未発売映画劇場「サント対狼女」
いよいよ残り10本を切ったサント映画完全チェック。今回は第46弾「Santo vs. las lobas」 英語題は「Santo vs. the She-Wolves」 メキシコ公開が1976年5月で、2年ほど後にアメリカでも公開されたようだ。
日本では劇場公開がなく、まったく見ることができなかったサント映画だが、世界中ではけっこう公開された地域も多いようで、サント普及率でわが日本が世界的にも下位なことは間違いないだろう。だからといってなんの損失もないんだろうが。
悪党や犯罪者はもちろん、宇宙人も含むさまざまな怪物と対峙してきたサントだが、さすがにネタが尽きてきたようで、今回は「狼女」 狼男とはすでに対決ずみだが、狼女は初めてだ。そもそも狼女なるモンスターがどれくらいポピュラーなのかは知らんが、まあ苦しまぎれなんだろうな。
といっても、狼女は狼男もふくめた獣人軍団のボスなだけなので、サントががっつり戦うのはやっぱり狼男が中心。このへんは「サント対女吸血鬼軍団」と似たような構図だな。
映画冒頭では廃墟に迷いこんだ(?)美女が、怪しげな老婆と遭遇し、そのあげくに狼人間の女王を継承してしまうという一幕が描かれる。
ここは、なかなか怖くてムードのあるシークエンスで、お、これはひさびさの当たり(サント映画にしては)かなと思わせるが、次の瞬間になんの余韻もなくサントの試合シーンに突入するデリカシーの無さで、いつものサント映画に逆戻り。
その試合シーンで気になったんだが、観客の入ったアリーナでの試合シーンが復活している。ここ数作はスタジオでのTVマッチみたいなショボい会場が多かったんだが、今回は観客席が復活。コロナ禍での無観客試合から有観客への復帰を目の当たりにしたばかりなのでちょっとした感慨を抱いたが、これは映画とはカンケーない。
気になったのは、この試合に実況アナウンスがないこと。シリーズ初期のサント映画では試合シーンはただただアリーナの様子を映すだけだったのが、1960年代の終わりあたりから、テレビ中継よろしくアナウンサーの試合実況が入るようになっていた。
それがこの試合では、むかしのスタイルになっている。試合を撮影するカメラワークは悪くないし、試合そのものも展開の早いタッグマッチで面白いのだが、こちらが実況つきのスタイルに慣れてしまったのか、どうも物足りない。なにか演出上の意図があってのこととも思えんが、どうしたわけなんだろうか。
それはさておき、狼女だ。女王たる狼女を演じるのは、このお方。
IMDBによるとけっこう多くの映画に出ている女優さんのようで、フィルモグラフィでは、この映画の直前に「魔鬼雨」とか、ずっとあとにも「トータル・リコール」「マスク・オブ・ゾロ」なんかのタイトルが見える。でもサッパリ印象にないし、ビリングも低い。ひょっとすると別人かもしれない。
まずは色仕掛けで試合後のサントに迫るが、失敗すると今度は凶暴な狼がサントを襲う。女王に従う狼はこの後もちょくちょく出現するのだが、残念なことに狼には見えず、どう見てもジャーマンシェパード。警察犬かよ。
まあ撮影用の犬はいくらでも手配できるが、やはり狼はハードルが高いんでしょうね。
で、この女王様や配下の美女たちが狼女に変身すると、どうなるのか? 妖艶かつ凶暴なケダモノに変身するだろうと期待するところだが。
カツラとツケヒゲをつけただけにしか見えん。そのうえ中途半端。美女の魅力を残そうと考えた結果か、それとも植毛(?)の予算がなかったのか、変身するのは顔だけで、ご覧のとおり首から下はそのまんま。ううむ、こりゃいかん。
さらにいうなら、狼女王は映画の途中でその王座をあっけなく譲ってしまう。かわって獣人軍団の指揮を執るのは、映画中盤でなんのフリもなく、トランシルバニア地方から列車で送られてきた棺桶から甦ってくる、男の狼王。なんだ、そりゃ。
トランシルバニアからで、棺桶とくれば、これはもうかの伯爵でしかないだろうが、出てくるのはどう見ても獣人・狼男。設定が混線してるんじゃないかい?
あとは何がどうなったのか、獣人軍団に襲われる村をサントが救うお話しに変貌する。まぁ、村を守るために、村人たちに銃を配り、戦闘の指揮を執る「荒野の七人」のリーダーのごときサントの姿は、ちょっとだけ新味があったけど。
で、最後は形勢不利と見た狼王が戦場から脱出して、走って逃げる! 荒野をひたすら疾走する狼王(もちろん二本足でランニング) 追うサントも走って追いかける。手に汗握らない荒野の追跡劇は、どう見てもマラソン大会だ。そして追いついたサントは……いやモンスター退治は多くの怪物映画で山のように見てきたが、このラストの呆気なさは、かつてない経験だったぞ。いやホントに。
もちろんそれなりに進化してきたサント映画だが、ここにきて限界が見えつつある気がする。いよいよ栄光の歴史も、いろいろな意味で終焉に近づきつつあるということか。
旅の終わりが見えてきた気がするね。寂しいけど。
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