胸オペが出来るクリニックの比較レポ
乳房を取りたくて色んなクリニックに相談に行った際の覚え書きです。
※この記事はあくまで一個人の例であり、すべての人に当てはまるというわけではありません。また、乳腺摘出手術を含む性別移行を、本来必要でない人に推奨する意図もありません。
※備忘録であるため、念の為この記事では医療機関の実名は伏せています。
胸オペって?どんな手術をするの?
知らない方のために念の為説明いたしますと、FtM (女性から男性に性転換をする人、または希望している人)が胸を男性の胸板に近づけるために、乳房の中身を取り出すなどして平らにする手術のことを言います。
正式には「乳腺摘出手術」や「乳房切除手術」と言ったりします。
術式は一般的なものでは大きく分けて2種類あって、「乳輪の周りを切る方法(U字・O字切開)」と「乳房の下の部分を切る方法(I字・T字切開)」があります。
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どうやって術式を決めるかというのは引用した画像に書いてあるのと後で少し説明するので割愛します。
U字・O字切開よりもI字・T字切開のほうが傷跡が大きく、目立ちやすくなります。また、U字切開ではたるみが残りやすいため、たるみを取りたい場合は追加の手術が必要になることがあります。
どちらにしても、綺麗な胸板になりたい場合は外科的な処置以外にある程度自分でのリカバリーが必要になります。具体的に言うと、多くの人が筋トレをして胸筋を付けています。
胸筋が大きくなることで、たるみや(I字切開の場合)傷跡が目立たなくなり、男女の胸郭の形の違いをカバーしやすくなります。
どうして胸オペするの?ナベシャツで良くない?
これに関しては正直今でも悩んでいることです。
私は服を着た状態で男性に見えるようになればいいと思っている(身体違和もありますが)FtMなので、ナベシャツで平らに出来るのならそれで良いと思っていました。
しかし、私の場合、ナベシャツで潰しても「男性の胸のよう」にはなりません。
「胸の小さい女性」か「すんげえ鳩胸の人」か「すんげえ胸筋の人」になります。
ナベシャツで潰したところで乳房の分の体積は消えてなくなるわけではないのだから当然です。男性にはない肉の体積を隠すために、服装にも気を使う必要があります。
一方、他のFtMの方や相談に行った病院の先生から「ナベシャツ(に類するもの)で胸を潰していれば充分男性(小太りのおっさん)の胸に見えるよ」と言われました。お世辞なのかもしれませんし、私は小太りなので、体形を考慮すればそこまで違和感はないのかのしれません。
実際に胸オペをした方に訊きますと、胸オペ前後でパス度が変わったという実感はないようです。推測するに、ぱっと見男性に見える人の胸なんかジロジロ見る人はいないという事なのでしょう。
ですが、ナベシャツで潰しきれない肉のボリュームがあることで「女性だと思われるかもしれない」という不安(パス度への不安要素)は常に付きまとっています。
日常生活に少なからず(悪)影響を及ぼしていることは事実ですし、このままずっと先こんな思いをして過ごさなければならない、ましてやこの胸のままで死ぬということを考えるとやっぱり嫌だと思い、胸オペを受けようと思いました。
どんな条件が有利・不利になるのか
まず筆者のスペック(胸オペに関係するもの)を参考に見ていきましょう。
年齢 28歳
体重 70kg前後
胸のサイズ D〜Eカップ
持病 なし(やや肥満、コレステロール値高め)
診断書 あり(早稲田通り心のクリニック)
保険 適用外(自費)
希望する術式 U字切開→I字切開
年齢について
若いほうがいいです。基本的な体力が違ってきますし、肌の弾力(胸オペ後の余った皮膚の復元力)があります。
特に肌の弾力に関しては、20代後半にもなると自覚はなくてもなくなっていきます。U字切開を希望した場合、肌の弾力がしっかりしている場合D〜Eカップくらいのそこそこ大きな乳房でもたるみが少なくなります。
なので、18〜25歳くらいに胸オペするのがベストだと個人的に思っています。
体重
体重70kg、もしくはBMI30が何かしらのボーダーになっている病院が多いです。
たいてい麻酔が理由です。手術の日までになるべく適正体重まで落としましょう。
あと、同じ理由で顎下の脂肪が多い人は追加料金を取られる場合があります。
胸のサイズ
小さいほうが良いですが、前述したように肌の弾力があれば多少乳房のサイズが大きくてもU字切開で出来ます。ただ、カップ数が大きければ下垂している率も高いです。
目安としてD〜Eカップあたりが「U字でもできない事はないけれど、たるみが残りやすいのでI字も視野に入れる」というラインになります。
持病
当然無いほうが良いです。
体重もできれば70kg以下もしくはBMI30以下に落としてください。
持病があったら出来ないというわけではなく、主治医と相談の上で決めます。
健康診断で引っかかる程度(専門の病院にかかったときに経過観察と言われる程度)だったら多分問題ないです。
診断書
たいていどこのクリニックでも初診時に診断書の提出を求められますが、自費診療であれば、診断書はなくても手術は受けられます。あったほうがスムーズに行くと思います。
というよりトランスジェンダーじゃない人(シス女性)でも様々な理由で胸オペする人はいます。
保険
私の場合は全額自費で手術を受ける予定です。
というのも、診断書があっても先にホルモン治療をしてしまうと混合治療と見做され、本来保険適用になるはずの胸オペやSRSが保険適用外になってしまうという制度の欠陥にひっかかってしまうからです。まあ、GIDの診断書としては信頼性の低い早稲田ペーパーで保険適用になるなんて思ってないけどね…
私が行ったクリニックは基本的に保険適用の胸オペはやっていません。
初めからGIDのガイドラインに沿って治療を受けている人はジェンクリで紹介してもらった病院や医大など「ちゃんとした」ところで保険適用で手術するのでわざわざ自分で胸オペの病院を探したりはしません。
胸オペの費用(自費)は60~100万円程度と決して安いものではないので、特に若いFtMはGIDのガイドラインに沿って診断を受け、保険適用で胸オペしたほうがいいです。
希望する術式
私の場合は当初はU字切開を希望していましたが、I字切開で手術する方針に変えました(理由は後述します)
I字切開のほうが対応できる範囲が広く、U字切開でたるみが残ってしまうのが不安な場合は初めからI字切開にしてしまうというのもありですね。
Oクリニック
初めに行ったところです。首都圏近郊にあります。某Xジェンダーのブロガーの方がこちらで胸オペしたので以前から知っていました。
ここは美容外科なので、待合室や受付の作りがキレイです。
他の美容外科系のクリニックにも共通することなのですが、プライバシーへの配慮が十分にされていて、診察を待つ間も個室で待つことが出来ました。
私のような小汚いFtMはこういう場所だと居心地が悪いのでとてもありがたかったです。
診察室に呼ばれて部屋に入ると、診察してくれる先生と看護師(服装からして医療事務かもしれない?)の女性が待っていました。
簡単な問診を受けた後、乳房の状態を見るためにエコーを受けます。
で、先ほど「先生と看護師が待っていました」と書きましたが、この看護師の方は診察中ずっと同席しています。
乳房を丸出しにしている状態でも同席しているのはなんかやだな、と思いまして、帰宅してから(胸オペの診察であるところは伏せて)母にそれとなく尋ねてみたところ、どうやら「(美容外科でなくても)安全上や監視の意味で女性の看護師が待機している病院はたまにある」ということらしいです。
美容外科という場所柄、男性医師と女性の患者が二人きりになってしまうことが多く、それに不安を覚える人もいるためという事なのでしょう。
でも、個人的にはかなり戸惑いましたね。
話を戻します。
このクリニックでは、他のクリニックと同じようにU字切開とI字切開で胸オペを行っています。
まず、U字切開の説明を受けました。
私と同じような年齢・体型・胸の大きさの方のビフォーアフターの写真を見せてもらいました。
アフターの写真を見ても、残念ながら「男性の胸」には見えません。思わず先生に「これ、本当に術後の写真なんですか?」と聞いてしまいました。横向きの写真を見るとボリュームが減っているようには見えますが、女性の胸に見えます。
もちろん、見せてもらった写真は術後1か月ほどの修正する前のものですし、時間経過あるいは胸筋を鍛えることで写真よりはマシになるかもしれません。でも、せっかく手術したのにこういう仕上がりだったらがっかりするだろうなというのが正直な感想です。
I字切開の説明も受けました。
術式について特筆すべき点はありませんが、ここのクリニックの特徴は乳輪乳頭移植をせずタトゥーで再建するというところがあります。
I字切開は乳房の中身を取った分の余った皮膚を切り取り縫い合わせるのですが、その時に乳房のサイズによっては乳輪乳頭も一緒に切り取ることになってしまいます。そのような場合は基本的に乳輪乳頭を適切な位置に移植するという方法がとられますが、胸オペと同時に行うにしても、後から修正として行うにしても、壊死などのリスクがあります。
そのリスクを回避するために、このクリニックでは無理に移植せず再建するという手法をとっているとのことでした。
……まあ理屈は分かるのですが、いきなり「乳首は残さずに手術して後からタトゥーで再建します」と言われても、「はい、わかりました。やります」とは言えません。
その他細かいことも説明を受けました。
まだ1件目なのでとりあえず保留にします。
Iクリニック
こちらも美容外科です。都内のターミナル駅のすぐそばにあります。
こちらでは主にU字切開について相談しました。
こちらのU字切開の術式は、乳輪の周りを切開→中の組織を取り出すという基本的な流れは変わらないのですが、中の組織を取り出す前に乳房の上部から管を挿入し、中の組織を柔らかくしてから通常のU字切開の術式を行うという方法をとっているらしいです。
たぶん、脂肪吸引に使われる手法の一部を行っていると思います。とても画期的に見えましたが、実際の手術ではどのようなメリットがあるかはあまりくわしく教えていただけませんでした。
保留します。
Eクリニック
都内のクリニックです。こちらは上記二つの美容外科よりもよりGIDの診療に特化しています。
実はこちらのクリニックには早稲田通りこころのクリニックで診断書を書いてもらうよりも2年ほど前に一度訪れています。
当時はどちらかというとXジェンダー自認で、「性同一性障害としての診断書は書かずにホルモン治療だけできないか」という方針で相談しました。その時はあっさりと「じゃあ、打ってく?」といった感じでOKされ、ホルモン治療のための血液検査もしました。しかし、「そんなにあっさり決めていいものなのか」と悩んだと同時に、GID医療に不信感を抱き、血液検査の検査も聞かないまま2年放置していたわけです。
話を戻します。
こちらのクリニックでもU字切開について訊きました。
乳房の状態を見るために服をたくし上げると、指でかなり強めに乳房をつねられました。めちゃくちゃ痛かったです。会計が終わって病院を出てからもしばらく痛かったです。(たぶんこれは脂肪の硬さや乳腺の詰まり具合を見るもので、苦痛を与えるとか、これによって何かを試すとかそういう意図はないと思います)
いくら取りたいと思っている部位でもつねられたら痛いです。
肝心のU字切開の説明ですが、あんまり記憶にないです。
おおむねOクリニックと同様の内容だったと思います。
診察料として3000円程度を支払いました(他のクリニックでは初回のカウンセリングは無料の場合が多いです)
胸オペの料金自体も他のクリニックよりやや高めでした。
(正直ほかにもいろいろと細かい理由はあるのですが)2年前にホルモン治療を受けようと思った時の件も含めてクリニックに対して不信感を抱いているので、無し寄りの保留にします。
Jクリニック
都内のクリニックです。
電話予約した際の対応がちょっと微妙な感じだったので、心配でした。
説明された内容は大体他のクリニックと同じようなものでしたが、診察で院長先生が他のクリニックよりもより丁寧に説明してくれたのが好印象でした。
私は他のクリニックでは「U字切開でも出来ないことはないけれど、たるみが残っちゃうかもね」と言われていたのですが、院長先生は「あなたの場合は左の乳房のほうがやや大きくて(右利きの人は左の乳房のほうが大きい場合が多いです)下垂しているから、右だけだったらU字切開で充分だけど、たるみが残らないようにするならI字切開がいいかもね」という風に説明してくれました。
その他にも心理的な面で寄り添ってくれる姿勢を見せてくれたり、信頼できるという面ではここが一番かなと思いました。
タイのK病院・Y病院(某有名アテンドG社)
なるべく国内で手術する方針でしたが、タイでの手術についても参考程度に訊きました。国内外問わずFtMの手術に関しては業界トップシェア(たぶん)のアテンドです。
聞いたり調べたりしたことのメリット・デメリットをまとめるとこんな感じです。
メリット
・日本よりも技術が高い
タイは元々美容整形などの医療ツーリズムに力を入れているので圧倒的に症例数が多く、技術が高いです。
・術後に何日か入院できる
日本の病院だと術後は即近くのホテルに宿泊して、その際に付き添いが必要になるケースが多いのですが、付き添いを用意する必要がないのは楽です。私のように親や友人から支援を受けないと決めている人にとってはこれだけで選ぶ価値はあります。
・手術という苦痛が伴う出来事を非日常で乗り切ることが出来る
これは人によってはかなり大きなメリットなのではないでしょうか。
手術となると、その後のダウンタイムも含めて気持ちが滅入ってしまいがちですが、観光地にも近い場所で入院して手術を受けるとなると、ある意味強制的な現実逃避になります。
また、同じような境遇の人と交流が出来て仲良くなれるかもしれません。性別移行において誰かから意見を聞いたり、情報を入手することはかなり重要です。
デメリット
・体重、体型、年齢によっては制限がある、追加料金がある
術式や麻酔などに関わってくる部分の制限が国内よりも強めです。
体重(身長に関わらず70kgがボーダーらしい)や年齢によっては追加料金が発生します。
U字切開でやるつもりが、実際に診察してみたらI字切開でやりましょうということになったりします。
最後の術式に関しては、たるみに関して厳しいというだけなので、仕上がりには期待していいと思います。
・海外にいかないといけない
これに関しては人それぞれだと思うのですが、私的にはマイナスポイントですね。
SRSならまだしも、胸オペのためにわざわざ海外に行く必要はあるのかって思います。
観光できるというメリットはあるのですが、正直タイで観光する事に関してあまり興味が沸かない(本当にすみません)のと、術後に観光するのはキツイと思いました。
病み上がりで慣れない外国の料理を食べるのも、飛行機に乗って帰国するのも心配なので、私の場合は国内で受けたほうがいいかなと思いました。
・(昔は安かったけど)今はそんなに安くない
一昔前まではアテンドに支払う料金(手術代+アテンド代+その他諸々)のほうが国内での手術にかかる費用より安いか同じくらいだったのですが、今では国内での費用のほうが安くなっています。
まあ、タイでアテンド付きのほうがサポートは手厚いので、心配な人は多少お金がかかってもそちらを選ぶ価値は充分にあります。
個人的にはこの手のビジネスに関わるのが嫌なので、アテンドを介さず直に国内のクリニックに問い合わせて診察を受けるという方法にしました。
・帰国後に起こったトラブルへの対応が困難
胸オペに限らず、美容整形で起こったトラブルは原則として施術者が対処すべきというルール(不文律?)があるらしく、帰国後にもし何かトラブルがあったとしても国内の医療機関では対応してもらえない可能性があります。
しかし、これに関してはアテンドを利用した場合はアテンドに相談すればなんとかしてもらえる可能性が高いのであまり心配することはないでしょう。
G社だったら、先程紹介したIクリニックやEクリニックなどと提携しているためそちらに回してもらえます。
(参考)インドでの胸オペ
つい1か月ほど前(執筆時)にTwitterで回ってきた情報です。
えーと、FTMの方たち
— 하루군 (@tkorea_haru) September 14, 2024
インドで腹腔鏡で内摘すると
約170,000円だそうです。
陰茎形成は約1,350,000円
究極に費用を抑えたい方はどうぞ
胸オペが約10万〜なので
30万くらいあれば上下出来ちゃいますね
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胸オペに関してはこんなクオリティ pic.twitter.com/0XQk3e0Q0F
— 하루군 (@tkorea_haru) September 14, 2024
安いし(国内で保険適用変わらない金額)、仕上がりも悪くないですね。
調べた限り、インドでの胸オペについて、日本でアテンドを行っている企業や個人は見つかりませんでした。なので、行くとしたら個人で病院とやり取りして、ビザを取って行くしかないです。
ただ、慣れている人でないと個人で行けるような国ではないし、治安がよろしくないし(観光客だと分かると空港を出て10秒で金を騙し取られるなど経験しました)、衛生状態もよくない(サンダル履きは危険、特に変な物を食べなくても香辛料でお腹を壊す)ので、現時点ではおすすめできません。
それなりに英語が出来て、旅慣れている人は勇気があればどうぞって感じですかね。
結局どうしたか
費用面、術後の経過観察の条件などを含めて、Jクリニックにしました。
私の場合は「術後の付き添いがない」という条件だったため、その条件がクリアできなくても手術が受けられるという点で決めました。
あと、Jクリニックは国内でもかなり症例数が多いほうなので、技術的な面でも信頼性が高いと思いました。
術式のほうはI字切開に決めました。
初めから平らな胸板になったほうが、その後のボディメイクや容姿改善などのモチベーションが上がると思ったので。
次回は実際に手術を受けた時のエピソードを書きます。