジャッキー・チェンと勝負する(64)
今回の作品は、2009年の「カンフー・キッド」 原題は「尋找成龍」 日本では劇場未公開。映画祭で上映された際には「ジャッキー・チェンを探して」のタイトルで上映されたこともある(英語題「Looking for Jackie Chan」)
インドネシアに住む華僑の少年(16歳)は、成績の悪い落ちこぼれ。友達にもバカにされ口走ったのが、ぼくはジャッキー・チェンの弟子なんだという大ウソ。もちろん誰も信じない。中国語の成績を上げるため、北京に住む祖母のもとへ行くことになった少年は、ちょうど映画撮影のために北京に滞在中のジャッキーに会おうと企てるが……
まあ、他愛のないファミリー・コメディですな。
16歳の世間知らずの少年が、憧れのスターに会おうと、ほぼノープランで北京へ乗り込み、ドタバタするだけといえば、それだけな内容。
行く先を間違えたり、スリに財布をすられたり、警察のご厄介になったりするが、いずれもさほど深刻な事態には陥らないので、安心して見ていられる。悪そうなやつは悪者だし、そうでない人はみな善人というわかりやすさ。いやいや、北京の裏社会は、あんなもんじゃないだろなどというツッコミは無用だ。
少年が度しがたいバカモノに見えるのは、この手の映画では常識。演じるチャン・イーサン(張一山)が、そのバカさかげんを、軽い感じで演じていて、まあまあ笑える映画には仕上がっている。
といっても、この程度の映画はたくさんある。
本作が、それでも日本や世界各国で上映され、また本土中国でけっこうヒットしたのは、なんといっても、ジャッキー・チェン本人がちゃんと出演しているからだろう。そうでなければ、十把ひとからげの映画だ。
当然ながら、ジャッキーの出番は、ごくちょっぴり。「特別出演」ってところだろうから仕方ない。映画の最初と、最後のほうに登場するだけだ。
だから、タイトルは似ていても「ベスト・キッド」のようなものを期待してはいけない。まあ、ジャッキー本人が出ていなければ、そもそも成り立たないストーリーなんではあるが。
とはいえ、出演シーンそのもののクオリティは決して低くない。
映画冒頭のカンフー・アクションは、さすがはジャッキー・チェンと唸らせる切れ味のあるもの。女剣士を助けて、清朝時代の町で、建物の内外を立体的に使った乱闘で大暴れ。なんか「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」を思わせる、ダイナミックかつスリリングなシーンだ。
もちろんこれはアクション映画を撮影中という設定のシーン。いやいや、あんなにワンカットで撮らないだろ(笑) この「映画」の撮影シーンは最後のほうにも出てくるが、監督が女性なのが、なんか21世紀風だな。
で、このアクション・シーン撮影が終わると、ジャッキーは「お疲れさま」で帰ってしまう。
その後の映画の中では、ポスターや写真ではチョロチョロ「出演」するだけで、なかなかご本尊は姿を見せない。
それだけに、ラスト近くでついにジャッキー本人が出現し、少年にありがたそうなお言葉をたまわるところは、うまいこと盛り上がった。このへん、意外とちゃんと作られているね。
また、本人役としてユン・ワー(元華)をはじめとする、七小福時代からのジャッキーの旧友が何人も出演しているなど、それなりに世界のジャッキーファンを満足させようとするサービスは心憎い。最初のほうの道教寺院のシーンでおっかない女道士を演じるのが「カンフー麻雀」などのユン・チウ(元秋)だったり、間接的にだがジョン・ウー監督が写ったりね。
ただ、なんともいただけないのは、主人公のおバカ少年が、けっきょくジャッキーの貴重な教えを、全然理解していないところ。
つまるところ、こいつがバカに見えるのは、ジャッキーの弟子入りしたいという動機が「友達に自慢したいから」につきるから。
そしてジャッキー先生は彼に、そんなことじゃイカンと諭す。ちゃんと勉強しなさい、成績が上がったら、きみと一緒に撮った記念写真を送ってあげるよと約束する。
いい話じゃないか。
それで少年は頑張って少しだけ成績も上向き、ジャッキーも約束を守って写真をメールしてくれるんだが、それで少年がしようとするのは、やっぱり友達に自慢するだけ。
ジャッキーのありがたい教えを、理解してないだろ、お前。
このへんが、この映画の限界だったってことかな。
それにしても、「ドランクモンキー」の昔には自身がこうしたバカモノ少年だったジャッキー・チェンも、40年近くを経て教訓を垂れる側になっているんだから、月日のたつのは速いよねぇ。
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