「僕の指は、勝手にきみのもの」ヒスイの【#春ピリカ応募】
目覚めたら、他人の指になっていた。
ほっそりした女の指が手のひらについている。
まさか、そんな。
だけど僕の指じゃない。左の薬指にはプラチナの結婚指輪がはまっているし。
どうしたらいいんだ。
ベッドの中で考えていたら、突然、指が動きはじめた。
ペンをつかむ。シーツの上に、
『助けて、殺される』と、書いた。
どうしよう。
この指の持ち主を、どうあっても探さなきゃ。
あてもなく探しても見つかるわけがない。指を眺めて考え込んだ。
ピンクのマニキュアをした指がひらひら動く。
え、なんだって?
指先が結婚指輪をしめす。
そうか、指輪の刻印。
はずしてみると日付と地名が読めた。
20×× Feb 29。
これだけか……まてよ、これ、うるう年じゃないか?
うるう年の29日に、特定の場所で結婚したカップルは少ないはず……。
そこからリサーチ能力を駆使してSNSで指の持ち主を探しはじめた。
2/29に結婚式の画像をアップしているカップル、さらに地名で検索。
この作業を繰り返して、ついに20代の夫婦にたどり着いた。奥さんの指が、これだ。そして僕の指は彼女のところへ……。
急がなきゃ。調べた住所へ向かう。車で20分くらいか。
シーツに書かれた『助けて、殺される』が頭の中で点滅している。
探し当てた場所にはアパートがあった。住所によれば2階の角部屋らしい。階段を駆け上がり、ドアを叩いた。
「すいません!」
返事はない。けれど、室内で何か暴れている音がする。
僕の掌で彼女の指が飛び跳ねた。
『危険なの! 早く開けて!』と言っているみたいだ。ドアノブをひねるとカギはかかっていない。
「あの、開けますねっ!」
ガバッとドアをひらいた。
そこには男に両手を押さえつけられている女性がいた。床に倒れ、目は白くなっている。
「大変だ!」
僕は二人の間に割って入り、女性の手をつかんだ。
「指、もとに戻れよ!」
すぽんっ、10本の指が彼女の手のひらから抜けた。
僕の手からもピンクのマニキュアの指がぬけた。
20本の指が空中で交差する。軽いキスでも交わすように……。
指は何事もなかったかのように、戻った。
若い夫婦は茫然と僕を見た。
「なんなの……指が、急にのどを締めて……」
「さあ、僕にもよくわかりません……」
「……はあ」
ぺこりと頭を下げて、部屋を出た。
後ろから、夫の不穏な視線が突き刺さる。
……くそ、気づかれたかな……。
この指を解放するときは、絶対に身バレない相手をさがすんだ。
アプリ、ブログ、SNS。今はオンラインがある。
仲良くなって二人きりになって、
指を、
開放する。
指の好きなようにさせる。
あの旦那さんが気づいたように……。
僕の指が、旦那さんの首を絞めたように。
立ち止まり、アパートを見上げた。
……ここ、もう一回来なきゃいけないかもな。
証拠を残したかもしれないし。
指が――
うずくし……。
【了】(文字数1153字)
今日は、『春ピリカ」に参加していますー!!
お題は「指」。
いや、昨日書き上げたんですけど
どうも気になって
相当書き直しました(笑)。
今出せるものとしては
これが精いっぱいです(笑)。
ピリカさーん、よろしくお願いします💛
#春ピリカ応募
ヘッダーはUnsplashのZachary Kadolphが撮影