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悪夢 青い果実の散花part15 エンディング① 紳一先生

「せん……せ………」


「せん…せい!……せんせい!」


呼び戻す声。誰かが俺を呼ぶ声がする。声は段々、はっきりとしていく。

眠りの泉に水滴が波紋を広げるその少女の声に、ゆっくりとだが閉じていた瞼を上に押し上げた。


「やっと起きた!」


ポワポワ頭の少女が俺に笑顔で話しかける。


「おはようっ、先生」

すぐ隣にいるボーイッシュな少女も、同じく。
俺の肩を微かに当たるよう叩く。

制服姿の少女達にとり囲まれている。

皆、笑顔、笑顔だ。

「ここは……?」

まなこが並ぶ少女達を見て左右へと泳ぐ。


「先生、まだ寝惚けてるの?先生の歌う番だよっ」

現役アイドルのせりかが、こちらに手に持ったマイクを突き出し、笑って口を尖らす。

「こんな賑やかなバスの中で、よく眠れますわね先生」

紫音が苦笑と呆れ半分にして投げかける。
確かに座席シートに座り、これまで寝ていたらしい。


窓の外の風景はカラリと明るい緑が続いていた。
鮮やかな発色をした木々達が風に揺れて、陽の光に照らされ左右にそよいでいる。そんな中を走っている。

そうだった。バス……だった。ここは。バス。

連なる緑がどこまでも続く山の景色の中を走っている。

目覚めた空間は、修学旅行中のバスの車内であった。

少しずつ取り戻した現実感を握りしめていく。


背が低いあまりに視界の小脇にいたひなが、眉を曇らせ、心配げに俺を見つめてきた。

「先生……どうしたの?」

キョトンと見つめるその顔。
伝染ってしまってこちらもキョトンとしてしまう。


そんな中、他方から、次から次へと声が投げかけられる。

「先生は私とデュエットしましょ」
「だめー!先生は私と!」
「流花とだったら!」

騒がしく楽しげな声にぼんやりが吹き飛ばされ、ついにはとうとう俺までも笑い出してしまう。
「ははは、じゃあ、よし、みんなで歌おうか」

貰ったマイクを手にして、俺はアニメソングを歌い出した。
わあっと少女達がはしゃぎ、誰かが手拍子を鳴らす。
バスは車内の穏やかな空間と歩調を合わすように、ゆっくりと森の道を進んでいく。

絶えることのない笑い声に包まれて……。



少し時間が経過しただろうか。窓の外にはポツポツと、空から降り落ちる雨粒の兆しが。
窓が徐々に濡れ、明るかった陽射しが隠れて、なんだか目に映る森の色調がどんよりと怪しく沈み出した。

なんとなく、さっきまで見ていた夢の中も、こんなふうに雨が降りしきっていた気がする……。

頭にそんな既視感が翳った瞬間、突如バスが車体を強く揺らし急ブレーキ停止をした。

「きゃあーーーーー!!」

急停止音と一緒に、少女達が衝撃につんのめる。


ダァーーーーーーン!!

狭い長方形の車内に一斉に悲鳴が破裂する。
重く響く銃声、が鼓膜を突き破った。

「いやーーーー!先生!先生ーーー!!」


「動くな!!」

押し入る複数の男どもの声。

……聞き覚えのある声。

バスの先頭前部にいた運転手は、既に鉛の弾で出来た穴を開けられ物言わぬ体となって座席から崩れ落ちている。

目の前の事態に頭の対処が追いつかなかったが、一人が持っていた銃を生徒達の前に向ける動作をした瞬間、俺はとっさに生徒達を庇おうと自分の体を動かした。

次の瞬間、男たちの一人が握っていた日本刀で、俺の体はバッサリと横に裁断された。

「がはっ……」


「いやあーーーーー!!先生っ!!先生ぇーーーっ!!」

顔の見えぬ少女の一人が駆け寄る。

俺の感覚は、自分の体を抱き抱える生徒の柔らかな温もりにしっかりと包まれて、やがて指先、目と、耳と、一つずつから失われていった。

吸い込まれていく、漆黒に。

俺の魂は、やはり、暗闇の森の中へと還っていく…………。





…………部屋の外からノック音がする。

目を開き、かけられていた上掛けを取り払うと、ベッドの中に横たわる己自身の体や手のひらを見つめた。

古びた腐りかけの木板のにおい。窓の外から響く雨音と雷鳴。わざわざ俺のために改装が施された部屋。

……申し訳程度に室内を小さく流れる、クラシック音楽。


終わりなき悪夢を、俺は行うのだった。






まさかの、夢オチエンドになっちゃいました。





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