ジャッキー・チェンと勝負する(47)

「スネーキーモンキー」でブレイクする前の、アーリー・ジャッキー・チェンのなかでも最重要な作品である「レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳」(1976年)の登場であります。

なぜこの「レッド・ドラゴン」が重要かについては、今までもここでチョコチョコ書いたと思うが、おさらい。

少年時代に全寮制の中国戯劇学院で京劇とカンフーを仕込まれたジャッキー、いやこのころはまだ陳港生・少年は、学院を出たあとはスタントマン、武術指導者として映画界で働く。やがてチャンスを得て徐々に傍役や準主役で出演もするようになり、1973年には「廣東小老虎」で主演のチャンスをつかむ。

ところがこの映画が失敗に終わりお蔵入りになる(のちに「必殺鉄指拳」として改造され公開・このへんは第45回参照) その後「少林門」(1975年)に出演したのを最後に、失意の陳港生・青年(このころの芸名は陳元龍)は映画界をあきらめ、両親が移住していたオーストラリアへ渡り、コックと左官屋をやっていた。

そこへブルース・リーの大ヒット作「ドラゴン怒りの鉄拳」の監督であったロー・ウェイから連絡が入り、続編に主演しないかと誘われるのである。かくして香港へ舞い戻って主演したのが、この「レッド・ドラゴン」なのである。

そしてこの映画で、初めて「成龍」という芸名が使われた。

というわけで、この映画でジャッキーは「成龍」として出来上がったことになる。ジャッキー・チェンのヒストリーはこの映画で始まったといっても過言ではない。

ね、重要でしょ。

にもかかわらず、この作品はなぜか日本では劇場未公開。ブルース・リーの大ヒット作の続編で、ジャッキー・チェン主演なのに。

いやもちろん香港や台湾での公開時、ジャッキーは日本でも無名だったし、ブルース・リーの人気を当て込んだマガイモノがたくさんあった時期だから、1976年当時はやむを得なかったと思う。たぶん「偽ドラゴン」のひとつに見えたんだろう。ホントにいっぱいあったからね。

だが日本で「ドランクモンキー」がヒットしジャッキー人気に火がついたのは、わずか3年後の1979年。その後に前作にあたる「スネーキーモンキー」をはじめ「少林寺木人拳」「成龍拳」「蛇鶴八拳」が次々と公開されたにもかかわらず、なぜこれだけが取り残されたのだろうか? けっきょく「新・怒りの鉄拳」のタイトルでテレビ放送され、その後ビデオ化されただけなのだ。

ちなみに、「ドラゴン怒りの鉄拳」の「続編」ではあるが、製作は同作のゴールデン・ハーヴェスト社ではない。どうやら監督だったロー・ウェイが台湾で興した自分の会社で勝手に製作した「続編」らしい。

なので舞台は日本統治下の台湾である。

コソ泥のジャッキーは、ひょんなことから、香港で潰された「精武門」の残党と知り合い、入門する。台湾武術界を牛耳ろうとする日本人の「大和門」と対立し、ついには香港「精武門」の英雄(つまりブルース・リーが演じた陳真)と同様、横暴なる日本人と対決することになる。

今回ひさしぶりでまともに見たのだが、意外なくらい「ジャッキー・チェンの映画」になっていることに驚いた。

最初はケチなコソ泥で、イキがるわりに喧嘩も弱いジャッキー(役名は阿龍)が、修行を積んで強くなり、ついには本懐を遂げるまでの流れは、後年の作品と同じだし、強くなる前のダメさ加減にはコメディ要素も多く、ジャッキー映画として、違和感はあまりない。むしろ「スネーキーモンキー」にいたるサクセスロードの第1歩としてふさわしい気もする。

こうして見ると、のちにジャッキーとは決定的に対立して袂を分かつことになるロー・ウェイだが、すでにこのときにジャッキー・チェンの魅力をある程度理解していたのかもしれない。

ただ、だとすると、なんでこのジャッキー青年を、あのブルース・リー映画の続編に起用したのかが、よくわからない。「ドラゴン怒りの鉄拳」と同様に、壮絶なバッドエンドにいたるラストの悲壮感を映画の基調と考えたなら、ジャッキー起用は明らかに「違う」 そこにロー・ウェイの深慮があったのか、あるいは単なる思いつきだったのか?

まあいろいろあるが、要するにこの映画のおかげで、世界はジャッキー・チェンというスターを得、オーストラリアは優秀なコックか左官屋を失ったのは、間違いない。

余談だが、本作と同じく日本人を悪役にした「ドラゴン怒りの鉄拳」の公開時に、日本の観客に気をつかい、いくつかのシーンをカットしたバージョンが作られたのは有名な話(お座敷ストリップのシーンとか)

「レッド・ドラゴン」でも、登場する日本人たちは相当な悪印象。だが、あまりにもピントはずれな衣裳やしぐさ、とても日本語には聞こえない日本語のセリフ(字幕がないと日本人の私でも聞き取れなかった)のおかげで、まったく「日本人が悪役」な印象はない。どっかヨソの国の人だと思って見ればよろしい。

最後に最大の疑問。この映画の原題は「新精武門(NEW FIST OF FURY)」なのだが、いったい何がどうなって邦題「レッド・ドラゴン」がついたんだろうか? 見たところ、どこにも「レッド」な要素などないようだが

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