「タイムスリップコップ。一滴を、きみに」ヒスイの410字　【毎週ショートショートnote】

僕の前にコップがある。
手を伸ばす。消える。
待つ、出る、消える。

このコップは『タイムスリップコップ』。勝手に未来や過去へ行ってしまう。僕と同じ時間にいない。
だけど。
僕はコップが欲しい。

中の水が欲しい、彼女のために。

だからずっと考えている。コップをつかむ方法を。


思いついた。
僕もタイムスリップしよう。
僕とコップの時間軸はズレているけれど
ズレ続けていけば、いつか、どこかで重なり合う。

僕はタイムスリップを始めた。
過去へ。未来へ。
コップも勝手にスリップする。その姿を時々見かけた。僕は辛抱強く旅をつづける。

そしてあるとき。
僕とコップの時間軸が、ぴたりと合った。
手を伸ばしてコップを取り、水がこぼれないように抱えて、祈った。
お願いです。
帰らせてください。

僕は出発してから、たった二分後に戻った。


赤ん坊がいる。僕の娘、この世代さいごの赤ん坊だ。
僕はコップを傾けて、彼女の乾いた唇を濡らす。
娘がうるおう。

彼女の未来が、花ひらいた。


【了】（408字　改行含まず）


ヘイちゃんの「タイムスリップコップ」は、こちらです！
このお題で2作あります。ヒスイは、どっぱーん！が好きです(笑)

たらはにかさんの「毎週ショートショート」に参加しています。

#毎週ショートショートnote


明日は……きっと更新します。
だってもうじき、
月末だもの！！！　ねえ、はそちゃん(笑)！


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