寒くも暖かい話

2018年の最後。僕は毎年とは違う選択をした。いつもはといえば、家族みんなで祖母の家での年越しだ。母の誕生日が大晦日なので、毎年ケーキとそばが食卓に並ぶ。何とも奇妙な取り合わせだ。ソバを啜り、ケーキを食べながら紅白を見て親戚だんらんとする。そんな毎年。
 だが、今年はそうではない。理由は二つあるのだ。一つは祖母の家にいるいとこが今年大学受験であること。もう一つは今年自分が成人であること。
迷惑をかけられないので、祖母の家には行けない。したがって自然と実家で年を越すこととなるわけだが、成人式があるのでわざわざ二回も帰ることはないだろうと、そういうことである。
 そんなわけで、帰らないという選択肢を取った。だが、一人で過ごす年末ほどさみしいことはない。「そうだ!旅に出よう!」そんな感じで今回の旅を決意。忘年会後のクラクラする身体にムチを打ち、足を、頭を動かす。実は冬場に旅をしたことはまだ一度もない。初の冬旅だ。いつもより、少し荷物がかさばって感じるのは服のせい。コートにバックパック。まさに旅人とでも言わんばかりの装備で家を出る。ヒッチハイクを始める場所は自分の中でもう決まっている。高速道路の入り口と2号線につながる道路のローソンの手前が定位置だ。とはいえ、ルーティーンがあるのはそこまで。そこからは毎度、未知の領域である。
  定位置についてしばらくすると雪が降ってきた。今年の年末は相当寒いのだとか聞いたのを思い出す。ヒッチハイクをするとき、スケッチブックに行き先を書いて掲げるのだが、上に手があげられない。どうしても腕が捲れてしまうために寒くて仕方がないのだ。震える体にかじかむ手。凍えながら小一時間ほどただひたすらに立って乗せてくれる優しい人を探す。首をかしげてくれる人。そっぽ向いている人。見て笑う人。様々である。個人的には反応をもらえるだけでも有難い。少しうれしくなるものである。
  なんて思っているところに一台の車が寄ってくる。
「寒いだろう。早く乗りなさい。」
おじさんにそう告げられ、礼を告げながら乗り込む。
「どこまで行きたいんだ?」
と、おじさんに聞かれて、福岡(県)です。と返す。
するとおじさんはとても驚いた表情をして少し早口で僕にこう告げた。
「福岡!?無理だよここからじゃ。駅まで連れて行ってあげるから電車に乗りなさい。寒いでしょう。」
実は何回か福岡までヒッチハイクで行ったことがあったからそんなことはないんだけどなあ、なんて思う。だけれど、目の前のおじさんの厚意を踏みにじることはできない。さて、どうしたものかと思っているとおじさんはさらにこう告げてきた。
「下関までの切符は買ってあげるから、駅まで一緒に行こう。」と。
もはや訳が分からない。なんだこの人は。聖人なのか。なんて思いながら、いいんですか!お願いします!と告げる。何とも現金な奴である←
 聞くと、おじさんは今までに3回ほど乗せたことがあるのだという。なんともいい人である。他愛ない世間話に花を咲かせているとあっという間に駅に着く。駅に着いた時には、電車が来るまでにあと10分だった。おじさんと急いで改札に向かって少し走る。おじさんに切符を買ってもらい、それだけでもかなり有難いというのに、これでご飯でも買いなさい。と、2000円までいただいた。なんと暖かい人なんだ。これはしっかりと礼を告げなければならない。そう思い、伝えようとするも遮られる。
「時間がないでしょう?急ぎなさい。無事でね。」と。
切符を握りしめ、改札口を抜けながらおじさんにありがとうと伝える。
おじさんと笑顔で手を振りながら別れた。
 今頃どこで何をしているのだろうか。もう一度会えたら、またしっかりと礼を伝えたい。そんな寒い日の温かい話。

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