『超リアル実況! ‟天よ、わが軍に味方せよ”』ヒスイの鍛錬・100本ノック⑭
「王、もはやここも陥落寸前。落ちのびる準備をなさってください」
参謀が土ぼこりのついた膝を突いて言った。白髭をたくわえた王は悠揚と参謀を見て
「金よ、よくみろ。わが軍にはまだ勝機がある」
「王よ。しかしながら一枚目の囲みを破られ、もはや御身ちかくにまで、危険な馬がやってきております。あれは、動きの読めぬ馬です。早めに撤退の指示を」
まてまて、と老いた王は周りを見た。
すでに多くの将が敵陣に取り込まれてしまったが、帷幕には頼りになるものが残っている。
王はゆっくりと、切り札に目をやった。
「――龍よ。ゆけ」
「はっ!」
と、すでに一度敵陣に突っ込んだあとの、直情径行な武神が立ち上がると、身支度もあわただしく、本陣から出ていった。その姿を幕僚全員が見守る。
「一騎打ちですな」
王はうなずく。
「あれはそうとう、やるだろう。とられた将を、取り返さねばならん」
やがて眼下で戦いが繰り広げられる。
馬が飛び跳ね、車がまっすぐに走ってくる。龍は前後、左右に自由に動きつつ、ややあって斜めに突っ込んだ。
敵の囲みがわずかに崩れる。隙間から、敵陣深くに身を隠す皇帝の姿が垣間見えた。
「――きたっ!」
王の隣で、親衛隊長が高い声を上げた。
「王っ、いまこそ全軍で攻め込みましょう」
ふあっ、と痩身の王はわらった。
「よし。わが軍はすでに片角を失っておる。波状攻撃だ、畳みかけろ」
ざんっ、と残りの将は一斉に立ち上がり、老いた王に礼した。
「いざ、戦場へ!」
「ちょっと、澄。あんた、お父さん(Daddy)と、おじいちゃん(Grand-daddy)の将棋を見ながら、何をぶつぶつ言ってるのよ」
「リアル実況中継。だって面白いんだもん。‟DとGの戦い”」
《了》
#NN師匠の企画
#ヒスイの鍛錬100本ノック
100本ノック お題
薬草←関市←ワイン←ジェンダーバイアス←サウナ←温熱ソックス←くじら←昔話