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『半人前のガラス職人・ミスミは、今日も黒い石を磨く~前編』ヒスイの鍛錬・100本ノック㉕

【ご注意ください
 このお話、ややグロテスクな表現、に接触する部分があります。
 苦手な方、ごめんなさい。  ヒスイより】 


あるところに、ミスミという女の子がいました。
 ミスミの国では仕事は子供のころ、くじで決まります。くじに書いてある親方の家に行き、修業をするのです。そして十年後にひとりで仕事をするようになります。
 十二歳のミスミはガラス職人の修行をしています。カワセミ親方のところです。


「ミスミ、今夜は仕事をしよう」
 月が昇るころ、親方はそう言って寝台に横になりました。ミスミは明かりを消します。
 月光のなか、カワセミ親方の身体からすうと真っ白なものが立ちあがるのが見えました。白い親方は手をさしだしました。
「いこうか」

 親方はすううっと眠っている自分の体に指をすべらせました。指が通った部分に、深い裂け目ができました。
 親方とミスミはゆっくり、体の中に入っていきます。皮膚、筋肉と血。内臓の下に骨があります。ふたりは骨にもぐりこみました。
 骨のなかは暗いのです。ミスミはきゅっと親方の手を握りました。親方が笑います。
「ミスミ、おまえ、うちに来て何年だ?」
「四年です」
 親方はミスミの手を引きながら、骨の中をくだります。
「そろそろ自分の骨に入れるはずだな。次は一人でやってごらん」
「むりです。できません。こわいんです」
「なぜ、できないと思うかな。できるのに――お前はここで待っていなさい」
 親方はそう言うと、ひとりで骨の底へ向かいました。骨の底には黒い水があり、ぼんやりと何かが光っています。黒い、ごつごつした石のようなもの。親方は黒い石をひとつ取りました。

「帰ろう」
 ミスミと親方は来た道を戻ります。骨から出て内臓と筋肉をとおり、皮膚をくぐります。体の外へ出ると白い親方は石を置き、体に戻っていきました。
 夜の仕事は、これで終わりです。ミスミは自分の部屋でぐっすりと眠りました。

 次の日から、親方は黒い石を磨きはじめました。何度も何度も磨くと、石はガラスのウサギになりました。親方は言います。
「どういう形になるかは、磨いてみないとわからんのだ」
 ミスミはとてもきれいなウサギだと思いました。親方は満足そうにガラスのウサギを見て
「うまくできたな。この置物は王さまの宝物庫に行くんだよ」
 ガラスのウサギが王宮へ行ってしまうと、カワセミ親方はつぎのガラス細工に取りかかるのでした。


 ある日、親方の家にえらい役人がやってきました。役人は、鋭い槍を持った兵士を、連れていました。
「カワセミ、お前の作ったガラスのウサギが割れて、王様がけがをなさった。お前は十日後に縛り首だ」
 びっくりするうちに、兵士は親方を縛り上げて連れて行ってしまいました。一人残ったミスミはわんわん泣くばかり。

「どうしたらいいの。あたしは一人じゃ、何もできない」
 泣いて泣いて三日めの夜、ミスミはお腹がすいて倒れそうになりました。夜は暗くて寒く、家に食べ物はありません。死ぬのは痛くてつらい。
 そのとき寝台の下から声がしました。
「新しいウサギをつくれよ」
 ミスミが泣くのをやめて下をのぞくと、小さな黒い石がありました。親方が磨きわすれた石です。ミスミはかすれた声で言いました。

「作れないよ。一人で石を取りに行ったことなんて、ないもん」
 黒い石は、ころんと転がりました。
「じゃあ、あんた死ぬね。手伝ってあげるよ」
 黒い石はそういって、ぽっと火をともしました。そして火の玉になって親方の家に火をつけて回りました。
 炎は家じゅうにひろがりました。ミスミは泣きながら、はいずって家から出ていきました。

 家はあっという間に燃えつきました。真っ暗な夜のなか、ミスミは焦げた家の前で座りこんでしまいました。
 火の消えた黒い石が笑います。

「あんたじゃ むり」
「あんたじゃ むり」
「あんたじゃ むり」

 言葉が煙となってミスミに巻き付きました。もうだめだ、ミスミはゆっくりと倒れます。
 そのときどこかから、親方の声が聞こえました。
『なぜ、できないと思うかな。お前はもうひとりで、やれるはずなんだ』

 ふ、とミスミは目を開いてつぶやきました。
「あたしは――なぜ、できないと思うんだろう」
 静かに続けます。
「できるはずなんだ、ひとりで――できるはずなんだ」
 ミスミはよろよろしながら起き上がりました。そしてコトカタと笑い続ける黒い石をつかみます。
「できるはずだ! 新しいガラス細工を作っていけば、王さまは、親方を許してくれるかもしれない。失敗したって、もう失うものはない!」
 ミスミは黒い石の先で、さくっと自分の手の甲を切り裂きました。
 皮膚が開き、血がにじみ、肉が見えます。ミスミは一気に、自分の指先を手の甲に突っ込みました。

 身体が――ふわりと浮き上がる感じがしました。


【前編 おわり】
明日 公開の『半人前のガラス職人、ミスミは今日も黒い石を磨く~後編』へ続きます。


>゜))))彡 >゜))))彡 >゜))))彡
今回も、前編・後編です。
なんか、2000字以上を一気に出すのは
読む人もたいへんかなあと思うので、2回に分けます。

半人前のミスミがどうなるのか。
また明日、お楽しみくださいね💛


#NN師匠の企画
#ヒスイの鍛錬100本ノック
#お題は言葉

100本ノック 今後のお題:
三階建て←俳句←舌先三寸←真昼の決闘→夕日←春告げ鳥←ポーカー←課題←タイムスリップ←蜘蛛←中立←バッハ←お風呂←メタバース←アニメ←科学←鳥獣戯画←枯れ木←鬼←ゴーヤ

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ヒスイ~強運女子・小粋でポップな恋愛小説家
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