「シュクル・アン・モルソー~立方体とインコの記憶」毎週ショートショート⑦
6歳児にとってペットのインコが逃げ出すのは、この世の終わりに近い。
その日、私は庭で半日泣いていた。逃げたインコは学校になじめない私の親友だったから。
『探しに行く!』とわめいたが、忙しい母はちらっと見ただけ。
そこへジローおじさんが来た。大きな目をぎょろぎょろさせ、いつも怒ったみたいな顔をしている。
私はおじさんが、こわい。
おじさんは、
「翠(みどり)、ちょっと出るか」といってひょろん、と歩きだした。祖母がそっと手を振る。私は仕方なく一緒に出た。
おじさんは川っぺりを歩いた。
歩いた。
歩いた。
歩くだけだ。
「インコ、いねえなあ翠」
あたしのなかで堅いものが、ほぷん、とはじけた。
ふへえええん!
秋の風を受け、大声で泣く私におじさんは手を出した。
「ほら」
白い角砂糖。
私は泣きやんだ。口に入れるとかっきりと甘さがひろがる。
おじさんの角ばった顔が、ほへり、と笑った。
それきりインコは戻らなかったが、立方体の甘さは、今も私の口に残っている。
【了】(改行含まず410字)
Sucre en morceaux(シュクル・アン・モルソー)は、フランス語で
角砂糖のことです。
たはらかにさんの「毎週ショートショート」に参加しています。
お題は「立方体の思い出」です。
へいちゃんのは、こちら。
季節も入って、とてもほんわかしたショートショートです。
ヒスイは大好きです!
ヘッダーはDavid BawmによるPixabayからの画像
たぶん。また明日も書きます(笑)。
みなさまも、体調にはお気をつけて。