「白紙の上でピルエット」ヒスイの秋ピリカ参加作
最強の独裁者に気に入られる方法を、知ってるか?
独裁者を徹底的に研究し、分析し、同じマインドを手に入れ、そいつになりきることだ。そして『第2の独裁者』になる。
といってもニセモノだから、統治するのは帝国じゃない。
小さな小さな帝国。つまり「家族」だ。
おやじは俺を虐待した。
ののしり、蹴とばし、ぶん殴った。おやじにはかなわない。背後に、この国の独裁者がついているんだから。
おやじは独裁者お気に入りの科学者だった。
おかかえ科学者だから、おやじの知性は世界平和に向かわない。
紙爆弾、段ボールで作った地雷、毒薬をしみこませた新聞、燃やすと毒ガスが出るインク……おやじの武器は精度が良くなかったが、どんどん作られた。
おかげで僕は再貧困の国で優美な家に住み、温かい物を食べ、穴のない服を着ていた。学校へは車で送迎。
そしてみんなに憎まれた。
誰も口をきいてくれず、ひとりぼっち。
教師さえ、おれを無視した。うかつにかかわって、独裁者お気に入りの科学者ともめたくないから。
おれは固く決心した。
おやじと正反対の立場になろうと。
つまり国をひっくり返す者であろうと。
大学で、おれはひそかにレジスタンスに入った。
ビラを作り、紙で情報を発信した。
世界には独裁者のいない国もあるって事を。
自由にしゃべれる国があるって事を。
ささやかな紙は手渡しで広がった。
おれは鼻高々。
おやじめ、今に見ていろ。この国が大騒ぎになり、独裁者がひっくり返る時が、あんたの死ぬ時だ。
おれの積年の恨みが花火となる日だ。
やがてレジスタンスは秘密警察に検挙された。
おれ以外の全員。
おれに冷たい目が刺さった。
「お前が密告した」「独裁者の手下の息子め」「うらぎりもの」
おれは検挙されなかったが、罰として異国へ追い出された。
おやじから一通の封筒だけを持たされて。
母国を出る船の上で、封筒を開けた。
なかにはひらりと紙一枚。
白紙だ。
ひっくり返して裏も調べた。ただの白紙。
待てよ、相手は悪辣な科学者だ。紙に毒薬を仕込んだのかも?
紙には保湿性もある。毒ガスを染み込ませた?
だが、毒はないようだ。
紙は貼り合わせも容易。実は二重? 繊維をちぎり取って調べたが何もない。
「バカらしい」
タバコに火をつけた時、手元の紙がふわっと舞い上がった。
空中をゆく紙に文字が浮かぶ。
「あぶり出しか!」
あわてて紙をつかむ。白紙に、炎に包まれた文字が踊っていた。
死のピルエットのように。
『お前は自由にお前は自由にお前は自由にお前は自由に』
ぽんと最後に文字がはぜた。
最強の独裁者に仕える方法を知っているかい?
相手を研究し、裏をかき、持てる限りの知性を駆使して最後の目的を果たすことだ。
愛するものを守ること。
数年後、レジスタンスは独裁者を殺し、側近を焼き殺した。
おやじは骨も見つからない。
のこったのは、白紙に燃える文字の記憶だけ。
おれは毎朝こう答える。
「あいしているよ、くそおやじ」
【了 1185字】
ヘッダーは、UnsplashのKazuo otaが撮影した写真
本日は #秋ピリカ に参加しております。
ギリギリよ(笑)、もちろん最終日ギリギリよ。
ここまで追いつめられないと、かけないのね(笑)
さらりとステキな作品を書かれてる方々が
ホンマにうらやましいです(笑)
でもいいの。
今のヒスイのてっぺん!で、書いたのがこれだもの。
それで、いいんです(笑)