ジャッキー・チェンと勝負する(19)
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今回は「拳精」1978年の作品。少林寺で修行中のジャッキーが、偶然手にした秘伝書から出てきた五人の拳法の妖精から必殺技を習い、武林乗っ取りをくわだてる悪者を倒すお話し。
この欄は、ディアゴスティーニ社発売の「ジャッキー・チェンDVDコレクション」の発売順に書いているわけなんだが、どういう基準で発売順が決定されているのか、今回はまた、急にえらく古い作品に逆戻りした。で、前回まで都会的アクションが続いていたせいか、この「拳精」、やけに古く感じたよ。その点では、ちょっと気の毒だな。なにしろ「スネーキーモンキー 蛇拳」よりも前の作品なのだから、古いのも当然なんだが。
ジャッキー映画は、製作時期によっていくつかの時代に分けることができる。最初の分岐点が「スネーキーモンキー」でのブレイク、次いで「プロジェクトA」と「ポリス・ストーリー」を製作してカンフー映画を脱却したとき、そして本格的にアメリカに進出した時期、といった具合だが、この「拳精」は、最初の分岐点よりも前の時代、ジャッキー・チェンがジャッキー・チェンとして出来上がる前の時代のものなのだ。まあ、古いよな、そりゃ。
ただし、ジャッキーらしいコミカルさはすでに本作で見てとれる。修行中なのに平気でサボったりする「軽い」キャラは、後年もずっとジャッキー映画での基本になるキャラクターの原型といえる。プレ・ジャッキー時代の作品としては、最後期なので、当然なのかな。
さて、ここで懺悔を一つ。
前に「番外編」で「ジャッキー・チェンはお化けが怖い」と断言した。ジャッキー映画に、SFやホラーといったジャンルのものがないことからそう判断したのだが、考えてみたらこの「拳精」って、けっこうファンタスティックものだよな。秘伝書から拳法の妖精みたいなのが出てくるメカニズムがまったく説明されないので、コメディに見えるが、ラストの対決でもこの妖精たちが介入するのだから、単なる味付けではない。これ、間違いなくスーパーナチュラル要素が入っている映画だった。ジャッキー、ごめん。でもこの映画、ぜんぜん怖くないけど。
カンフーにスーパーナチュラルを絡めたSFホラー系のカンフー映画というのは、いつごろからあるのだろう。カンフー映画の歴史は長く、日本ではその大半、ことにブルース・リー以前の映画はほとんど見られていないので断言はできないが、1973年に英国の名門ハマー・プロとショウ・ブラザースが合作した「ドラゴンvs7人の吸血鬼」が最初なのかな。だがこれはハマーの正統「吸血鬼ドラキュラ・シリーズ」の最後の作品なので、香港映画としては、かなりイレギュラーなものだと思う。その後の時期にもこうした作品は香港で作られていたのだろうか?
ようやく1981年になって、ジャッキーの兄貴分サモ・ハンが作った「妖術秘伝・鬼打鬼」がヒットし、続いて「霊幻道士」シリーズ(キョンシーの出てくるやつ)でカンフー+ホラーがポピュラーになった。このへんが、SFホラー系カンフーの最初だとしたら、この「拳精」は、それに先立つものとして、けっこう先取的な作品だったのかもしれない。
今見ると、モタモタ感はぬぐえず、製作・監督のロー・ウェイの古臭いカンフースタイルとジャッキーのアクションが噛みあっていないのは確かだが、そういう意味ではひょっとすると香港映画の歴史上、重要な作品なのかも……そうでもないか。
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