ジャッキー・チェンと勝負する(51)

まだあるぞ、アーリー・ジャッキー・チェン。

今回は1973年の「ドラゴンファイター」 原題は「師哥出馬」 そしてメインタイトルでは「領衡主演 成龍」 これ、いずれも真実をまったく伝えていない。

邦題や原題を見るとカンフー映画に見えるんだが、この作品は現代モノの犯罪サスペンス。ドラゴンもファイターも師哥(師兄=兄弟子)も出てこないし、出馬もしない。そしてジャッキーは主演ではなく、脇役で悪役。ついでにいえば、この時期のジャッキーはまだ「成龍」にはなっていなくて、旧芸名の「陳元龍」だったはず。

はい、例によって、これはジャッキーがブレイクした後で再公開されたバージョンのソフト化なんですね。

もともと1973年に公開された時のオリジナルタイトルは「女警察」(英題はPolice Woman) 文字通り、女性刑事が主人公の物語で、彼女が偶然から犯罪組織に追われるタクシー運転手を助けるというストーリー。

ジャッキーが演じるのは、その犯罪組織のチンピラ。昔の資料を見ると、いちおう出演者のビリングでは3番目にランクされている。チンピラの兄貴分の役で、喧嘩シーンでのファイトぶりはとても弱冠19歳、新人同然の若僧とは思えない出来栄え。それはそうで、この映画の武術指導はジャッキー自身が担当しているのだ。そう、ジャッキーは俳優以前に武術指導者として映画界に入っていたのだから。

で、肝心の映画の出来だが、まあテキトーだな、これ。

最初にジャッキー率いるチンピラ軍団がビクトリアピークでカップルにからんで悪さをするのだが、それとは関係なく女刑事が登場して颯爽と別のチンピラを撃退。そこから一転して話は事件に巻き込まれるタクシー運転手に飛び、女刑事はその後は後半までほとんど出てこない。出演者のビリングをオリジナル資料で見ると、どうもこのタクシー運転手が主人公らしいのだが、じゃあ「女警察」ってタイトルは何なんだ。しかも、終盤のアクションシーンでは、逆にタクシー運転手はほとんど出てこなくなる。

要するに、一貫性がなくて印象がバラバラ。

そんななかで、顔の大きなあざがあるという設定のおかげで、見た目の迫力がゼロになっている悪党を演じるジャッキーの印象もどこかちぐはぐだ。われわれは、その後の善人役専門のジャッキーをイメージして見るせいもあるんだろうが、どこか非情になれないチンピラは、悪役としてまったく凄みにかける。悪役失格だな、ジャッキーは。

そんな映画なのだが、主演陣のキャストだけは覚えておいて損はない。もちろん偶然なんだろうが、じつはなかなかの豪華キャストなのだ。

女刑事を演じるのはカム・カーファン(甘家鳳)。なんか見たことがある顔だなと思っていたが、その正体はユン・チウ(元秋)である。ヒット作「カンフー・ハッスル」や、前に書いた「カンフー麻雀」や「007/黄金銃を持つ男」にも出ていた女傑だ。おお、若いころはけっこう凄みのある美人だったんだな。このころはまだ新人女優だったはず。ちなみに芸名を見れば察しがつくように、彼女もジャッキーと同じく中国戯劇学院の出身で、姉弟子にあたるそうだ。

タクシー運転手のほうも、どっかで見た顔だなと思っていたら、チャーリー・チン(秦祥林)だった。「五福星」「大福星」などのシリーズで福星メンバーの一人であるハンサムを演じた、あの色男。こちらはすでにこの時期には主演俳優として定着していたようで、そうかやはりこの人が主人公だったんだね。

だとすると、のちに「福星」シリーズに出たころはジャッキーとは立場が逆転していたわけで、いろいろ複雑だったのではないだろうか。

だが、ジャッキーの自伝『 I AM JACKIE CHAN 』ではこの作品に触れて「失敗作」と断じているが、出演中にチャーリー・チャンと友人になれたことが唯一の収穫だと述懐しているから、余計なお世話か。

と、思わぬ興味はあったものの、けっきょくは、70年代初めの香港映画は雑な作りだったんだなぁと、あらためて思わせるだけに終わった作品だった。

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