「僕が捨てた彼女は、艶冶なカラス」ヒスイの毎週ショートショートnote
彼女の声が夜の町に響いたとき、僕が捨てた天使が歌っているのだと、すぐにわかった。
クリスマスイブの街角。華やかなイルミネーションの点滅にのって彼女の声が波のように寄せてくる。曲はベッリーニのオペラ『ノルマ』から『清らかな女神』。
伝説のオペラ歌手、マリア・カラスが得意とした名曲だ。
何も知らない婚約者は、
「オペラ曲かしら。すてきね」
僕は目を閉じる。
――佳乃(よしの)の声だ。張りのある高音、ソプラノ・リリコの声。
深い愛情を歌い上げる奇跡のオペラ歌手。
僕が、金のある婚約者のために捨てた女。
きみは僕を責めない、恨まない。
ただイヴの夜に、恋人に裏切られた激情の『ノルマ』を歌うだけなんだ。
僕が、何を失ったのか教えるために。
町中に僕の裏切りを艶冶に知らせるために。
歌が終わる。最後の音はキラキラと光を帯びながら消えていった。
拍手が沸き立ち、クリスマスのマリア・カラスは一礼して微笑む。
僕を見て『捨てたのは、あたしよ』と笑っていた。
【了】(改行含めず410字)
今週も たはらかにさんの「毎週ショートショートnote」に参加しています。お題は「クリスマスカラス」。
そしてへいちゃんは、今日もがんばって、クリスマスイブまでの
連作短編を公開してます!
おもしろいのよ。ファンタジーだけど、ホノボノだけじゃないのよ(笑)
また、本日の410字は、ヒスイ友のふぅちゃん短歌を
ベースにしています。
「おもちゃ箱みたいな街がキラキラと光り飲み込む誰であろうと」
ふぅちゃん
短歌や俳句にも「相性」があるらしく、
ヒスイは ふぅちゃんの短歌を詠むと
目の前に映像が即座に立ち上がってくるのです。
あとはもう、それを書くだけでいい(笑)。
なんてラクチンなんでしょう!!
ふぅちゃんがいる限り、ヒスイは書けない事なんてない、と思うほどです(笑)
ありがとうね。
ではでは。明日は一日、お休みをいただきますー。
また月曜日にお会いしましょうね💛
ヘッダーの写真はUnsplashのLandovanが撮影
※※ マリア・カラスによる『清らかな女神』。
開始2分くらいから歌が始まります。
カラスの圧倒的な超技巧、ドラマティコ・アジリタの声を
お楽しみくださいませ💛