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ジャッキー・チェンと勝負する(16)
今回は「サンダーアーム/龍兄虎弟」。1986年の作品で、その年の夏に日本でも公開されている。
じつは私の中でこの作品、「印象が薄い」ジャッキー作品のひとつになっている。初公開時に見てるんだけど、さて、試写で見たのか、劇場に足を運んだのか、よく覚えていないのだ。ある一点を除いて、作品そのものの内容もよく記憶していなかった。
今回、ひさびさに見直して、なんとなくその理由がわかった気がする。
映画の作りが、非常に「雑」なのだ。
映画の冒頭、あんまりな感じのアフリカの部族の儀式場から、何かありがたそうな剣を奪うジャッキーが登場。まるっきり泥棒みたいだが、これが「怪盗にして冒険家」のキャラクター、「アジアの鷹」の初登場。インディ・ジョーンズを意識したのは間違いないんだが、なんだ、これじゃホントに泥棒じゃん。
で、まあこの「アジアの鷹」が、昔の恋人を救うべく、カルト教団に挑むというのがだいたいの構図。なので、全編ヨーロッパ・ロケ。
「雑」だと感じたのは、たとえばこのカルト教団(この設定は当時まだ珍しかったと思う)が、何をしようとしてるのか、なんで秘宝を持っているのか、さっぱり説明されないあたり。だから、敵役としての迫力も恐怖も何もなくて、ただ、いかれたヨーロッパ人の兄ちゃんたちの集団にしか見えない。サスペンスとか、ほとんど感じられない。
「雑」の原因として、シナリオが甘い、と断じるのは簡単だし、実際その通りなのだが、それでは脚本家に気の毒な気もする。というのは、この映画で私が記憶に残していた「ある一点」のせいであることが、容易に推察できるからだ。
その「ある一点」とは、冒頭のあんまり部族との追っかけっこの撮影中、ジャッキーが転落事故を起こし、頭蓋骨骨折といわれる重傷を負ってしまったことだ。じつはいまでもこの「サンダーアーム」が語られるときには、この事故のことが主になってしまう。
事故の一報は、当時の日本の映画雑誌などでもいち早く報じられ、一時は死亡説も流れたくらい。今でも、この事故の影響でジャッキーには障害が残っているといわれるくらいの重大事故だった。恒例エンドクレジットのNG集にもその現場の生々しい様子が収録されている。
私の記憶からこの映画の印象を消し去ったのは、このあまりにも生々しい現場映像のせいだ。ここだけが印象に残ってしまったのだ。これが、この映画の、記憶に残った「ある一点」。
その大事故が、撮影スケジュールを大幅に狂わせたことは想像に難くない。予定していたシーンや設定が、撮影スケジュールが押したために、かなり大胆にカットされたのではないか。その証左なのか、この映画は98分と、この時期の他のジャッキー監督作品にくらべると、やや短い。そのために、映画全体は説明不足となり、「雑」な作りになってしまったのだろう。残念ながら。
ジャッキー的には、気合を入れた企画だったのは間違いないところ。先に書いたように全編ヨーロッパ・ロケを敢行し、新鮮味のある若手のスターを共演に起用しているし。
その共演のアラン・タムと、ロザムンド・クワンは、今見ると豪華な顔合わせだが、公開当時の日本では、まだ知名度が不足していた。二人ともたぶんこれが日本初お目見えだったと思う(アラン・タムは当時、香港ではすでに人気歌手だったはずだが)。なので、当時は印象も薄かったのだろうね。もっともロザムンド・クワンには、「お、美人」とか思った気もするが。
そんなこんなで、ジャッキー史上、非常に損をした映画なのは間違いない。たぶん、この3年後にふたたび「アジアの鷹」を起用して「プロジェクト・イーグル」を作り、また20年余を経て「ライジング・ドラゴン」で再度復活させたのも、ジャッキー自身がこの「サンダーアーム」に残念な気持ちを残していたからではないのか。
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