未発売映画劇場「サント対宝石密輸団」
サント映画完全チェック、1976年に突入して第45弾。「Santo en el misterio de la perla negra」 英語タイトルでは直訳の「Santo in the Mystery of the Black Pearl」がポピュラーなようだ。
ただし、映画そのものには「la perla negra」つまり「黒真珠」なんてカケラも出てこない。物語の中核を成す宝石は、どうやらダイヤモンドなどの貴金属類らしいのだが、どこがどうなってこんなタイトルがついたのかは、謎だ。
謎なのはこの映画の成り立ちもなんだが、それは後で。
作品としては、犯罪サスペンスにジャンル分けできよう。スペインで強奪された巨額の貴金属が、大西洋を渡ってメキシコへ密輸されるのを、国際捜査官のサントが追跡するだけのお話しで、なんか最初期のサント映画に回帰した感じがする。その後国外へと宝石を持って逃亡する密輸犯を追って、舞台はパナマからプエルトリコへと展開する。最後にややどんでん返し風のものが用意されているのは、サント映画にはめずらしい(上掲のポスターがヒントになる)
冒頭にいきなりアクションシーンが配されるが、そうビックリするようなアクションではない。単に追っかけっこして最後にひっくりかえるだけだもの。最後の「崖落ち」だけはやや頑張ってるが、当時の目でも迫力不足だったろうと思うよ。
という感想が、おそらくその後のすべてのアクションシーンで抱かれるだろう。なにせ新味がない、どれもどっかで見たような気がするアクションばかり。
映画のアクションというのは、何よりもまず「工夫」だろう。基本的な跳んだり跳ねたり転がったりを、たとえば場所を変えたり、人数を増やしたり、道具を使ったりして変化を加えることによって、オリジナリティを発生させるのが「肝」
この映画の場合、アクションの多くが格闘になるのはいたしかたない。なんといってもサントは格闘の専門家たるプロレスラーだし、観客もサントにはジェイムズ・ボンドのような秘密兵器ガジェットとか、トム・クルーズのようなエアアクションとか、ブルーズ・ウィリスのようなタフさは期待しない。プロレスの王者が、その技術と体力を駆使して悪党を倒すのを見たいのだ。うん、ちょっとブルース・リーやジャッキー・チェンに通じるものがあるかも。
ところが、その格闘もなんの工夫もなく、ただただ漫然と殴る蹴るたまに投げるだけを見せられると、そこにエキサイティングな感覚は生まれない。
この映画のサントの格闘シーンは、残念ながら、ひたすら格闘するだけ(そのうえ今回のサント先生は負けが多い。体調悪かったのか?) またそれをロング気味の画面でボヤっと撮影しているだけで、はなはだパッとしない。ちょっとはジャッキー・チェンを見習ってほしい(いやこの時代にはまだジャッキーは出現していないか)
思えば、最初期のサント映画での格闘シーンには、それなりの目新しさがあったと思う。プロレスラーがリングでなく、路上や室内でファイトするのは新鮮だっただろう。ましてやそれを行なうのが、リアルにプロレスラーのサントだったからだ。
その後年月を重ね、多くのアクションシーンを経るにしたがって、アクションの味つけに変化が加えられ、バリエーションも豊富になってゆく。カーアクションやエアアクション、ボートチェイスなども取り入れられ、銃撃戦なども増えてくる。
そうして積み上げてきた「サント映画の歴史」を、この作品では見事にゼロに戻し、いにしえの最初期サント映画に逆戻りした感が強いのだ、悪い意味で。そのせいもあってか、この「サント対宝石密輸団」は、なにか古くさいイメージが強くなった。だからといって、べつに懐かしくはならない。
本作は資料によると1976年の作品で、メキシコでの公開も1976年2月だそうだが、実際にはもっと前に作られたものなのではないか。
本作の製作会社はProducciones Juan N. Ortegaとクレジットされているが、いままで目にしたことのないカンパニーだし、ほかの作品も見当たらない。監督もほぼ初めての、Fernando Orozcoだし、サントの周囲を固める出演陣もあまりおなじみのないメンツ(サントの盟友フェルナンド・オセスはいちおう出ているが)
クレジットによれば、どうやら本作はメキシコ、パナマ、プエルトリコで作られたようだ。合作映画らしい。
そこから推測すると、こんなストーリーが浮かび上がる。
つまりこの映画は1976年よりもかなり以前に製作され、何らかの事情でメキシコでの公開が遅れたのではないか。ひょっとするとパナマあたりでは先に公開されていたのかもしれない。そして1976年になって、ようやくメキシコの劇場で公開された……まあ、裏付けになる情報は見当たらないし、純粋な推測に過ぎないんだが。
もうひとつ謎がある。この作品もまたDVDなどのソフトが入手できず、ネット上に公開されている全長版の動画で見たのだが、それがなぜかモノクロ画像なのだ。資料によればもちろんカラー作品のはずなのだが、複数のサイトで見ることができるのは、ことごとくモノクロ。さすがに1976年になってなおモノクロで娯楽映画を撮っていたはずはないと思うし、ネット上にはカラーの予告編も散見する。
カラー作品がなぜモノクロで提供されているのか、謎だ。
ついでにもうひとつ。サント映画でおなじみのサントの試合シーンはもちろん用意されている。これも初期サント映画同様に律儀に三本勝負完全収録なのだが、それとはべつに映画の最初のほうで唐突に女子プロレスの試合シーンが挿入されている。
試合はなぜか6人タッグ(3人対3人)で、かなりにぎやかなのはいいのだが、そこに出場している6人の女子レスラー全員がマスクウーマンなのだ。これはめずらしいというか、奇異に見える。
そもそも女子プロレスでは、覆面を着用したマスクウーマンは少ないものだ。選手の美貌を鑑賞するのも女子プロレスの楽しみのひとつだからなのは言うまでもない。現在の日本の女子プロレスを見ても、マスクウーマンは片手で数えられるほどだろう。全員がマスクウーマンの6人タッグ……なんのためにこんな試合を、それも映画のストーリーと無関係に挿入したのか?
まあ今回の作品はことほどさように謎が多いのだが、その真相に関する資料は残念ながら見つからなかった。まあこの時期にはサント映画もかなりマイナーな、もっといえば場末の存在になっていて、そんなことは「どうでもいい」になっていたからなんだろうか。
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