【行政書士試験】勉強した人しかわからない法的視点

 今回は、合格不合格にかかわらず、行政書士試験のための勉強したことは無駄ではなかった、というようなお話です。
 単刀直入にいいますと、あなたの世界は広がりました。何を尺度として議論するのかわからず、ただズルいとかただムカつくという基準で判断していた話題に対して、法的な基準や視点をもって議論することができるようになりました。


 香川県議会2020年3月18日に成立させて話題になった香川県ネット・ゲーム依存症対策条例を覚えているでしょうか。この条例は、プライベートの時間に干渉するもので、科学的根拠のみならず法的根拠も怪しかったため、あらゆる分野の専門家から批判を受けました。

 このような条例の制定に対して、この条例が対象としているところの香川県の少年が立ち上がり、香川県を被告として、国家賠償訴訟を提起します。
この少年による蜂起には、「こんな条例おかしい!もっとやれ!」、「まだ未成年なのに立派なことだ」という肯定的な意見がある一方で、「結局金かよ」とか「俺も香川県民だから金請求してみるわ」というネガティブな意見が見られました。一般論として、請求だけを見ると、お金が欲しくてやったように見えてもおかしくはないかと思います。
 しかし、法的な視点に立つとどうでしょう。全然別の見方ができませんか?


①地方自治法的な手段
 条例改廃請求権は、住民が有権者の50分の1の署名をもって請求できます。香川県の人口ですが、令和5年ですが、92万5408人だそうです。何人の署名が必要になるかというと、1万6508人(もしかしたら切り上げで1万6509人かもしれません。)です。
 この手段で、もう一度議会に問うのが王道であり、誰からの納得も得られるのはいうまでもありませんが、本当に現実的でしょうか。
 それなら一人でもできる住民監査請求ができるじゃないかという意見も出てきそうです。しかし、違法若しくは不当な財務会計上の行為がありません。かなり無理な解釈を活用すればそのような行為があるともいえる気がしますが、かなり無理のある解釈ですし、最初から②に示すような手段の方が直接的です。

②訴訟的な対応
 では、他に一人でも行う手段というともっとも考えうる手段は、条例制定行為を処分とする取消訴訟でしょうか。
 しかし、条例制定行為は、極めて限られた事情の下でしか、処分性を認められません。具体的な権利義務を発生させるわけでもなく、また不特定の18歳未満の住民全体を対象としており、およそ処分性を認めることは難しいでしょう。
 そうすると、現実的に条例の制定がおかしいんだ!っていうことを争うには、国家賠償請求訴訟によらざるを得ません

③結論
そうすると、国家賠償請求を行うのはむしろ自然であり、かなり妥当な手段だったといえそうです。
 そして、国家賠償が認められることがほとんどないことは、間違いなく代理人弁護士において説明済みです。それでも、弁護士費用を集め、署名や活動等の少なくない労力を費やし、心無い批判にさらされる覚悟をもって訴訟を提起したのは、相当立派だと思います。

④余談
 実際にも、行政庁の行為の違法性を訴える場合でも、国家賠償請求が一緒に請求されることは極めて多いです。処分性は、あくまで入口の話に過ぎず、通常は、訴訟要件と内容についての判断は並行して進んでいきますが、取消訴訟のみだと、ここの争いだけで一大論点であるため、内容について判断せずとも却下されてしまうことが往々にしてあります。実際に違法であったかどうかを判断してもらうために必要なのです。
(なお、請求金額については、事物管轄と貼付印紙代から160万円となったんじゃないかと邪推しています。)


 上記のような話は、大学教授や弁護士といった専門職の人にとって当たり前に理解していることであり、国賠を提起していなかったら弁護過誤さえ疑われます(出訴期間徒過の場合)。他方で、メディアはこういった内情まで理解しているか怪しく、また記述量の関係で紙面を割けません。こういった、見えていなかった事実が、ニュースの類には無数に含まれています。

 ここまでを読んでみて、いかがでしょうか?学習は本当に日常に役立たなかったでしょうか?少なくとも上記の話が完全にわからないということはなかったのではないでしょうか。
 長文にお付き合いいただきありがとうございました。
 少しでも参考になれば、スキをお願いいたします。


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