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PMFとOn-Boardingプロセス設計に関する考察

皆さんこんにちは、Sansanの山田ひさのりです。

最近、当社でも新たなサービス・プロダクトが多くリリースされており、CS組織もそれに伴って、既存のお客様にクロスセル提案をしたり、新サービスのOn-Boardingプロセスを構築したりと大忙しです。

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私も1つの新サービスのOn-Boarding設計に向き合いましたが、その中でPMFとOn-Boardingの関係について大きな気付きがあったので、本日はそれについてまとめました。

PMFについて再学習してみた

PMF(Product Market Fit)はSaaS業界でよく知られている言葉ですが、その意味をきちんと理解している人は少ないかもしれません。かくいう私もそうでした。今回私は新サービスに向き合うにあたって、「このプロダクトってってPMF終わってるんだっけ?」という疑問が湧いたので、改めてPMFについて学習してみました。

ネットでPMFに関する日本語の情報をいくつか探しましたが、以下のnoteが最もしっくり来ました。

上述の記事の内容をざっくり要約すると以下です。

・プロダクトのフェーズは(理想的には)Problem/Solution Fit → PMF → Growth と進む
・そのプロダクトがPMFを達成しているかどうかは、「A:先行指標調査」「B:エンゲージメントデータ」「C:リテンションカーブ」で判断できる

A~Cの詳細は割愛しますので、同記事をご参照ください。

PMF達成の判断基準とは?

上記の記事の内容を踏まえて考えたところ、この問いに対する私の回答は以下です。

1)そのプロダクトにとって理想的な顧客のあたりがついている
2)そのプロダクトを継続利用してもらうための Retention Trigger が判明している

1)は単純で、「どういう顧客がこのプロダクトを買ってくれるのか?」という(B2B向けSaaSの場合は)企業単位のペルソナです。具体的には従業員規模、業種業態、売上規模、該当部門など定性・定量データによってこれを特定します。
2)はこれは私の造語なんですが、「プロダクトの継続利用をもたらすユーザーイベント」が Retention Trigger(以後、RT)で、これが判明している、もしくは仮説立てできている状態です。筋の良いRTが見つかっていれば、この数値を向上させることでプロダクトが継続利用がある程度保証されます。

Sansanを例に出すと、Sansanはクラウド名刺管理のサービスですが、ユーザー日々の名刺スキャン頻度が増えると継続利用されやすいことがわかっています。この場合「日々の名刺スキャン頻度」がRTといえます。

あとから教えてもらったのですが、Retention Trigger はSaaS界隈では Moment of Truth や Magical Moment と言ったりするそうです。勉強になります…

普通に考えてRTは特定が難しく、特定に時間がかかります。Problem/Solution Fit が完了しているのであれば必ず何らかの課題を解決しているはずですが、SaaSにおいて最も重要な継続利用を達成するために、全てのプロダクトはRTを探し当てなければなりません。そしてそれが見つかっていることがPMF完了の前提条件です。

2021.05.17追記

以下の記事で「顧客定着率(継続率が80%以上)で判断する」という記載があったので、方向性としてはこのRTの特定とその数値が一定以上であるという判断方法はそこまでズレていなと思います。

Retention TriggerとOn-Boardingの関係

私はカスタマーサクセスの人間なので、日々On-Boarding(以下、OB)など顧客の継続利用と向き合っています。Sansanのカスタマーサクセス組織はSaaS業界の中でもそれなりに進んでおり、2020年7月にその治験を活かして『カスタマーサクセス実行戦略』という書籍を執筆しました。

この本の中でも書いているのですが、CSの要はOBにあり、これを成功させるかどうかが後のサービス継続に大きな影響を与えます。私はSaaS業界の方からCSの相談を受けることも多いのですが、その中で、OBの期間と成功基準を決めることの重要性をよくお話します。その話をした時によく論点となるのが、「OBの成功基準をどうやって決めるか?」です。

OBの成功基準は「これを達成したら、その後もプロダクトの利用が継続的に進む」というポイントを通過することですが、これはよく考えるとPMFのRTと同じでした。つまり ”OBの成功” とは、「各顧客がGrowthフェーズに移行する準備が整った状態」と言えそうです。

もう少し掘り下げてみると、「OBの成功基準を満たしている」とは以下の状態を達成してることだと思います。
①RTが(組織ナレッジとして)ある程度判明している
②その上で(典型的な顧客向けに)RTを発生させる下地が整っている

①は上述のとおり、PMFの完了に必須なのでこれ以上説明はしません。ここでは、CSらしく②について考察してみましょう。

②はRTを連続発生させる理想的な状態とも言い変えられます。経験の浅いプロダクト開発担当には、便利なプロダクトを作ればユーザーは使うと信じている方もいますが、実体はそう簡単ではありません。SaaSの導入は本質的には個人だと習慣、集団だと文化に対する変化受領なので、導入に対する抵抗は想定以上です。そしてその抵抗を和らげる・取り除くのが現在のCSの役割です。

そう捉えた時、CSが果たすべき役割は、「RTが連続的に発生する状態にユーザー導くこと」となりそうです。そしてこれはOBの成功条件そのものなのです。例えばチャットサービスのSlackであれば、ユーザーが自身のプロフィールに顔アイコンを設定する行為は、重要なOB KPIと捉えられているそうです。これはSlackのRTと予想される、"POST頻度" を向上させるために重要な前提条件と捉えられているようです。

* 周囲のSaaS関係者と話した内容に基づく私の推察であり、事実かどうかはわかりませんが…

通常カスタマーサクセス戦略担当は、自身のプロダクトのOB成功基準を定義する必要がありますが、それは、「自身のプロダクトでRTを連続的に発生させる理想環境を突き止めること」とも言い換えることができます。

PMFが完了していなければOB設計ができない

これまでの論理展開を踏まえると、本節のタイトルの結論が導かれます。PMFが不十分なプロダクトは、一般的に言ってOB成功基準を設定できません。それは、

PMFが完了していない → RTがわかっていない → RTが連続発生する理想環境がわからない → 故にOB成功基準を決められない

というロジックが成り立つからです。

私も現在向き合っているサービスでOB成功基準を決めようと考えましたが、どうしても決めることができませんでした。その理由を自分なりに考えたところ、上記の推論を導くに至りました。

しかしこのことは逆説的に考えると、OBプロセスの完成からPMFを成り立たせに行く(RTを突き止める)ことが可能かもしれないことを示唆しています。
RTを探すことは非常に労力のかかることですが、ユーザーのプロダクトの利用状況だけを見ていてもなかなか着想を得ることができません。やはり、現場に出て顧客と会話し、そのプロダクトが導入されていくさまをリアルタイムで見てこそ気づくことも多いものです。

もし、OBの成功基準が定まらないことに悩んでいる人がいたら、それはおそらくRTが不明でPMFがまだ完了していないのだと思います。そしてそれは、OB成功基準の決定プロセスを通して、CSがPMFに協力できるチャンスでもあります。

OBに向き合うことでPMFを目指す

RTを突き止めることは簡単ではありませんが、プロダクトや顧客に向き合うことで一定の仮説を持つことは可能です。以下、私がRTを考える時の思考例です。

・ユーザーがプロダクト上で多くの時間を消費しているアクションに着目する
・ユーザーがプロダクトに対しモチベーションを感じた時に取るアクションに着目してみる
・プロダクトがROIを生み出す一歩手前のユーザーアクションに着目してみる

人によって発想方法はいろいろあるかと思いますが、上記のように抽象→具体で絞り込んで行くことがミソでしょうか。具体的なアクションを絞り込み仮説立てをたしたあとは、その仮説が正しいかどうかを検証する必要がありますが、仮説を持つこと自体はそれほどヘビーではないと思います。

CSとしては、RTの仮説が検証されていくと同時に、そのRTを連続発生させるための理想的な環境(=OB成功基準)を具体的に想像する必要があります。そして、これこそがCSとしての腕の見せどころです。
発想方法としては、「そんなの当たり前じゃん」と思うことをなるべく多く書き出してみることです。例えば、スマホメインのB2B SaaSを提供している場合、

・顧客の社員にスマホは貸与されているのか?
・Wi-Fiが繋がりやすい環境にあるのか?
・当該アプリはインストールされているのか?

などが十分であることが ”理想的な環境” に相当します。しかしこれらのことは極めて当たり前であるため見逃されやすく、「サービスが継続利用されない」ということになって初めて「実はこういうことが起こっていた」とわかったりします。

これらを事前に見通すためにはやはりユーザーの行動に寄り添うことが重要です。顧客は私達が想像しているよりも遥かに意外な行動を取りますし、その行動原理は当事者にしかわからないものです。私もCSを指導する立場であり、OB成功基準を指南する上で万能なフレームワークを持つことが理想なのですが、今のところ「顧客に寄り添う」という月並みであり、かつCSの真髄を愚直に実行する解決策しか持っていません。このことについては折りに触れて考えていきたいと思っています。

さいごに

昨今SaaSにおけるCSの役割はどんどん広がっています。今回のPMFとOBの関連性の明確化は、私にとって良い気付きとなりました。「PMFまだ終わってないやん…」と嘆くのではなく、そのようなチャンスを見つけたら、CSとしてできる事業支援のカタチを持ちたいものです。

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