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令和5年・秋場所雑記

ここ数年の傾向で、すっかり感覚がバグっているようです。

場所終盤の10日目を過ぎて、1敗で単独トップに立ったのは平幕の熱海富士。それも今場所再入幕で、幕尻近い東15枚目。追ってくる一団には、大関はじめ経験豊富なベテランもおり、ふつうならそのまま優勝とは思わないでしょう。

しかし戦国乱世に慣れてしまった目には、なんとなくこのまま熱海富士が突っ走るのではないかと映りました。そういえば今年はまだ平幕優勝が出てないしな。去年まで5年連続で出てたのだから、そろそろ出てもいいころだし。

実際のところ、いったんは追いつかれたものの14日目に再び単独トップに立ち、千秋楽に勝ちさえすれば平幕優勝というところまで到達しました。優勝すれば、初土俵からの所要18場所で史上最速優勝(これまでは貴乃花〔貴花田〕と朝青龍の24場所)、静岡県出身力士では史上初の幕内優勝になるところでした。

取組を作る審判部は、この快挙を嫌ったのか、度重なる平幕優勝が「番付の権威」を壊すと思ったのか、全力でこれを阻止すべく千秋楽の取り込みを組んだようです。3敗でトップの熱海富士には元・大関の実力者である朝乃山を、追う4敗4人のうち平幕の高安北青鵬には大関の豊昇龍霧島を、そして保険のためか4敗の役力士の大関・貴景勝と関脇・大栄翔を当てます(どっちかが優勝決定戦に残れる) しかも、大関同士の取組を外してまで。ここまで露骨な平幕優勝阻止策は、初めて見たな。

功を奏して(?)熱海富士は敗れ、平幕の2人も脱落。優勝決定戦に勝ち残った大関・貴景勝が優勝を手にしてメデタシメデタシでした。

いや順当といえば順当な結果なんですが、どうもこちらの目には千秋楽で大波乱があったように見えてしまいました。困ったもんです。

なんとか優勝して「番付の権威」を守った大関・貴景勝ですが、どうも風当たりはよろしくないようです。大関で優勝したんだから、当然、次の九州場所では綱取りの話題が出そうなもんですが、理事長や審判部長の場所後コメントではその点は冷淡です。優勝スコアが史上最低タイの11勝4敗、先場所が全休で今場所がカド番だったこと、優勝決定戦での立ち合いの変化といったところが引っかかるんでしょう。

ただ一人の横綱・照ノ富士が2場所連続休場で、贅沢いってる場合じゃないような気もしますが、貴景勝の九州場所での綱取りには相当なハードルがありそうです。たぶん、14勝以上で大きく差をつけての優勝、横綱からの勝利、相撲内容や土俵態度などなど。このハードルを乗り越えられるかどうかが来場所の注目点ですね(ただし場所後の横綱審議委員会では風向きが幾分変わっていたようです)

場所前の予想では優勝争いの本命・対抗と目されていた、新大関の豊昇龍、大関2場所目でカド番の霧島は、残念ながら千秋楽の平幕優勝阻止以外は見せ場なし。大関チャレンジに期待のかかった3関脇も全員勝ち越しはしたものの大栄翔が10番勝ったくらいで目立てず、両小結は負け越し。貴景勝以外の役力士一同は大いに反省する必要がありますね。

にもかかわらず、今場所も三賞は出し渋り。熱海富士が敢闘賞を手にしたのみで、千秋楽まで優勝の可能性があった高安や北青鵬、3大関を破った北勝富士がカスリもしなかったのはどうしたことでしょう。先場所7人もの受賞者を出した反動なんでしょうか。再三書いていますが、三賞はその設立趣旨からして、もっともっと気前よく出すべきでしょう。

今場所は新入幕が一人もいなかったのですが、そのぶん新十両が4人いて、彼らが大いに活躍して十両の土俵を盛り上げてくれました。それぞれ個性豊かな4人は、その持ち味を生かして躍動しました。ただまだ一場所15番の土俵に慣れていなかったのか終盤にはやや息切れし、最終的な成績は高橋天照鵬が8勝7敗、朝紅龍は7勝8敗でしたが、相撲内容の面白さは特筆ものでした。場所のスタミナ配分を覚えたら、まだまだ上積みできるでしょう。

そんななかでバツグンの光を見せたのが大の里でした。初日から9連勝と十両トップを疾走。10日目に一山本に敗れて土がついたときには「大の里が負けた!」という横綱が負けたときなみの衝撃が走ったものです。さすがは学生横綱を制しアマ横綱2連覇を成したとげた大物です。こちらの終盤戦はやや息切れした感もありましたが、堂々の12勝3敗。なんだ、幕内優勝よりもいい星取りじゃないですか。1場所で十両通過は成りそうもないですが、来年早々には幕内でその雄姿が見られそうです。残念ながら負傷でいったん後退した伯桜鵬とともに、次代のヒーローになれるか、注目です。

そして、私が四股名推しで応援していた、母校の後輩・日翔志が十両昇進を手にしました(9月28日に正式決定) 首の負傷で長く苦労しましたが、こちらも将来有望な大物です。一気に幕内まで突き進んでもらいたいものですね。

次々に新進気鋭の若手が上がってきて、今年はずいぶん土俵の風景が変わった気がします。その一方で、今場所前にはベテランの明瀬山が、また場所中には2020年初場所に平幕優勝を遂げた徳勝龍が引退を発表しました。栃ノ心、逸ノ城に続いて優勝経験者が土俵を去ったことになります。場所後の9月27日には幕下以下の17名も引退が発表されています。寂しいことですが、土俵の新陳代謝は進まねばなりません。みなさん、ご苦労さまでした。

さて、来場所は納めの九州場所。照ノ富士の再起、貴景勝の綱盗り、大関盗りレースの再開、新進気鋭の進出、そして年間最多勝争いと見どころも豊富。さあ年内最後の場所に笑うのは誰か、楽しみにしていますよ。

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