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令和5年・春場所雑記
ただでさえ1横綱1大関という異常事態が続く番付なのに、たった1人の横綱が全休、横綱盗りがかかっていた大関は負傷により途中休場で、横綱・大関が誰もいないというさらなる異常事態が出来した春場所。横綱・大関不在は昭和になってから初めてだったとか。
そんな場所だったのに、優勝争いは白熱、相撲内容もよく、上位不在の寂しさを感じるヒマもありませんでした。三役陣だけでなく平幕力士も大いに健闘。場所そのものの盛り上がりは、ここ数年のなかでも上位にランクできるでしょう。
もちろん、コロナ禍で禁止状態だった声出し観戦が解禁され、相撲場に歓声が戻ったことも大きいでしょう。やはり相撲場はこうでなければ。
そんな盛り上がりを見せた春場所ですが、例によって三賞選定には文句を言うことになります。毎場所のように文句を言いたくはないのですが。
春場所は、殊勲賞は該当者なし、敢闘賞が新入幕で11番勝った金峰山、技能賞が優勝を争った霧馬山と大栄翔。
この顔ぶれに異論はありませんし、横綱も大関もいなかったのだから殊勲の星を挙げようもないので殊勲賞なしはいいんですが、それでも「え? これだけなの?」と思いますよね。看板力士がいない場所をこれだけ盛り上げたのは全員が三賞の対象となる関脇以下の力士たちだったんですよ。
初日から10連勝して場所を引っ張った翠富士、大関盗りへの布石となる二桁勝利の関脇・豊昇龍、小結で堂々の11勝を挙げた若元春、復活を予感させて筆頭で10勝した正代、悲願達成こそ成らなかったものの10勝を挙げて奮戦した高安、大器の爆発近しを予感させた小結・琴ノ若、相撲の巧さを見せつけた遠藤、地元の歓声を大いに引き出した宇良、同僚の翠富士とともに序盤をリードして10勝した錦富士、新入幕ながらスケールの大きさを見せた北青鵬……
どうでしょうか、彼らのうちの誰一人として三賞の表彰式に上がらなかったことに納得がいきますか?
なかでも翠富士。動きもよく、技も切れ、大胆な相撲を展開、勝ち運にも乗って初日から快進撃。私は終盤まで彼が平幕優勝すると確信していました。観客の支持も凄く、毎日大変な声援を浴びていましたし、間違いなく場所を盛り上げたヒーローだったでしょう。この場所の主役といっても過言ではありません。
その翠富士が「千秋楽に勝てば敢闘賞」という毎度おなじみの条件付き候補にとどまったのは、やはり納得がいきません。
審判部なのか相撲記者クラブなのか、どうも三賞選定メンバーは、三賞をできるだけ出したくないようです。なぜなんだろう? 賞の権威とかを守るために出し惜しみしている? だとしたら、本末転倒。頑張った力士に報いるための三賞ではないのですか。まさか賞金が惜しいとかではないでしょうね。
出し惜しみなんかせずに、もっと大盤振る舞いをしてもらいたいものです。
さて、見事に優勝した霧馬山をはじめとして、大いに健闘した三役陣。横綱大関がいないので当然ともいえますが、3関脇4小結のうち、豊昇龍、霧馬山、若元春、大栄翔の4人が10勝以上、9勝の琴ノ若も相撲内容では大いに見せたし、序盤につまづいたあげくに終盤に負傷休場してしまった若隆景、負け越したものの面白い相撲をたっぷりと展開してくれた翔猿も含めて、大いに称賛したいですね。
そのおかげで、大関盗りレースはその様相を大きく変えました。
7場所連続関脇在位で大関にいちばん近かった若隆景は7勝止まりで休場してしまい大関盗りが振り出しに戻ってしまったものの、関脇4場所めで8場所連続勝ち越し中の豊昇龍、そして優勝決定戦を戦った霧馬山と大栄翔、小結で11勝の若元春、昨年から負け越し知らず(昨年名古屋場所はコロナ禍休場)の琴ノ若といったあたりが大関盗りレースの先頭集団を形成しています。
ちなみに大関昇進の目安となる直近3場所の成績をみると、豊昇龍が29勝(18勝)、霧馬山が31勝(23勝)、若元春が30勝(20勝)、琴ノ若が26勝(17勝)、大栄翔が29勝(22勝)。〔( )は直近2場所の成績〕 よく「直近3場所の合計33勝」が目安とかいいますが、大関が一人だけという異常事態ゆえ、もう30勝をオーバーすればいいんではないでしょうか。
来たる夏場所に展開される大関盗りレースでは、春場所優勝の霧馬山が本命、優勝同点の大栄翔が対抗といったところで、ともに10勝が目安になるでしょうが、豊昇龍と若元春も12勝以上すれば充分可能性あり、琴ノ若だって高レベルでの優勝でも達成すれば(可能性はたっぷり)、夏場所後の大関昇進もあり得ます。状況次第では、ダブル昇進どころかトリプル昇進もあり得るのではないでしょうか。
大関盗りレースはいよいよ白熱、面白くなってきましたね。彼らに現・大関の貴景勝を加えたメンバーから、次代の主役が生まれるのでしょう。目が離せませんね。
今場所は十両の土俵にも注目しました。幕内優勝経験者が4人も揃い、令和の怪物と称される大器・落合もいて、レベルの高い争いが見られたからです。
十両優勝は逸ノ城と朝乃山の争いとなり、逸ノ城が14勝1敗で優勝、朝乃山は13勝2敗。まあ二人ともいまさら十両優勝を争うなんていうレベルの力士ではありませんし、どちらも負傷などではない事情による十両在籍なので、当然の結果でしょう。むしろこの2人に土をつけた豪ノ山(逸ノ城に7日目)と幕内の王鵬(朝乃山に12日目)のほうに感心しました。
逸ノ城、朝乃山とも、夏場所にはたぶん幕内下位に復帰するでしょう。今場所の相撲ぶりを見ると、夏場所の幕内優勝争いでは2人とも本命に推してもおかしくないかもしれませんね。
十両の土俵で大いに驚かされたのが落合です。2日目に入門後初めての黒星を喫したものの、名だたる幕内経験者を連破して9日目には勝ち越し。その後3連敗はあったものの、最終的には10勝5敗。逸ノ城と朝乃山には敗れたものの、もしこの2人がいなければいきなりの十両優勝もあったかも。夏場所は十両中位まで上昇しそうで、大勝ちすれば一気に入幕もありそうです。
そうなるときになるのが落合の四股名。べつに本名のままでもかまわないんでしょうが、これだけの大器、しかも師匠は相撲美を愛する元・白鵬の宮城野親方ですから、早々にふさわしい四股名をつけていただきたいものです。
私は新十両の今場所で四股名をつけるかと思っていたんですが、タイミングをはかっているのか、親方がいい四股名を考えついていないのか。ただ遅くなるとなんとなく四股名をつけそこなうこともあります。
宮城野部屋には北青鵬、炎鵬、宝香鵬、雷鵬、千鵬、高馬鵬がいるので「ナントカ鵬」が妥当なところでしょう。龍鵬とか͡虎鵬とかあるいは雲鵬、雪鵬、風鵬なんかもいいかな。いっそのこと師匠に連なる黒鵬とか金鵬なんてどうですかな。いやいやいっそのこと歴代宮城野親方の大先輩である横綱・鳳、大関・鳳凰、あるいは現在の部屋の創設者である横綱・吉葉山の名を継ぐなんてのもアリかも。ぜひとも幕内に上がる前に、カッコイイ四股名をつけてもらいたいですね。
同じく十両では、かつて川崎市内にあった春日山部屋の残党である玉正鳳、川崎市川崎区出身で市内の向の岡工業高校卒業の友風という、わが地元・川崎ゆかりの2人が、いずれも勝ち越しました。友風は引退必至の大きな負傷で幕内から序二段まで降下した「地獄」(本人談)から復活した再十両、玉正鳳は部屋の移籍などさまざまな苦労を乗り越えて11年目の新十両。苦労してきたところをずっと見ていただけに、今場所の土俵入り姿には感動しました。これからのさらなる活躍に期待。ずっと応援するからね。
気になるのは、休場した横綱・照ノ富士と大関・貴景勝の状態。照ノ富士は出場すれば進退を賭ける場所になるし、貴景勝は大関カド番。そんなことは起きてほしくないですが、夏場所後には横綱も大関もいないなんてこともあり得なくはないでしょう。2人にはしっかり調整して夏場所に臨んでもらいたいですね。
もう1人気になるのが、1年前には大関昇進で主役を張っていた御嶽海です。ご存じのとおり、その後昨年夏場所からは勝ち越しすらできず、今場所は4勝11敗の大負け。夏場所はおよそ8年ぶりに前頭10枚目以下の幕内下位に転落しそうです。相撲ぶりにもまったく覇気が感じられません。いったいどうしてしまったのか。
私は主にメンタルの不調が原因で、ひとつきっかけをつかめば復活すると思っていましたが(今場所は同じような境遇になっていた正代が復活)、どうもそんなに簡単なものではないようです。
どこか重大な故障でもあるのでしょうか、なんとも心配なことになっています。御嶽海のことは「春場所ニューカマー」シリーズで、初土俵以来ずっと定点観測しているだけに、見離す気にはなりません。ずっと同期の出世頭だったのに、今場所は優勝した同期の霧馬山にすっかり逆転されましたが、なんとか立ち直って、再度上位へ戻ってもらいたいところです。
さて、最後に苦言を。
解説の北の富士さんが休場で寂しさを拭えなかったNHKの大相撲中継ですが、今場所は中継でのミスが散見しました。アナウンサーが告げる過去のデータや四股名といったさまざまな情報に、誤りが多かった気がします。もちろんすぐに訂正が入るのですが、ちょっと姿勢が雑になっているのではないでしょうか。ネット配信のABEMAがあるとはいってもまだまだ大相撲を見るならNHKでというのが、私を含めたテレビ桟敷のファンの大半でしょう。いっそうの精進を!
では、ますますの白熱が期待される夏場所で、またお会いしましょう。
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