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令和6年・九州場所雑記
どうやら、ほんとうに新時代が到来したようです。
場所前には新大関の大の里に注目が集まり、綱盗りまで話題に出るなか、燃えた(に違いない)先輩大関の琴櫻と豊昇龍が奮起。終始優勝争いをリードし、千秋楽結びで1敗同士の相星決戦という最高のシチュエーションで1年を締めくくりました。
ついに悲願の初優勝を果たした琴櫻は、初の年間最多勝も獲得。来場所は初の綱盗りチャレンジになりそうです。今場所の相撲ぶりは安定感バツグン。ついに大器が花開いた感じです。
その琴櫻との決戦に敗れ、無念の準優勝に終わった豊昇龍ですが、こちらも相撲内容は充実。投げに頼る相撲から前へ出るパワーが増して相撲ぶりが一変しました。来場所に質の高い優勝をすれば横綱昇進もあり得るでしょう。
初場所、この2人が今場所と同じように高次元での優勝争いをすれば、横綱同時昇進が実現しそうです。
もちろん、その争いを大の里が黙って見ているはずもないでしょう。両者のあいだに大の里が割って入れば、いっそうの盛り上がりが期待できます。
今場所の千秋楽の盛り上がりを見ていて、ふと感じたのは、ちょっと昔の横綱同時昇進のことです。
昭和44年(1969年)の名古屋場所中に横綱・柏戸が引退。長く続いた柏鵬時代が幕を閉じ、残る大鵬も不調続きで、新横綱の誕生が待望されていました。当時、大関にはまだ若い、北の富士、玉乃島が並び立っていて、当然のように期待が集まります。
そんな中、秋場所には玉乃島が北の富士との競り合いを制して優勝。いちはやく綱盗りに名乗りをあげます。しかし続く九州場所にはつまづいて10勝止まり。かわって奮起した北の富士が負けじとこの場所を優勝して、年明けの初場所で綱盗りに挑みます。
迎えた昭和45年初場所、両者は猛烈なデッドヒートを展開。北の富士1敗、玉乃島2敗で千秋楽の直接対決に突入します(大鵬は全休) 結びの大一番で玉乃島が意地を見せて北の富士に勝ち、ともに13勝2敗で優勝決定戦へ。決定戦は北の富士が制して2場所連続優勝。
場所後、文句なしの北の富士とともに、優勝同点の玉乃島も成績の安定性を買われ(北の富士はムラ気が課題だった)、2人は同時に横綱に昇進しました(玉乃島は玉ノ海に改名)
こうして柏鵬時代に終止符が打たれ、北玉時代の幕が開いたのです。
当時まだ小学生だった私の記憶は霞み気味ですが、それでもあの「熱気」はよく覚えています。時あたかも1970年代の幕開けの年、ここから新しい時代が始まるんだというムードが溢れていました。
どうでしょう、なんか今の雰囲気に似通っていると感じませんか。
もちろん、当時と大きく違うことがあります。当時はマッチレースだった綱盗りですが、今回は大の里がいるのです。今回は蚊帳の外になりましたが、すでに優勝回数では琴櫻、豊昇龍を上回っているのですから、まだまだ置いていかれているわけではありません。大関に置き去りになるのは避けたいところ。初場所からの巻き返しに、まずは二人を倒すことに集中してくることでしょう。
ちなみにですが、北の富士と玉の海が横綱に昇進した際に置き去りにされた大関のひとりが、先代・琴櫻、つまり今の琴櫻の祖父でした。なんか因縁ですね。
さらによけいなことを言えば、今回の琴櫻の優勝が「祖父と同じ、大関5場所目で年齢も27歳」と盛んに言われています。それはその通りですが、その後の祖父・琴櫻は決して順風満帆とはいっていません。最初の綱盗りは途中休場で失敗、翌年春場所で2回目の優勝をしたものの綱盗りはならず。以後は負傷もあって大関維持が精一杯で、当時は「ダメ大関」呼ばわりされていました。上に北玉両横綱の充実、下に初代・貴ノ花や輪島を筆頭にした若手の台頭があって、大関にはつらい時期だったのよ(琴櫻のほかに清国、大麒麟、前ノ山が大関在位) けっきょく大関在位は5年余におよびその間カド番3回。横綱昇進時の32歳2ヶ月は年6場所制下では最高齢記録。そのために横綱在位は8場所に留まりました。もちろんそれはそれで偉大なるドラマなんですが、孫・琴櫻にはこの道は歩んでほしくないですね。
まぁ、祖父と孫とはいえ、過去との比較はあまり前向きではありません。それは叔父の朝青龍と較べられる豊昇龍、祖父・大鵬を引き合いに出される王鵬も同じで、本人たちには迷惑かもしれませんね。本人は本人、自分たちの相撲人生を築いていってください。
出世レースは横綱昇進争いだけではありません。ここのところで一段落した感のある大関盗りは、若元春、若隆景の兄弟が再浮上してきて再びヒートしそうなムード。さらに前頭上位で足踏みが続く熱海富士、平賀海、今場所大勝ちで盛り返してきた阿炎、隆の勝、負傷でやや後退した霧島といったあたりがひしめく上位は来場所も激戦必至。そして再入幕で10勝を挙げ復活の狼煙を上げた尊富士からも目が離せません。
さらに今場所の成績を見直すと、初場所には幕内と十両の入れ替えが5人から6人と多人数になりそうです。ここのところ若手の台頭で番付が新鮮になってきています。
来年は昭和でいえばちょうど昭和100年。番付でも土俵でも、新しい風景が見られる年になるでしょう。
ではまた来年、お会いしましょう(笑)
末筆になりましたが、場所中に訃報が伝えられた北の富士さんに合掌。私と同じ3月28日生まれということもあって昔からファンでした。長い間お疲れさまでした。いまごろあちらで仲の良かった玉乃海や竜虎と遊び歩いていることでしょう。謹んで冥福をお祈りします。